最終話 クラウディア
最終回です
それから、オルランド殿下とソニア嬢がどうなったかと言えば……。
二人はお医者様の診察を受けました……。
前世があって、ニホンという国で、ネット小説とかアニメ化とか。
『原作』のお話とかを、延々とお医者様に伝えたらしいです……。
その結果、オルランド殿下とソニア嬢は……、妄想に縛られて、現実が見えていないとの判断をされ、幽閉となりました……。
まあ、妥当よね。
迷惑はかけられたし、法律的に何かの罪を犯したわけではないので……。
まあ、その程度でもイイカー。キニシナーイ。
わたくしは煩わしいことから逃れて好き勝手生きるのよ!
まず、やっぱり、手芸!
バリバリいろいろ作って、皆様の生活を向上させちゃおうかな?
知識チートってやつ?
無理に結婚しなくても、自立の道を歩んでいけばいいかー。
兄たちの子どもの面倒を見させてもらって、楽しく暮らすわー。
おばちゃん、姪っ子や甥っ子のためにがんばるー。
『ラウディア商会』の新商品も考えてないとね! がっぽり稼ぐわよ!
なーんてふふふ。
楽しいわねえ。
ま、恋愛も諦めたわけじゃない。
良いご縁があればー……よね。
とにかく楽しく暮らしていきましょう!
***
「……という感じに収まったけど。原作のクラウディア、納得したかな。気は晴れた?」
目の前の方……神ではない、集合意識の具現化した存在とやらに問われました。
「ええまあ……。そこそこ気は済みましたけど。どうせなら、もっとこう……なんて言いますか、もっとガツンとやってほしかった……という気持ちも否めませんわねえ」
「ああ、『ざまぁ』? あれもやりすぎはねえ、どうかと思うんだけど……」
まあ、あの世界のワタクシ……、クラウディアが、自由に楽しく生きられるというのなら、それはそれで納得なのだけど。
でも……。
このワタクシと、あのクラウディア。
同一の存在ではないの。
似て非なるもの。
だから、彼女がしあわせなのはいいけど。
だったら、ワタクシは?
あの世界のオルランド王太子殿下も幽閉でざまあみろですけど。
結局、彼も、ワタクシの婚約者であったオルランド王太子殿下とは同一にして非なる者。
うーん、納得がいかないというか……。
双子の兄から受けた仕打ちを、双子の弟に行ってしまったかのような気もしないこともないのです……。
とりあえず、イカのから揚げにレモン汁をふりかけたものを食します。店員さんのおすすめです。
あら、美味しい!
でもこれはワインではなくて、麦酒のほうがあいそうですわね……。
ちょうど横を通った店員さんに、麦酒を注文します。
「そりゃあねえ、君の世界のオルランド王太子殿下は、もう、原作通りのハッピーエンド。強固で崩しようがない。そっくりでいて、違う世界……つまり、パラレルワールド的な世界を作って、そちらで『ざまあ』をするしかない」
「そこがちょっと納得がいかないところなのですわ」
ワタクシはため息を吐きます。
「いくら別世界の本人に仕返しをしても、不満が残りますのよ」
集合意識の具現化という方は、ワインを飲み干した後、頷きました。
「まあ、そうだねえ。『原作』の世界のオルランド王太子殿下本人には仕返しができないから、そのクローンを作って、クローンに仕返しをしているようなものだものね」
「クローンというのはよくわかりませんが、ですが、仕返しをするなら本当の本人にしたいですわ」
「……うん、そうだよね。だから、今回はまず一石を投じただけ」
「はい?」
言われた意味が分かりませんわね。
「『原作』は強固なんだよ。大勢が麗しい真実の愛と思って涙を流している。その世界を、まず崩していかないとね」
「はい?」
全く分かりません。
「似てるけどちょっと違う世界を大量に作って、オルランドは真実の愛の体現者ではなく単なる不貞男。ソニアは略奪女。そういう集合意識を積み重ねていく。そして、圧倒的多数の意識を持って、原作のオルランドも大勢が不貞男と思うようにしていく」
「意識を積み重ねる?」
「数千数万の世界を作り、どの世界でもオルランドは不貞者。ソニアは略奪女。それを積み重ねるのさ」
「で、積み重ねるとどうなります?」
「さあ? わからないけど。人は悪役令嬢の『ざまぁ』を好むものだ。だから……これからも、何百、いや、何千何万のオルランドにありとあらゆる『ざまぁ』を仕掛け、おおもとの『原作』など、その何千何万で埋もれさせてしまえばいいかなと」
「はあ……」
「唯一無二のオルランドとソニアではなく。数千数万、有象無象のオルランドとソニアにするだけ。ま、言葉遊びに思考遊びだよ。真実どうなるか、ではなく、君の気晴らしになればいいんだから」
気晴らし……。
そう……、ですわね。
そこそこの気晴らし。まあ、そうね、あの世界のオルランドとクラウディアの展開を考えるのは楽しかったわね……。
楽しいことを繰り返していけば、気分転換にはなる……わね。うん。確かに。
「今回は、三人に『ニホン』からの転生者という属性を加えたパターンを構成してみたけど。次はどうする? オルランドとクラウディアの壮絶なる頭脳戦! 王となったオルランドと、敵の国の女王になったクラウディアによる大戦争! なんてどう? すっきりさっぱり勝敗が付くよ!」
「個人の争いで、大勢が死ぬのは……嫌ですわねえ」
「戦争なんて、そんなものでしょ。じゃあ、クラウディアは? 次はどんなオルランドに、どんな『ざまぁ』を仕掛けてみたい?」
ワタクシはちょっと考えた。
「そうですわね……。オルランド殿下とソニア嬢は真実の愛で結ばれた。けれど、重圧に耐えかねて過食に走り、オルランド殿下の頭髪は薄くなり、可憐なソニア嬢はブクブクと太った……なんていうのはいかがです?」
目の前の存在は、口に含んだワインを吐き出した。うわ……汚いですわよ!
手を挙げて店員を呼んで。
吐き出したワインを拭いてもらう。
「……君、えぐい路線を選択するね」
「そうですか? 美男美女だから、真実の麗しの愛……なんて、外見至上主義ですわよね。人間なんて、年を取れば、若い頃の美貌を保つなんて無理でしょう? 白髪、肥満、皺だらけの顔……、たとえどんな姿形になって、変わらず愛しあえるのなら、真実と言っていいかもですが」
ワタクシを断罪したあのオルランド殿下。
しあわせになった後、数十年経って、年老いて……。
それでも真実の愛を貫けるというのなら。
……ワタクシを死に追いやったこと、少しは許しても。
ああ、いや。そんな程度では許せませんね!
ぶつぶつ言いながら、イカを食し、キムチというどこかの発酵食品を食していたら。
集合意識の具現化した存在が、頷いた。
「ま、いっか。とりあえず、その路線で、次の話、サクサク作っちゃおー!」
たしかにああだこうだと物語を考えているのは楽しかった。
気晴らしを、何千何万回繰り返したら。
そのうち……。受けた傷も癒される……のかもしれない。
「嘘を言えばいうほど皺が増え、体重が増え、髪が薄くなるっていう設定を加えてもおもしろいかも。アイデアを出し合おうよ、クラウディア。あ、その前に!店員さん! グラスワイン二つ! 大至急持ってきて!」
ワタクシ、『原作』のクラウディアと、神ではない、集合意識の具現化した存在は、店員の方からワイングラスを受け取って。
そうして。
「さあ、乾杯だ!」
「そうですわね。飲みましょう!」
「そんでもって、次のオルランドと、その次のオルランドと。更に次の次の次の次の次の次の……と、何百、何千のオルランドに『ざまぁ』を!」
「『ざまぁ』を!」
あはは、うふふと笑いながら、酒場の時間は過ぎていきます。
ワイングラスが空になり、ビンも空き、そして、ワイン樽に入った酒を飲み干して。
何百、何千、何万の、『ざまぁ』物語を構築して!
ワタクシの気が本当に晴れるまで。永遠に、楽しみましょう!
終わり




