黒幕との決戦(3)
彼女の心に浮かんだのは王都の人々の姿だった。
泣き叫ぶ子供を抱きしめ、必死に逃げ惑う母親。必死に剣を振るう若い兵士。傷つきながらも仲間を支える魔導師。
彼らは諦めていない。小さな光でも、希望を信じている。
アリシアの胸に、熱い感情が込み上げた。
「……レオン、皆の力を……ひとつにできないかしら」
レオンははっとして彼女を見た。
「まさか……ルーメン=エテルナを?」
共鳴魔法「ルーメン=エテルナ」――闇を払う究極の魔法として古の伝承に記される、複数の魔力を一つに束ね、奇跡を起こす術。しかし成功例はなく、虚構とまで言われてきた幻の魔法だ。
アリシアは揺るぎない瞳で頷く。
「私たちならできる。私たちの想いと、皆の祈りを重ねれば……!」
レオンは短く笑った。
「無謀だが……君となら……。賭けてみる価値がある!」
二人は背中合わせに立ち、両手を組んだ。氷と星光が交わり、淡い共鳴の波が広がっていく。
最初は不安定で、氷は砕け、光は散り散りになった。だが互いの鼓動を重ねるたびに、二つの魔力は徐々に調和し始める。
「……聞こえる? 皆の声が」
「ああ……祈りが、俺たちの中に流れ込んでくる」
王都の人々が星空へ祈りを捧げる。騎士たちは血を吐きながらも剣を掲げ、魔導師たちは最後の魔力を練り上げる。その想いが光の粒となり、二人の周囲に集っていく。
アリシアとレオンは声を重ねた。
「――共鳴せよ!ルーメン=エテルナ!」
輝きと冷気が完全に一体化し、巨大な魔法陣が天へと広がった。星々が呼応するように瞬き、夜空が降り注ぐ光で満ちる。
それは人知を超えた奇跡――共鳴魔法の頂点。
アストレイアが慌てて瘴気を渦巻かせる。
「バカな……こんな力、あり得るはずが……!」
だが遅い。共鳴魔法は純粋な希望の結晶。怨嗟や呪詛では触れることすらできない。
星光と氷の奔流が黒幕を包み、その再生能力を打ち砕き、内側から浄化していく。
「ぐ、あああああ――!」
アストレイアの叫びはやがて静まり、闇は霧散した。残ったのは穏やかな光だけ。
アリシアは膝をつきながらも空を見上げた。星々はなお輝き、人々の歓声が広がっていく。
「……やった……の?」
「ああ、終わった。君が皆を救ったんだ」
レオンの腕に支えられながら、アリシアは微笑んだ。
◇ ◇ ◇
アストレイアとの決戦が終わった後、王都は長い沈黙ののちに歓喜へと変わった。
人々はアリシアとレオンの名を呼び、涙を流して抱き合い、崩れた街の中で生の喜びを分かち合った。
「アリシア様レオン様、ありがとう!」
「アリシア万歳!」
「我らの姫に、永遠の祝福を!」
アリシアの胸に温かいものが溢れた。彼女はもはや孤独ではない。人々に必要とされ、愛され、讃えられる存在となったのだ。
隣でレオンが微笑む。
「君はこの国の光だ、アリシア」
星空の下、歓声に包まれながら、アリシアは誓った。
「これからも……みんなの希望であり続けるわ」
――こうして、共鳴魔法によってアストレイアを打ち倒した戦いは、後に「星光と氷の奇跡」と呼ばれ、永遠に語り継がれることとなる。




