第十一幕 ~事件再探索~
木更津一樹は地面にはいつくばって事件の手掛かりを探していた。
その場にいるのは一樹だけではない。斎藤千鶴、北原大地、八乙女
瑠美奈も同じように事件の手掛かりを探していた。
一樹に、葉月が犯人とはどうしても思えないから一緒に手掛かりを
探してくれ、と言われたのである。
決意の顔で瑠美奈が頷き、他の二人にも異論はなかった。
渚竜也も誘ったのだが、「今は一人にしてほしい」と部屋に閉じこもって
しまっていた。警察官である大江川大五郎は犯人が死んだのだからこれで
事件は終わりだと歯牙にもかけない。
そこで、一樹たちは大五郎には見つからないように事件を解決させる
事に決めたのだった。最初は桃香を殺した犯人が憎かった一樹であるが、
今はどうして犯人がこんなことをしたのかと思う気持ちが強かった。
葉月の真実なのか嘘なのか分からない遺書を見たからかもしれないが、
犯人にも事情があるような気がしていたのだ。
瑠美奈も一樹も千鶴も大地も黙々と手掛かりとなりそうな物を探していた。
もちろん指紋を残さないようにとの配慮から全員軍手着用である。
と――。
「一樹さん!!」
瑠美奈が鋭い声を上げた。三人が慌てて彼女に駆け寄る。
瑠美奈の手には黒いビニールのような何かがあった。
切れ端らしくひどく短い。
「これ……なんでしょうか」
「ビニール紐じゃないの? 何か縛ってたとか」
「でも、短いな。切るとしてもここまで短くするか?」
一樹たちは話会いながらビニールの切れはしらしき物を取りあげ、
一樹が代表でポケットに放り込んだ。
結局今日はそれ以上いい結果は出せないまま日が暮れてきたので
一旦引き揚げることになったのだった。
いつも料理をしてくれていた葉月がもういないので、瑠美奈と千鶴が
今ある材料でできる簡単な料理を作ることになった。
が――。
「痛いっ!!」
包丁を手に取った瑠美奈がいきなり大きな声を上げたので、慌てて一樹
達が台所に走り寄った。瑠美奈は薬指を抑えている。
「どうしたんだい瑠美奈ちゃん、指を切ったの?」
「いいえ、この前怪我をしたところが痛んだんです……」
一樹が指を覗き込むと、何か針のようなもので怪我を
したような跡があった。しばらく瑠美奈は一樹の顔を見つめていたのだが、
何か特別な反応が来ないのが分かってつまらなそうな顔になった。
「瑠美奈ちゃん?」
「もういいです」
千鶴が新しいおもちゃを発見した子供のような顔になった。
瑠美奈の肩をつついてからかうように言う。
「瑠美奈ちゃんってひょっとして一樹のこと――」
「そ、そんなんじゃありません!!」
真っ赤になって否定する瑠美奈に、皆くすくすと笑いだした。
怒った瑠美奈が千鶴を追いかけまわし、千鶴がきゃあきゃあ
言いながら逃げ回る。料理を作るのに時間がかかってしまったのは
当然の結果だろう――。
千鶴と瑠美奈はそこまで高度な料理はできなかっため、昼食と
夕食な簡単なサンドイッチになった。
一樹達と大五郎はそれをおいしそうに食べたのだが、やはり竜也は
部屋に閉じこもって出て来なかった。瑠美奈が持って行ったのだが、
サンドイッチの乗った皿は減ることなく外に出されていた。
その後、一樹はこっそりと大五郎に見つからないように抜け出すと、
町に行き香水の瓶を買ってきた。桃香の墓の前に立った時に、以前送ったのと
同じ香水の瓶をそなえるためにである。一樹はそれを購入した後にすぐ戻って
来ると、自分の部屋に閉じこもった。一度ふたを取って匂いを嗅いでみると、
甘い桃の匂いが部屋中に広がった。桃香のポプリにもよく似たいい香りである。
「桃香……」
「一樹さん、ちょっといいですか」
「あ、ちょっと待って!!」
一樹は慌てて香水瓶のふたをしめると枕の下に敷いてそれを隠した。
それから瑠美奈にOKの返事をすると、瑠美奈はすぐに入ってきた。
ちょっと恥ずかしそうにしながら彼を見つめる。
「一樹さん、千鶴さんの言ったこと、きにしないでくださいね?
私、あなたのこと好きじゃないですから!! あ、え、えっと
仲間としては好きですけど男性としては――!!」
必死に弁明しようとする瑠美奈に、思わず一樹は笑いをこらえるのに
必死だった。笑いそうになりながら言う。
「うん、大丈夫。誤解なんてしてないよ」
「だといいんですが……あら、この香りいいですね。香水ですか?
桃香さんつけてましたよね?」
「瑠美奈ちゃんは桃香に聞いたの?」
「はい。一樹さんからもらったんだって嬉しそうに言ってました!!」
「……そっか。瑠美奈ちゃん、明日も一緒に手がかりをさがして
もらってもいいかな?」
「もちろんです!! 私も桃香さんを殺した犯人が許せませんから!!」
一樹は帰っていく瑠美奈に手を振りながら絶対に犯人を見つけ出して
事情を聞くと改めて決意をするのだった――。
久しぶりに投稿しました。今回はほのぼの
を目指して書きました。瑠美奈達が桃香の死
のてがかりを探し始めます。
次回は一樹が犯人と思われる人物の言葉の
違和感に気付きはじめます。
まだまだお話は続くのですが、『悲月殺人事件』
はもうすぐ幕が降ります。
見てくださっている方、長くかかってしまってすみません。