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スケープゴート  作者: 時雨瑠奈
悲月殺人事件
3/15

第二幕 ~失ったモノ~

 他に洋館に泊まっていたのは、

政治家だというお偉い先生の弥生和彦やよいかずひこ

と、その秘書、渚竜也なぎさりゅうや。そして、旅館のオーナーの

娘でイタリア語が堪能だという女性、睦咲莉子むつさきりこ

 休暇中の警察関係者、大江川大五郎だった。

 それで客は以上である。オーナーも経営者も洋館には

おらず、メイドだという崎原葉月に一任されているらしかった。

「何かありましたら、私におっしゃってください」

 ニコリと笑う葉月に、サッと手を挙げたのは、莉子だった。

ショートボブの栗色の髪を揺らし、睨むように彼女を見る。

「お父様は? なんであなたがここの全権を握ってるのよ、

葉月サン。経営者もどこへ行ったのよ」

「そんなこと言われましても、私に全権を任せるといったのは、

オーナーですわ。莉子さま」

「ふん、上手くお父様に取り行ったのね」

「違います!! 莉子さま、それは、オーナーに対しての侮辱ですわ!!」

 かなりの大声で葉月は莉子を怒鳴りつけた。

莉子は、メイドに怒鳴られたという怒りよりも、大人しい女性に大声

を出されたという驚きが勝ったようで、口をつぐんでいた。

 それから目をそらし、黙ったまま部屋を出て行ってしまう。

 バタン、と扉が閉まる音が響いた。

「莉子さま!!」

 葉月は追うか追わないか迷っていたようだったが、

追うのをやめたようで、一樹たちに目を移した。

「何か入用なものは、ございませんか?」

「あの~……」

 続いて手を挙げたのは、一樹たちのつれの少女、八乙女瑠美奈だった。

少しはにかんだように口ごもりながら、彼女は口に出した。

「ジュースとかってありますか? 私のどがかわいてしまったんです」

「わかりました、ルミナさま。……他の方は、どうします?」

「私もお願いします」

「あたしも~」

「俺はお茶でお願いします」

「俺もお茶」

 神無月桃香、斎藤千鶴、木更津一樹、北原大地の順に返事が返った。

他の男たちは手を上げなかった。

「かしこまりました」

 葉月は部屋を出て行き、少ししてから、注文の物を持って戻ってきた。

 二人には麦茶、三人にはジュースが配られる。

 ジュースは種類がバラバラだったので、それぞれで選んだ。

瑠美奈がカルピス、千鶴がソーダ、桃香が、偶然にも桃のジュースだった。

 ジュースやお茶を飲み終わってしばらくすると、一樹は桃香と裏庭を

散歩することにした。瑠美奈たちも誘ったが、千鶴たちは洋館の探検が

したいからと断り、瑠美奈は邪魔したら悪いですから、と一緒には

来なかった。



 一樹と桃香は、木が茂る場所で歩いていた。鳥の声が聞こえて来て、

桃香の口がほころぶ。一樹も笑った。

「いいね、こういうところ。涼しいし、鳥もいるし。

他の動物いないかな、リスとか!!」

「そうだな、すごくいいな。誰も来ないし」

 一樹は桃香を抱き寄せた。彼女の頬が桃色に染まる。

だが、嫌がりはしなかったので、彼はさらに、痛くないくらい

まで力を込めた。

「好きだよ、桃香」

「私も、一樹が、好き……」

「これ、桃香にやるよ」

 一樹は彼女に香水の小ビンを手渡した。

それは桃の花の香りがした。

「ありがとう、一樹……」

 二人の唇が近づき、桃香が目を閉じる。

 一樹と桃香の唇が重なった。

 とーー

「きゃあっ!!」

 悲鳴が聞こえて来て、彼らはギョッとなって離れた。

誰だ!! と一樹が誰何すいかの声を上げると、

ガサガサと草をかき分ける音の後、顔を真っ赤にした

瑠美奈が出てきた。

 すべて見ていたようだ。

「ご、ごめんなさい、私、迷っちゃって!! そしたら、一樹さん

たちの声が聞こえたから……」

「俺も、ごめん。大声出しちゃって……。一緒に戻ろうか」

 恐縮しながらも瑠美奈が頷いたので、彼らはとりあえず

洋館に戻った。悲劇が起ったのは、翌日になってからだった。



 その夜、全員は洋館の広間に集まり、コーヒーを飲んでいた。

「一樹さん、どうぞ」

「ありがとう、瑠美奈ちゃん」

 瑠美奈からコーヒーを受け取り、砂糖とクリームを入れてから

一樹はそれをすすった。他の人たちには、葉月が配っている。

 コーヒーを飲んだ後、ほとんどがそこに残ったが、莉子は

自室に戻り、一樹・瑠美奈・桃香も部屋に戻った。

 一樹は眠気を覚え、すぐに眠ってしまった。

それが、彼の不幸の始まりだった。




「きゃあああああああっ!!」

 翌朝、瑠美奈の悲痛な声が響いていた。

あの後、千鶴たちは広間でそのまま眠って

しまったのだが、驚いて桃香の部屋に急いだ。

 桃の花のきつい匂いが部屋にたちこめている。

 桃香は、胸をナイフでさされて死んでいた。

愛しい人の抱擁を求めるような恰好で。

「桃!! どうして、なんで桃が死んでるのよ!!」

「わ、私、昨日桃香さんの部屋で寝ていたんです!!

 でも、起きたら、し、死んでて……」

 瑠美奈はボロボロと涙を流し始めていた。

 大地はすぐに一樹の部屋の戸を叩いたけれど、

彼の反応はなかなかなかった。

大声で呼んでも返事がない。

 最終的に、ベッドから蹴り落としてやっと

一樹は目を覚ました。

「なんだよ、大地……。いきなり……」

「大変なんだ、一樹!!」

「は?」

「桃ちゃんが、桃ちゃんが、死んでるんだ!!」

「なんだって!?」

 一樹はそれを聞いて覚醒し、慌てて桃香の部屋

に飛び込んだ。もう動くこともしゃべることもない

体を抱きしめ、大声で泣いた。

「なんでだよ、桃香。昨日はあんなに元気で……

桃香あああああああっ!!」

 その声を聞きつけ、集まってきた人々は

悲しそうな顔をしていた。

 警察関係者の、大五郎以外は……。


ついに桃香が亡くなります。

大五郎に疑われる一樹。

彼は自力で推理を読み解いて

いきますので、次回もぜひ

見てください。

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