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【第11話】さざれ石の発動! 時空を越えて

挿絵(By みてみん)


薄暗い展示品保管庫。

冷たい空気が漂い、不気味な静寂を醸し出している。


陽仁(はるひと)は黙ったまま、うつむいていた。

手の甲で目を擦る仕草が、小刻みに震えている。


それに気づいた大和が、そっと顔を覗き込んだ。


「……おい、大丈夫か?」


陽仁は何も言わず、うつむいたまま首を横に振る。

頬を伝う涙が、ぽたり、と床に落ちた。


「泣いてるのか……」


そっと声をかける大和。

蓮弥が気まずそうに近寄ってきた。


「その気持ち、わかるよ。さっきのあの眼帯の男……怖かったもんな」


自分で言って思い出したのか、蓮弥の膝がガクガクと震え出す。


「おい蓮弥、足が震えてるぞ? ひとりで震度3くらいか?」


大和はそう言ってから、陽仁の肩に手を置いた。


「元気出せよ。仕方ねーよ。こうなったのは、"お前のせい"じゃないだろ?」


その一言に、陽仁の目から涙がまた、静かにこぼれ落ちる。


「……陽仁くん」


真澄が心配そうに呟いた。




一息つき、落ち着きを取り戻した大和たちは辺りを見回す。

棚の奥、埃っぽい空気の中で、何かがぼんやりと光っていた。


「……あれ、何かしら…?」


咲良が指を差した。


「ほんとだ。なんか光ってる」

「オバケ、じゃないわよね?」


興味を引かれ、大和たちはそろそろと奥へ進む。


挿絵(By みてみん)


光の正体は、小石がいくつも集まってできた、大きな石の塊だった。

まるで途方もない年月をかけて一体化したように、表面はごつごつしている。

それでいてどこか神々しい。


「これ……なんだろうな?」

「ひょっとして、"さざれ石"じゃない?」


真澄がそっと口にする。


「さざれ石?」

「うん。小さい石が集まってできた石のこと」

「なんだよそれ、結局、"石"じゃねーか」


「"国歌"に出てくるやつさ」


蓮弥が思い出したように言った。


「『さーざーれーいーしーのー』ってさ。ほら、"君が代"の中に」

「あーあれか!」

「でもあの歌、何言ってるのか、よく分かんねえよな~」

「とりあえず、"日本がずっと続きますように"って感じの意味だった気がするわ」

「そうそう。でも、なんで"君が代"ってタイトルになんだろうな?」


考え出す大和たち。


「"君"って、誰だ? 連弥お前か?」

「いや、違うだろ」


さざれ石は、淡い光を放っている。

まるで呼吸をするように、脈を打つように。


「……なんで光ってんだ?」


大和が小さく呟き、そっと手を伸ばした。


「勝手に触っていいの…?」


咲良が言う。


それでも、大和は触れた。


「……おお、少し温かい」

「うそ、石って冷たくないの?」


ざわめく子どもたち。

大和がさざれ石の表面をつまみだす。


「ちょっと大和、何やってんのよ?」

「オレ、こういうぶつぶつ見ると、取りたくなるんだよ」

「ふっ、壊して弁償することになっても知らないぞ?」


「……あ、取れた」


さざれ石から、小石がひとつ取れた。


「えぇ!? あんたちょっと、何やってんのよ!?」

「見なかったことにしてくれ」


一悶着した後、

それでも気になったのか、子どもたちは、それぞれさざれ石を触ってみることに。


「ほんとだ、生温かい」

「ホッカイロみたい…」

「光ってるし、温かいし、不思議ね」


やがて――

さざれ石の放つ光が強くなりだした。


「うわ、すごい!」

「なんだ? なんだこれ!?」


大和たちの驚きの声が響く。

光は際限なく強くなっていき、やがて保管庫全体を包み込んでいく。

棚に仕舞われていた展示物が淡い輝きに染まり、影がひとつ、またひとつと消えていく。


「ま、まぶしいっ!!」

「きゃあああ!!」


叫び声が重なり、空気が震える。

子どもたちの身体が、光に飲まれる!

まるで煌めく深海の底へと沈んでいくように。


「うわぁぁあああ~!!」

「やめてぇぇ~!!」


狼狽する声が響くなか、大和は隣を振り向いた。

すぐそこには、不安に押し潰されそうな陽仁の顔。


「陽仁! 離れるなぁ!」


大和は反射的に手を伸ばし、陽仁の手をしっかりと握る。

その瞬間――光が爆ぜた。


真っ白な閃光が部屋全体を支配する。

音も、空気も、何もかも飲み込まれる。



挿絵(By みてみん)




――そして、子どもたち5人は、光の中へと溶けていった。




光が去った後、展示品保管庫には静寂だけが残った。

壁も棚も、まるで何事もなかったかのように静まり返っていた。

さざれ石は、ただひっそりと、もとの冷たい石へと戻っている。


まるで――

"ここに子どもたちがいた"、という証拠そのものが、

初めから存在しなかったかのように。



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