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スケープゴート  作者: 時雨瑠奈
悲月殺人事件
14/15

第十三幕 ~真犯人発覚と一樹の苦悩~

 木更津一樹は今日も事件の手掛かりを探していた。

警察官大江川大五郎の許可を取り、今日は死んだ人達の

部屋を一部屋一部屋回っていた。

 被害者は神無月桃香、弥生和彦、睦咲莉子、そして島原葉月の

四人だけ。容疑者は一樹を含め、八乙女瑠美奈、大江川大五郎、

北原大地、斎藤千鶴、渚竜也の六人のうちの誰かだ。

 竜也は莉子とは恋人同士だったし一樹としては早々に除外して

しまいたいのだったが、残る容疑者の事を考えるとちょっと難しく

なってくる。大地や千鶴は人殺しなどする人達ではなかったし、

大五郎は一樹に裏取引を申し出た最悪な人物だが借りにも警察

関係者である。そうなると残りは瑠美奈しか残らない事になる。

 瑠美奈は時折何故か暗い視線を向けるようにもなってきたが、

やっぱり一樹達より幼い少女で人を殺すところなど想像も出来ない。

 一樹は被害者の一通りの部屋を見ても手掛かりはつかめなかった。

諦めかけながらも再度被害者達の部屋を回っていた時の事だった。

 莉子の鞄からとある物が発見されたのだった。

それはイタリア語の教科書だった。莉子はイタリア語を勉強していたと

死ぬ前に聞いたことがある。何の気なしにそれをめくっていた一樹は、

ある一点を見たときにぎょっとなってしまった。

 『ルナ』。イタリア語では月の事をルナというらしい。

一樹の顔から血の気がすうっと引いていく。

 瑠美奈の苗字は八乙女だ。乙女をどかしていくと八だけが残る。

そしてルナ、一見彼女には関係のない名前にも見えるが、瑠美奈の『み』、を

除外してくと『ルナ』という字だけが残る。

 莉子のダイイグメッセージ・ハチノツキとは、島原葉月ではなく、

八乙女瑠美奈の事を示していたのだろうか。

「桃香……君を殺したのは、瑠美奈ちゃん、なのか……?」

 一樹はボソリと呟いた。死んだはずの桃香はもちろんここには

いないので誰も答える声は無い。一樹は無意識のうちに上着のポケットに

入れていた桃の花の香水の瓶を引っ張りだすとフタを取っていた。

 桃の花のいい匂いがその場にただよう。

と――。

「かーずき!!」

「わああっ!?」

 いきなり後ろから千鶴が抱きついてきた。びっくり仰天した一樹は

思わず香水の瓶を落としてしまいそうになり慌ててふたをしめると

大事そうに胸に抱え込んだ。

「な、何だよ千鶴!! 割っちゃうところだっただろ!?」

「あれ? 一樹って香水つける人だっけ?」

「俺のじゃないよ。桃香の墓に備えようと思って買ったんだ。

千鶴だって聞いてるだろ? 桃香が香水を俺からもらったこと」

「えっ!? 何それ!? あたし聞いてないよ?」

 千鶴は本当に不思議そうな顔で聞いてきた。続いて、ぷうっと

頬を膨らませて桃香が隠し事をした事にすねる。

「千鶴……えっと、もう一回今の言葉聞かせてもらってもいいか?」

「だから、桃香から香水の事なんて一度もあたし聞かされてないの!!

 いつも同じ匂いのポプリ持ってたから気付かなかったし!!」

再び一樹の顔から血の気が引いた。千鶴は、桃香から香水の事など聞いては

いなかった。だったら、瑠美奈はいつどこで一樹が彼女に香水を渡した事など

知っていたのだろうか。親友である千鶴に言わないのに、出会ったばかりの

瑠美奈にだけそのことを話したとは考えられない。そして、一つの事に思いいたる。

 彼女は、聞いていたのだろうか。一樹と桃香の会話を。

たまたま聞いてしまったのならどうして嘘などついたのだろう。

 一樹は疑心暗鬼にかられてしまいそんな自分を嫌いそうになった。

「あの、さ。千鶴……ちょっとお願いがあるんだけど」

「お願い?」

 千鶴は首をかしげていたが、桃香を殺した犯人を見つけるために必要なんだ、と

一樹が言うと二つ返事で了承してくれた。

 千鶴には瑠美奈を連れて部屋の方から離れてもらった。

一樹が目指したのは瑠美奈の部屋である。

 誰かの鞄を探ったりするのはプライバシーの侵害だし一樹もちょっと

ためらったのだが、意を決して瑠美奈の鞄を覗きこんだ。

 ……あった!! 一樹はひょっとして、と思ったものを瑠美奈の鞄から

発見した。それはテープレコーダーだった。証拠隠滅のためか壊れたカセットが

入っている。カセットの黒いフィルムは一部分だけ破れていた。

 ポケットにしまいこまれた黒いビニールの切れはしをくっつけてみると

ぴたりと会うのが分かる。一樹は悲しげな顔をしながら瑠美奈の鞄を閉じた。

 まだ彼女がどうして桃香を殺したのか、そしてそのトリックも完全には

暴けていない。だが、これで一樹は桃香を殺したのが彼女だと確信していた。

 信じていたかった。疑いたくなどなかった。

あんな無邪気な少女が人を殺しただなんて……。

「桃香……ッ!!」

 愛しい少女の顔を思い出ながら一樹は一人拳を彼女の部屋の床にたたきつけた――。

ついに一樹が真犯人を見つけます。

 疑いたくなかった自分と気持ちと

真実を前に葛藤する一樹……。

 次回は一樹がどんどん犯人の

トリックを暴いていきます。

 次回もよろしくお願いします。

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