【第1話】夏休み、昼下がりの公園にて
「あっつい! オレたち以外、誰も公園にいねーじゃん!」
大和が堪えきれないといった風に、声を張り上げた。
周りを見渡しても自分たち以外に、人影はない。
「地面で目玉焼きが作れそうだもんな。みんな家の中に避難してるのさ」
隣にいた蓮弥が、流れる汗を拭うこともせず、眩しそうに目を細めて笑った。
うだるような暑さ。
けだるいセミの鳴き声。
熱気により蜃気楼のように歪む町の風景。
そんな中、公園の木陰に逃げ込んで座り込む子どもたち。
咲良は少し困ったように視線を落とす。
「でも子供は外で元気に遊べって、ママが言うから…」
それを聞いた大和は、やれやれといった様子で首を振った。
「親が子供の時代とは違うんだよ。今は令和だぜ。地球温暖化?ってやつで、昔より地球は熱くなったんだ!」
真澄も、同意するように頷く。
「そうよね。家にこもってないで外で遊びなさいって言うのも分かるけど、この暑さじゃ参っちゃうわ」
大和は拗ねるような表情を浮かべ、空を見上げた。
「まったく、子供は外で遊べって、”大人の都合”だよなー」
容赦の無い陽光が地表に降り注ぐ。
公園の遊具は熱を帯び、触ったら焼けてしまいそうなほど高温になっていた。
じっとりとした空気が木陰で休む子供たちの肌にまとわりつき、何もしてなくても体力を奪う。
真夏の昼下がり、時間はゆっくりと溶けていく。
何かを待っているようで、でも何も起こらない。
そんな夏休みの情景だった。
「それにしてもヒマだな~! 夏休みって長いのにやることなさすぎ〜!」
とうとう我慢できなくなって、大和は愚痴をこぼす。
「確かに退屈だ。夏休みの始めは嬉しかったけど、休みがこうも長いと暇だな」
蓮弥が生返事を返すように、力なく首を縦に振った。
ふと真澄が思い出したように、顔を上げてみんなを見る。
「そういえば、夏休みの宿題みんなやった?」
シーン
「自由研究やった人?」
シーン
「そんなの、夏休みが終わる直前にササッと片付ければいいのさ」
蓮弥がどこか余裕ぶった口調で返答した。
大和も意に介する様子もなく、退屈そうに吐き捨てる。
「あ〜つまんねぇ! 何か起きね〜かな〜!」
「何かって?」
真澄が尋ねると、大和は意気揚々と笑った。
「そうだな〜、たとえば、バトルとか?」
咲良がぽつりとつぶやく。
「おとこのこって、戦い好きだよね…」
「そういえば――」
蓮弥の得意気な顔。
「みんなは知ってるか?うちらの国、昔バトルで滅びかけたんだってな」
それを聞いて、目を輝かせる大和。
「何それマジ? やべー!激アツ!映画みたいじゃん!」
「知ってる。昨日テレビで日本の戦争の特集やってたわ」
対して、真澄は落ち着いた反応だ。
「なんだ、真澄も見てたのか」
蓮弥は少しだけ、残念そうに笑う。
「アジア太平洋戦争…」
咲良が、またぽつりと呟いた。
一陣の風。
この風はどこから吹いてきたのか。
そしてどこへ向かうのか。
大和がはつらつとした表情で、勢いよく立ち上がった。
「それだ! アジア太平洋戦争! それをみんなで調べて、夏休みの自由研究にしようぜ? 超インパクトあるもん!」
「ふっ、”共同研究”ってやつだな」
蓮弥が口元に笑みを浮かべる。
真澄と咲良も、賛成するように頷いた。
「良いわね! 日本が滅びかけた戦争を題材にするなんて研究のしがいがあるわ!」
「発表会の時、クラスのみんなビックリするかも…」
「おっしゃ! 決まりだな! 自由研究のテーマは日本が滅びかけた戦争の話! 早速、どうやって滅びかけたのか、今から図書館に行って調べようぜ!」
大和の号令と共に、子どもたち一行は市営図書館に向かって歩き出す。
その頭上には巨大な夏の入道雲が空いっぱいに広がっている。
美しさよりも迫力を感じさせるその模様は、まるで何かを予感させるようだった。




