いらない子のようなので、出ていきます。さようなら♪ その5
優秀なアンディに、なんと我が国の王女から婚約者にしたいと求婚の打診が来た。
愚王で評判の金魚バカ王の娘は、苦労知らずの我が儘娘である。
アンディと合う訳がない。
この時のアンディは、全属性の魔法を使えたが、あえてあまり羨ましがられない土魔法だけを持つと申告していた。
髪色も緑だから納得されているし、家族ぐるみで隠蔽に協力している。
それなのにその王女オーロラが、
「土魔法なんてダサイわね。でも貴方、顔が良いから選んであげるわ」何て言うものだから、ニフラン一家は青筋を浮かべることに。
そこで当主のトリニーズが、「大変ありがたいことですが、私と同じ学問肌の息子には荷が重いです。人前が苦手ですので、王女殿下の婚約者は無理でしょう。
慎んで辞退をさせて頂きたく思います」と言い切った。
「美しいこの国の王女の私が求婚しているのに! この愚か者めが!」
「本当に愚かですわね、ニフラン侯爵家は」
「ワシの娘が気に入らんとは、なんたる不敬。後で吠え面をかくことになるぞ。愚者めが!」
王家との内密なお茶会での出来事だった。
それに参加したアンディと、父トリニーズ、母フレンベスは頭を下げながら怒りを堪えていた。
その後に王家の使いが、ニフラン侯爵領地の税金を倍額にすると通達してきた。
まさにやることが馬鹿である。
下手を打てば、アンディに抹殺されかねないのに。
今の王国では魔法使いの学園は貴族だけに優遇されて、平民は入学できない。
それ故か温い貴族学園は、使い物になる魔法使いが育たなかった。
王宮には魔導師もいるが、彼が力を使うところを見た者は皆無である。いわゆるコネ採用なのだ。
である為、まさにアンディの独壇場である。
国王、すぐ死ぬフラグが何本も立つ。
それでも暴力で対抗するのは、相手と同レベルになりそうで却下した。
アンディはトリニーズと相談し、魔道具を隣国で売り出して資金を稼ぐことにした。
中を空洞にした硝子の玉に、雷魔法を練り込んだ魔石を入れる明かりである。
この世界では、もっぱら硝子全体に輝く魔力をかける為、光る時間も短く普段は蝋燭の生活である。
王宮のシャンデリアは全体に魔法をかけて輝かせ、宮全体にも魔法を使う為、隣国出身の魔法使いは大儲けしているようだ。
そんな状態の明かり事情を、隣国に売り込み活路を見い出そうとしたのだ。成功すれば大革命である。
アンディはもし一人で孤独に暮らす時は、この技術を売り込んで収入にしようと考え、生まれてすぐから試行錯誤してきたアイディアであった。
でも今は我が家の危機。それも自分のせいである。
だとしたらもう、出し惜しみは出来ないと思ったのだ。
それにもう、アンディが孤独になることはないのだから。
そんな彼は知性の魔タヌキのグレープと、芸術家の魔キツネのエリーザに補助して貰い、ステンドグラスランプやティファニーランプを作り上げ、その他にもシンプルな丸型の明かりも作りあげたのだ。
「さすがエリーザ。美しいデザインだ。素晴らしいよ。それにグレープの細工と正確な設計は、僕には真似出来ないよ。最高だ!」
アンディは心から褒めまくり、2匹は機嫌良く働いてくれた。
報酬はいつも通りの酒と、油揚げ料理である。
そして今回は、たくさん作った中でも彼らが好きなランプをプレゼントした。
「良いのかい、アンディの旦那。税金が、大変なんだろ。 一つでも余計に売った方が良いんじゃない?」
「そうよ、アンディ様。私達は報酬も貰っているし」
その言葉にアンディは横に首を振る。
「今回は君達が協力してくれた最高傑作だ。何れ人の手が加わり出来るのは、きっと劣化版になる。
だから最高の物を記念に持っていて欲しいんだ。
好きな人にあげても良いから」
そう言われ、2匹は受けとることにした。
「僕らの最高傑作。好きなのを選んで」
「じゃあ、俺はこれを」
「私はこれにするわ」
「うん。そのランプ、とても素敵だもんね。君達に似合うよ。協力してくれてありがとう」
「いえいえ、楽しかったです」
「私もよ、アンディ様」
「じゃあ、これから隣国へ行ってくるよ」
「気をつけて」
「御武運を」
そうして彼らは笑顔で別れた。
魔獣がランプを使うかは分からないが、形に残る共同傑作は仲間達に羨ましがられたと言う。
◇◇◇
そして隣国に渡ったアンディ。
彼は母親の生まれ変わりのハルカに、追跡魔法をかけていた。
それを辿り、無事空間転移で魔道具屋に着いた。
そしてランプを見せて、売り込みをしたのだ。
この時も、ビーンの時のように成人の姿で現れた。
彼に恩義と憧れを抱いていたハルカとハルカの父は、アンディを歓迎した。
そこでランプや丸形の明かりを紹介し、隣国で大ヒットとなる。
アンディは大人の姿で特許を取り、その功績は隣国の国王に認められ、男爵位を得ることになった。
それほどの大発明と認められたのだ。
そしてハルカはアンディに尋ねた「好きな人はいるの」と。
アンディは答えに困ったが、親の決めた婚約者がいるとだけ答えた。
もしハルカが異性として好意を持ってくれても、アンディにはその気持ちに応えられない。
あくまでも彼女は、母親のような存在だから。
それに彼はまだ、4歳になったばかりである。
年の差もありすぎるのだ。
「そうなのね、残念。諦めるわ」と、ハルカは笑った。
その後もアンディとハルカは、ビジネスパートナーである。ハルカの父親は交渉ごとが苦手なので、もっぱらハルカが外に出ている。
彼女は商売の中で出会った男性とお付き合いし、近々結婚することになった。
少し複雑な彼だが、息子のように母の結婚を祝福したのである。
アンディはハルカとランプの独占契約をする際、一つだけ条件を出した。
「このリストに載っている貴族に売る時は、値段を倍にして欲しいんだ。少々恨み言があってね。ダメかな?」
ハルカは一つ返事で即答した。
「良いに決まってるよ。アンディは私の恩人なんだから。
それに何となく、リストの奴らは悪者に思えるの。
ただの勘だけど」
「くふふっ、当たってる。大正解、ピンポンだ」
「本当に? フフフッ。そりゃ、吹っ掛けないとだ!」
2人は楽しく笑い合った。
◇◇◇
アンディの住むバラナーゼフ王国でも、ランプを購入することが流行った。
丸形の明かりは安く、蝋燭の代わりに使う人も増えていた。
「高いではないか! 他の者にはもっと安く販売していると聞いたぞ!」
「いえいえ、これはデザイン性が優れているのですよ。それとも丸形の明かりにしますか? それならば、他の方と同じ値段でご提供できますよ」
「うぬぬ。ニフラン侯爵から金が多く入っているから、買うことにしよう。じゃあ、取りあえず10個で頼む」
「はい、喜んで。すぐに配達致します」
「くそっ、足元を見おって。でも綺麗だし、仕方ないか」
そんな国王だったが、宰相にニフラン侯爵領の税金2倍の件がばれ、叱責された。
「国王、今すぐ税率を戻して下さい。もし訴えられて、隣国にでもこの失態が伝われば、国王の資質が問われますよ!」
「うぬ。俺が責められるのは嫌だな。じゃあ、税率を戻すことを使者に伝えさせよう。それで良いな」
良い訳ないが、あまり言うと意固地になるし。
取りあえず「税率を戻して、様子を見ましょう」としか言えなかった宰相。
宰相は翌日、文書課の歴史変遷部へ向かう。
「突然すみません、ニフラン侯爵。税金の件を昨日知りまして。大変申し訳ございませんでした。
早速国王には元の税率に戻すように進言し、使者を出すように伝えたのですが、どうなりましたでしょうか?」
「ありがとうございます、宰相殿。無事に使者の文書が届きました。たぶん貴方には内緒にしていたのでしょう。お気になさらず」
「でも、毎月の税の支払いは大丈夫だったのですか?」
トリニーズは微笑んで答えた。
「ええ、何とか。これでオーロラ王女との縁が切れるなら、安いものです。本当にせいせいしましたから」
「そう、ですね。あれは頂けません。生活に困窮していないなら何よりです」
「はい、ありがとうございます。宰相殿も気苦労が多いですな。 もし辞めたくなったら家の領地で、代官でもしませんか? 意外に楽しいかもしれませんよ」
「そう、ですね。その時が来たらお願いします。もう少しだけ、頑張ってみますから」
「ええ。お互いに、体もですが心も大切にしましょう。あれは貴方が尽くす甲斐がない愚か者です。
貴方が使い潰されるのは、嫌ですから」
「ありがとうございます。私のことはジョルテニアと呼んで下さい、ニフラン侯爵」
「分かりましたよ、ジョルテニア殿。では私のこともトリニーズと呼んで下さい」
「はいトリニーズ殿。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、お待ちしてますよ。息子が貴方に良く似ているのです。きっと仲良くなれると思います」
その後にアンディを見て、「この子が僕と似ているのか? 顔じゃないよね」と言う感じの出会いだったが、話すうちに意気投合した話は、少し年を経た二人の笑い話になる。
◇◇◇
オーロラ王女はアンディの1つ年下だったが、顔を合わせるのが嫌なアンディは、入学半年で初等科を飛び級で卒業し、その半年でも中等科を飛び級で卒業した。
高等科も半年かけず単位を取得して、飛び級で卒業し、友人だけを作って去って行った。
長い歴史を持つ学園長に、類を見ないとんでもない天才だと驚嘆され、またしても国王や高位貴族から婚約の打診が来たが、隣国に留学したことで全て断った。
隣国で魔道具開発の学校に通ったが、アンディの優秀さと顔に惹かれ女性が群がり、あっさり中退。
その後「暇だな、面白いことないかな?」と、容姿を隠して家庭教師をしながら、旅をしていたアンディ。
そんな彼が出会ったのが、リュミアンなのである。
今の彼は退屈せずに、毎日を楽しんでいる。
彼は一瞬で家に戻れる為、週に3回は晩餐をニフラン家で楽しんでいる。
「最近、こっちに戻ることが少ないわね。彼女でも出来たの?」
そんなことはないと思いながら質問する、姉ビルランジェだが、意外な言葉が返って来た。
「うん、そうなんだ。アズメロウって言って、すごく可愛いの。一度結婚歴のある子爵令嬢なんだけど、反対する?」
「ううん、そんなことしないよ。アンディが選んだ人なら、応援する!」
「良かった。さすがお姉様だ。大好きだよ」
「ふふっ、ありがとう。私も子がいる身だから、愛する人の大切さは分かっているわ。うまくいくと良いわね」
「今、すごく頑張ってるところなんだ」
二人の会話を聞いて、兄ブランシュ、母フレンベス、父トリニーズも応援すると伝えた。
兄ブランシュも結婚し、家は別な場所にある。
産前の妻は生家に戻り、ここにはいない。
そもそも王女との結婚を避けて隣国にいるので、バレると不味いのである。
空間転移で移動なんてアンディにしかできないので、まあ逃げ切れるとは思うのだが。
ただアズメロウのことはトリニーズとフレンベスもブランシュも、可哀想な女性だと記憶に残っていた。
そんな彼女とアンディの様子が想像出来なかったのである。
彼女は確か、アンディより10歳くらい年上である。
でも………………。
アンディが好きなら良いかと、少し過った不安は霧散した。
全力で息子を幸せにすると誓った家族だから。
その数年後、彼女に起きたことを聞いた家族は全員泣いた。
ちなみに姉ビルランジェの夫は、元宰相のジョルテニアである。
兄ブランシュの妻は、乗馬が大好きでおてんばなヴァイオレットであった。
兄嫁と姉夫も、アンディのことを弟のように思っている。みんなアンディが大好きだ。
そしてランプ収入の一部も、父の預金にダイレクトに入り、王家の嫌がらせに抗っている。
今の宰相は王妃の甥で、ますます手がつけられなくなっている。
密かに亡命も視野に入れているニフラン家だ。
だがどんな苦境にあっても民を守ってくれるニフラン侯爵家は、この国の民の希望である。
知らぬ間に住人が増えている状況だった。
レラップ子爵やその隣の辺境伯も、ニフラン侯爵の味方であり、反王家派が増え王家は次第に孤立していく。
今後も目が離せない、アンディとアズメロウ達なのだ。