表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スケープゴート  作者: 時雨瑠奈
悲月殺人事件
10/15

第九話 ~疑われるメイド~

 室内は血であふれかえっていた。

しかし、睦咲莉子はまるで眠るかのように

安らかな顔をしている。

 目を見開いて固まっているのは、六人だけだった。

大五郎は何も言わず部屋に侵入すると、頼まれても

いないのに彼女の脈を取ると死んでいることを告げた。

 そんなこと、全員がもう知っていた。

「莉子……」

「えっ?」

「莉子!!」

 一瞬、一樹たちには誰が言っているのか分からなかった。

聞き間違いだとも思ったくらいだ。

 莉子、と彼女の名を呼んだのは、渚竜也だった。

自身の服が血で染まるのを構わず、彼は睦咲莉子の遺体を

抱きしめてただ涙を流していた。

 その様子を見て、彼らは二人がただならぬ関係であることを

悟っていた。彼らは一樹たちが見ている前ではよそよそしい

空気をよそおっていたが、実際には親密な仲だったのだろう。

「嘘、だろう……!? 何で、莉子、誰か嘘だって言ってくれよ……

莉子……莉子ッ!!」

 叫びながらも彼はいまだに涙をこぼす。

誰も、何も言わなかった。大五郎でさえも。

 ただ悲しげに彼を見つめるばかりだった。


 睦咲莉子の遺体はそのままでは気の毒なので、

大五郎が遺族のもとへ届けることになった。

 竜也はその決定を、何も言わずに見届けていた。

「これ、何でしょうか? ハチノツキ?」

 それを見つけたのは瑠美奈だった。

全員が驚いてそれを見つめる。

 床に、血で何か文字が書いてあった。

ハチノツキ、カタカナで書かれた文字だ。

 一樹は今までに被害にあった人達のことを考えてみた。

神無月桃香、弥生和彦、そして、睦咲莉子……。

「神無月、弥生、むつさき……睦月?

 ってことは……」

 いなくなった大五郎以外の者の視線が、

葉月を向いたのはいたく当然のものだったかもしれない。

 死んでいった者達の共通点は、苗字に旧暦の

月の名前が入っていることだ。

 そして、その条件に当てはまる人はここには

一人しかいない。葉月だ。

 そのことに気がついた葉月は蒼白になって首を振った。

「違います!! 私じゃありません!! 私は、

莉子様を殺してなんていません!!」

 竜也が厳しい目で葉月を睨む。

一樹たちは困ったような顔で彼女を見つめていた。

 殺していないと叫んだ彼女の目に嘘はない。

だが、条件にあてはまるのは彼女しかいないし、

どうしても彼女を疑うしかないのだった。

「お前、莉子と初日に言い争いをしていただろう!!

 いざこざがあって莉子を殺したんじゃないのか!?」

「違います!! 私には、莉子様を殺す動機も

理由もありません!! 信じてください!!」

 葉月の目が竜也、瑠美奈、千鶴、大地、そして

一樹へとさまよった。テーブルを叩いて千鶴が立ち上がる。

「あんたがそれを一樹に言う訳!? 一樹のこと

信じなかったくせに!!」

「それは……」

「皆、ちょっと落ち着けよ、莉子さんのことはともかく、

桃ちゃんやあの政治家先生を殺す動機が彼女にはないだろう」

 大地がおずおずと口を開いた。竜也がぎろりと彼に目を移す。

「お前もこのメイドとグルなのか!?」

「違う!! ちょっと落ち着けって言ってるだけだろ!!

 それに、まだこの人が犯人だって決まった訳じゃ」

「じゃあこのダイイングメッセージは誰のことを指していると!?」

 竜也に怒鳴られた大地は二の句を告げられなくなった。

今ここにいるのは、島崎葉月、北原大地、木更津一樹、

渚竜也、八乙女瑠美奈、斎藤千鶴の六名だけ。

 そして、条件が示すのは葉月だけなのだ。

「犯人が、葉月さんをはめるために残したってことは

考えられないのかな?」

 ぽつりと言ったのは一樹だった。竜也が今度は彼を睨む。

「誰がなんのためにそんなことをしたと!?」

「そんなの俺が知る訳ないですよ!! 可能性として、

俺は言っただけで……」

 誰かが何か言うたびに、葉月の顔は徐々に青ざめて行っていた。

エプロンを握りしめ、唇をかみしめた彼女は本当に哀れだ。

 何より、竜也は葉月しか疑っていない。

「私じゃ、あり、ません……私が行った時、莉子様は、すでに……」

 ぼそぼそと呟く声はまるで蚊が鳴くかのように小さかった。

竜也が彼女を逃がさないように肩を掴もうとした時だった。

「私じゃありません!!」

「おい、お前!!」

 葉月は竜也にぶつかるようにして走り抜けて外に飛び出したのだ。

茫然として誰も動かない中、はじかれたように走り出したのは瑠美奈だった。

「葉月さん、待って!!」

「待って瑠美奈ちゃん、俺も行く!!」

 懸命に走る彼女に、一樹が声をかけてついていった。

他の者たちは、ただそれを見ているだけだったーー。


ダイイングメッセージから

犯人だと疑われる葉月。

彼女は本当に犯人なのか!?

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ