【第63話】瓦解
外で突如として轟いた銃声と爆音に、宮城内の近衛師団司令部にいた将校たちは一斉に窓に駆け寄る。
闇の彼方で、閃光が散っていた。
「何事だ!?」
司令部内は、瞬く間に統制を失うほどの混乱に陥った。
「浮足立つなッ!!」
一条の一喝に、将校たちは辛うじて足を止めるが、その顔には隠しようのない動揺が浮かんでいる。
「ですがこれは……宮城内で戦闘が起きている可能性があります!」
その時、軍靴の音を荒らげ、伝令の近衛兵が飛び込んできた。
「報告! 近郊から集結した東部軍が、宮城を完全に包囲しております!」
室内の緊迫した空気が、さらに密度を上げる。
一条は額に手を当て、赤い日輪の眼を細めた。
「東部軍司令官がついに動いたか。我らの義挙に応じてくれたようだな」
しかし、近衛兵は血の気の失せた顔で首を横に振った。
「それが……呼応ではありません。東部軍は我々近衛に対して、『直ちに武装を解除し、投降せよ』と繰り返しております!」
「投降……だと……?」
一条の声色は、裏返っていた。
冷静を装おうとするが、指先が震える。
胸中が、どす黒い焦燥に染まっていく。
幹部将校たちの顔色も一変していた。
脂汗を滲ませ、救いを求めるように互いに視線を交わしている。
「東部軍が、敵に回ったというのか!?」
落胆と失意の呟きが、次々に絶望を感染させる。
一条は弾かれたように立ち上がった。
「何かの間違いだ! 直ちに連絡をつけろッ! 俺が自ら説得してくる! 軍用車を出せ!」
そこへ、さらなる衝撃が追い打ちをかける。
別の伝令が、死に物狂いの形相で転がり込んできた。
「報告! 東部軍の一部が、既に宮城内部に侵入し、我が連隊と交戦中です!」
取り返しのつかない破滅の宣告。
一条の拳が、机を激しく叩いた。
「そんな馬鹿なッ!!」
室内の空気が、完全に凍りついた。
将校たちは一同に青ざめ、立ち尽くしている。
宮城の中で、神域の中で、戦闘が行われている!
絶対にあってはならない最悪の現実!!
近衛師団と、東京に展開する東部軍。
兵数も火力も、比較にならない。
この交戦は単なる組織の崩壊ではなく、国軍そのものの自死ではないか。
(――どうして、こうなった?)
一条の頭の中が、視界が、真っ白に染まっていく。
どこで間違った?
どこで歯車が狂った?
参謀長が虚勢を張るように動き出す。
近衛師団長は沈痛な面持ちで頷き、間髪入れずに部下たちへ矢継ぎ早に指示を飛ばした。
司令部はもはや、戦略会議と戦場の境界線が曖昧になるほど張り詰めている。
血の気が完全に失せ、目眩に襲われていた衛士監が、報告者にすがるように問いかけた。
「主要な門はすべて閉鎖し、更に厳重に警備を配置していたはず。そう短時間にやすやすと宮城内へ侵入できるはずがない!」
報告に当たっていた近衛兵が、絞り出すようにして言葉を吐いた。
「それが……旧江戸城の抜け道跡のような場所が……」
一条の脳裏に、電撃が走った。
魂の根本から凍りつくような感覚。
(まさか……“御潜道”か?)
一条の怒りが、突き上がるような血潮となって噴き出した。
その赤い眼は、もはや理性を焼き尽くさんとする烈火のように煌めいている。
「裏切ったなッ! 二階堂ぉぉぉおおおおお!!」




