第十四幕 ~第一の殺人のトリック~
木更津一樹は眠い目をこすりながら
自室から抜けだした。昨日はいろいろ
考えて眠れなかったのだ。
犯人の正体が分かった。
しかし、その犯人は疑いたくない人物
だった。動機さえもわからない。
なぜ、彼女がこんな事をしたのか。
なぜ、桃香が殺されなければならな
かったのか……。
「一樹……」
気遣わしげに声をかけてくれたのは
斎藤千鶴だった。一樹は曖昧に笑い
ながら八乙女瑠美奈を見つめている。
瑠美奈は気づいているのかいないのか、
いつものように明るく笑っていた。
一樹はそんな彼女に言葉をかけられない。
千鶴が場を明るくさせるために大声を出した。
「瑠美奈、おっはよーう!」
「おはようございます、千鶴さん。今日も元気
ですね」
にこにことした笑顔を見ていると、どうしても
彼女が桃香を殺したとは思えない一樹だった。
しかし、彼女の鞄からは動かぬ証拠が出て来た。
赤いシミのついたタオルも部屋に存在していた。
もう犯人は彼女としか考えられそうにない。
「おーい、一樹、食事作りに行こうぜ」
今日の当番は一樹と北原大地だった。その事を思い
出した一樹は声をかけた大地についていく。
大江川大五郎は料理には一切手を貸さないし、渚竜也は
いまだに閉じこもっていて出てくる気配さえない。
なので、実質料理当番は千鶴・瑠美奈、大地・一樹と
なってしまっていた。一人一人でやらないのは、四人分を
一人で作るのが大変だからという理由と、瑠美奈を一人に
して万が一毒でも仕込まれたら……という理由の二つだ。
「――犯人、瑠美奈ちゃんだったんだって?」
一樹以外は誰もいない厨房に着くなり大地は気遣わしげな
視線を一樹に向けてそう言った。
一樹はうん、と小さくうなずく。
「今でも……信じられないんだ。彼女が、桃香を殺したなんて。
だって、あの子と桃香の接点なんてないはずなんだ。
桃香はあの子と知り合いじゃなかったみたいだし」
「俺も信じられないよ。彼女まだ俺らと比べても幼いしな。
千鶴も信じられないって言ってたよ」
「――一樹さん」
「「うわああっ!!」」
いきなり瑠美奈に声をかけられた大地と一樹は同時に叫んで
飛び上がった。瑠美奈は首をかしげている。
「どうしたんですか?」
「ど、どうしたも何も……いきなり声をかけられちゃ驚くって!
こっちは料理の材料を探してたんだぜ?」
「ご、ごめんなさい。救急箱がどこだったかと思いまして……」
瑠美奈の指から真っ赤な鮮血が滴っていた。まるで、何かに
ひっかけでもしたかのように血が吹き出ている。
一樹はハッとなった。それに気付いた大地が瑠美奈を救急箱の
所に案内するフリをして厨房から連れ出す。
二人の足音が聞こえなくなるや、一樹は窓から飛び降りると
草むらに着地した。微かな痛みは感じるが、厨房は一階なので
大した事はなかった。
一樹が向かったのは桃香の部屋からちょっと遠い場所に生えて
いる樹木である。息を切らせながら近寄ると、瑠美奈の物と思われる
血が点々と飛び散っていた。木の部分についた血はぬぐったのだろうが、
まだ赤いシミの噴き残しがある。
瑠美奈は証拠を始末するために怪我をしたのだと一樹は思いいたった。
きっと、テグスか何かの糸のような物を取り去る際に、取りつけた金具か
何かで指をついてしまったのだろう。
テープレコーダー、どこからか飛んだのか分からないナイフ、まるで
恋人を抱きしめる様な態勢で死んでいた桃香、それが一つになった気がした。
「トリックが分かった! 後は……弥生和彦の犯行時の武器さえ分かれば!!」
瑠美奈を告発しなければならないのか。一樹の表情は、トリックが分かったと
言うのにあまり嬉しそうではなかった――。
ついにスケープゴートの次話投稿が
出来ました。一樹が第一の事件のトリックに
気づきます。第二の事件、第三の事件と次々
トリックを暴いていき、さらに犯人を追い詰める
パートへと移っていきます。
あまり目新しいトリックはないのですが、楽しんで
いただけると嬉しいです。