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スケープゴート  作者: 時雨瑠奈
悲月殺人事件
8/15

第七幕 ~決意する心~

 木更津一樹きさらづかずきは一人で部屋に

籠っていた。仲間たちが訪ねてきたけれど、

無視して部屋に入れたりはしなかった。

 もう放っておいてほしい。

自分のことなんて、もう放っておけばいいのだ。

 投げやりな気分で一杯だった。

いつのまにか、一樹は眠りに落ちていたーー。


 夢の中で、一樹は何もない空間にいた。

いるのは自分だけ。そして、家具さえもない部屋に一人。

 一樹はこれが夢であると認識していた。

なぜなら、桃香がいたからだ。

 死んだはずの、彼の恋人、神無月桃香が。

彼女は悲しそうな顔で一樹を見つめていた。

 一樹は彼女に触れようと手を伸ばす。

彼女の頬に触れてみたけれど、やはり

感触はなかった。温かみも感じない。

 やはりこれは夢なのだ、と一樹は思った。

〝一樹、どうしてやってもいないことを

認めようとするの? 私は、嫌だよ。

一樹がやってもいない罪で裁かれるのなんて嫌だよ〝

 桃香が今にも泣きそうな声で語りかけてくる。

一樹は何も言わず、黙ってそれを聞いていた。

 桃香は昔からそういうところがあった。

嘘やいつわりを誰よりも嫌い、誰よりも正義感が強く、

そんなに強くないというのに、よくいじめっ子につっかかっていた。

 もちろん勝てるわけはなく、一樹がやってつけていたけれど。

〝一樹は、弥生さんも、私も殺してない。

辛いかもしれないけど、逃げるのは駄目だよ〝

 桃香の茶色の目に涙がにじむ。

事実を突き付けられ、一樹はカッとなって叫んだ。

「お前が死んだからいけないんだ!!

 犯人に殺されたりしたから!!」

 びくっ、と桃香が肩をすくめた。

一樹は自分を責めたい想いでいっぱいになる。

 殺されたのは桃香のせいではない。

彼女は被害者だ。八つ当たりだと分かっているのに、

どうしても口は止まらない。

「桃香に俺の気持ちが分かる訳ないだろ!!

 残された俺は、どうしたらいいんだよ!!

なあ、教えてくれよ、桃香!!」

 一樹は桃香の肩を掴んで揺さぶった。

胸の痛みをすべてぶつけるかのように、

彼女を責め立てた。

 しかし、もう桃香は泣いてはいない。

一樹が好きな、凛とした瞳で彼を見据えていた。

〝ううん、一樹には、もうどうしたらいいか

分かってるはず。真犯人を、見つけて。

復讐なんていい。一樹のために、犯人を見つけて。

もう、私が夢に出るのはこれが最後だよ〝

「桃……香……」

 ぐいっ、と桃香が一樹を引き寄せた。

力はこっちの方が勝っているはずだが、

軽く彼女に引き寄せられた。

 彼女の桜色の唇が彼の唇に触れる。

夢のはずなのに、ここで初めて明確な感触が感じられた。

温かい体が、唇が、一樹を癒していく。

〝さよなら、一樹。天国で待ってる。

あなたは、生きて〝

「桃香!! まだ行くな!! 俺のそばに……」

〝ずっと、あなたを見守ってるから〝

「桃香!!」


 起きた時、一樹はいつもの部屋にいた。

桃香はやはりいない。

 だが、部屋にはふわりと桃の香りが満ちていた。

ちょうど、本当に桃香がいたかのように。

「一樹!! 開けて!! 食べないと、死んじゃうよ!!」

「おい!! いい加減にしないと桃ちゃんが悲しむぞ!!」

「一樹さん!! 開けてください!!」

 ドンドンと扉をたたく音が聞こえてくる。

一樹は泣きそうな気持になりながら部屋を開けた。

 何があっても、自分には、信じてくれる仲間がいるのだ。

絶対に、桃香を殺した犯人をこの手で捕まえて見せる。

 警察なんて、もうあてにはしない。

自分たちだけで、犯人を見つけるのだ。

 新たなる決意を胸に、一樹は今にも泣きそうな

顔をした三人を見つめていたーー。


一樹が桃香の夢を見ます。

死んでからも見守っていて

くれている彼女に、

ついに一樹が立ち直ります。

次回は第三の殺人。

どんどん人が死んでいき、

事件の終焉が近づいています。

次回もよろしくお願いします。

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