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【第49話】記憶のカケラ

挿絵(By みてみん)


窓の向こうから、網戸越しに聞こえる蝉時雨(せみしぐれ)

外は相変わらず、夏空がまぶしさを押しつけてくる。


大和(やまと)は、自室の机に向かい、塞ぎ込んでいた。

風が、膨らませたカーテンを通り越して、大和を励ますように、その髪を優しく撫でる。


その時――

空気を裂くような声とともに、母親が勢いよく部屋に踏み込んできた。


「こら大和ッ! あんたのズボンのポケット! 石ころが入ってたわよ! 気づかないで洗濯しちゃったじゃない!」

「……石?」


顔を上げた大和に、母親は腰に手を当ててまくし立てる。


「そうよ! 洗濯機がガコンガコン鳴って壊れるかと思ったんだから。もうっ! 脱ぐ前にちゃんと確認しなさいよね!」


怒り心頭といった様子で、母親が《証拠品》を突き出す。

その手に握られていた石を見て、大和は――


「あ……」


呼吸が止まった。


(……これって……)


大和は――思い出す。



挿絵(By みてみん)


遊就館(ゆうしゅうかん)の展示品保管庫で見つけた“さざれ石”。

好奇心に駆られて摘んでいたら、欠片がポロリと外れた。

あの時、取ってしまった記憶(さざれいし)のカケラ。


淡く神秘的な光を放っていて、体温のように温かかった。

みんなで手を伸ばして、さざれ石に触っていたら――



挿絵(By みてみん)



猛烈な光に包まれて――


みんなバラバラになって――


消えて――


そして――


それから――



挿絵(By みてみん)



あ……!



挿絵(By みてみん)



ああ……!



挿絵(By みてみん)



あれは……


あの記憶は……


夢なんかじゃない!!



息子のただならぬ様子に、母親は戸惑っていた。

部屋の空気が凍りついたように。

時間が止まったかのように。


やがて、石をじっと見つめたまま、大和は呟いた。


「オレ……戦時中の日本に飛ばされたんだ。昭和の町で生活して……」

「はぁ?」


「それで……地獄みたいな空襲に遭って……」

「あんた、何を言ってんの?」


「あれは幻なんかじゃなかったんだよ! あの時、きっとみんなバラバラに過去に飛ばされて……。

でも、蓮弥(れんや)も! 真澄(ますみ)も! 咲良(さくら)も! 陽仁(はるひと)だって……。

戻ってこれなかったんだ! きっと帰ってこれたのは、オレだけなんだ!!」


大和の潤んだ瞳が、揺れている。


「……やま…と?」


母親は呆気に取られて立ち尽くすしかない。


『何バカなこと言ってるの?』と、笑い飛ばしたかった。


それなのに、言葉が出ない。


大和の頬を、一筋の涙が伝い落ちる。

透き通るような雫。

それは、言葉ではとても言い表せないほどの――

想いのカケラ。


大和は、母親から記憶(さざれいし)の欠片を受け取った。

手のひらに乗せて、静かに握りしめる。

石は、まるで生きているかのように熱を持ち。

あの過酷な時代を懸命に駆け抜けた人々の息遣いが、確かな名残として宿っている気がした。



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