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襲撃と共闘

 その夜の塔は、どこかいつもと違う静けさに包まれていた。

 窓を叩く風の音が妙に鋭く、闇の奥から忍び寄る気配が重たく感じられた。


 アリシアは寝台で横になりながらも、胸の奥に奇妙なざわめきを覚えていた。まるで見えない視線に囚われているかのような、不安な気配。


 「……気のせい、かしら」


 囁いたその瞬間、塔の外壁を裂くような衝撃音が轟いた。石が砕け、砂塵が散る。


 「なっ――」


 飛び起きたアリシアの瞳に、漆黒のローブに身を包んだ複数の影が映る。

 彼らは無言のまま窓を突き破り、冷たい殺気をまとって室内へと侵入してきた。


 「標的、確認」

 「娘を確保しろ。抵抗は許すな」


 刃に宿る魔力がぎらりと光る。

 アリシアの心臓は凍り付くように跳ね、足が床に縫い付けられたかのように動かなかった。


◇ ◇ ◇


 ほとんど同時に、塔の最上階から雷鳴のような魔力が奔った。

 黒衣の刺客たちの頭上に、稲妻が一閃。床を裂く閃光の中、冷徹な声が響いた。


 「――俺の塔に足を踏み入れた愚か者どもが」


 現れたのはレオンだった。漆黒の外套を翻し、片手を軽く掲げただけで空気そのものを震わせる。


 刺客の一人が嘲笑を浮かべる。

 「やはりいたか、冷徹魔導師。だが今回は貴様が相手でも容赦はせぬ」


 「容赦が必要だと思っている時点で、敗北は決まっている」


 冷たく返し、レオンの瞳が鋭く光る。


◇ ◇ ◇


 戦闘が始まった。

 刺客たちは分散し、アリシアを包囲する。レオンの注意を引きつけ、その間にアリシアを奪うのが狙いだ。


 「やめて……来ないで!」


 アリシアは後ずさりし、机の脚にぶつかって倒れそうになる。影が迫り、鋭い刃が振り下ろされる。


 その瞬間――アリシアの内奥で何かが弾けた。


 耳鳴りのような轟音。視界が白く染まる。

 彼女の胸から奔流した魔力が周囲の空気を弾き飛ばし、迫る刺客を吹き飛ばした。


 「なっ……!?」

 「魔力暴走か!? 制御されていないのにここまで強いとは……!」


 驚愕する刺客たち。

 アリシアは自分の両手から迸る光を呆然と見つめ、震える声で叫んだ。


 「や、やめて……っ! レオン様を傷つけないで!」


 その叫びと同時に、床から光の蔓が伸び、敵の足を絡め取った。無意識の魔法――だが力は確かだった。


◇ ◇ ◇


 「……やはり」


 レオンは横目でアリシアを見やり、表情を動かさぬまま内心で戦慄していた。

 制御すらしていないのに、ここまで純度の高い魔力を形にするとは。やはり彼女は特異な存在――狙われるのも必然だ。


 だが、その事実以上に。


 ――彼女が傷つく姿だけは、二度と見たくない。


 自らの感情を直視した瞬間、レオンの魔力が炎のように燃え上がった。


 「アリシア、俺の後ろに」


 短く命じると同時に、詠唱もなく雷撃が疾る。

 光と轟音が塔を揺らし、刺客たちの魔具を次々と打ち砕いた。


 「ぐっ……! 撤退だっ……!」

 「くそ、冷徹魔導師め!」


 呻きながら影は煙のように霧散し、闇に溶けて消えた。


◇ ◇ ◇


 戦いが終わった後。

 アリシアはその場に膝をつき、まだ震える手を胸に当てていた。


 「わ、私……怖かった……でも、レオン様を……守りたくて」


 涙が頬を伝う。

 レオンは黙って彼女の前に膝を折り、そっと肩に手を置いた。


 「もういい、大丈夫だ。よくやった」


 短い言葉に、不思議な温かさがあった。

 アリシアは嗚咽を漏らしながら、初めて安堵の中で涙を流す。


 レオンはその姿を見つめ、心の奥で確信していた。


 ――これはただの執着ではない。

 ――俺は、アリシアを愛している。


 冷徹を貫いてきたはずの男の胸に芽生えた炎。

 それはもはや消すことのできない真実だった。


 月光の射す塔の一室で、二人は互いの存在の意味を深く刻み込む。

 それは血煙にまみれた夜でありながら、確かな絆の始まりだった。

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