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どうして『悪役令嬢』が登場しないんだ⁉  作者: 藍銅 紅(らんどう こう)@『前向き令嬢』2巻 電子書籍2月配信


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第29話 侯爵令嬢クラウディア⑮

 抵抗もせずに、衛兵たちによって連れて行かれるオルランド殿下とソニア嬢。

 あー、やれやれだわ。


 さて、後は陛下方に任せてわたしはさっさと帰るとするかーって思ったのに。


「ニ、ニホン? その言葉は……何なのですか! 妄想に塗れ、何を言っても妄想ばかりを吐き出していた兄を正気にさせるとは……!」


 ミゲル殿下の、信じられないと言った目つき。

 あー、えっと。どう言い訳しようかしら。


「クラウディア嬢、あなたはいったい何を言ったのですか!」


 ええとー、わたくしにもオルランド殿下やソニア嬢と同じく、前世の記憶があるのですー……なんて言ったら、わたくしまで狂人扱いよねえ。


「ごめんなさい。実のところわたくしにもよくわからないのです」

「はあ⁉」

「口から出まかせ、なのですわ」

「はあ⁉ 出まかせ⁉」

「最初は……オルランド殿下やソニア嬢からの言葉を、わたくしは理解しようと努めました。わたくしが何か失礼をしてお二人が怒っているのかもしれないと」


 わたくしは困ったように、笑ってみせました。


「お二人の御主張をいくら聞いてもよくわからない。それで……、先ほどミゲル殿下もおっしゃったように。その……オルランド殿下とソニア嬢がなんらかの妄想を有していて、その妄想通りにわたくしが動かないのを咎められていると……、そこまでは理解もできたのですが……、どうにもこうにも、分からず困って」

「そ、そうですよね……」

「お二人の妄想の内容を理解するのは諦めました」

「……理解、できないですよね。ええ、あんな妄想など……」


 わたくしはこっくりと頷きます。


「かといって、いつまでも意味の分からないことで絡まれるのも……。ですので、お二人の妄想を否定してしまえっ! とですね」

「妄想を否定……」

「ええ。この世界はお二人の妄想通りの世界ではなく、別世界だ……と、言い切った上で、お二人が納得するのはどうすればいいかと……、考えた末に、先ほどの発言をしてみたのです」

「ここは『原作』ではない……と」

「はい。『原作』という名の妄想の世界ではないと、お二人に納得してもらうにはどう言ったらいいのか……。それで、ソニア嬢から、ニホンジンテンセイシャ? ですとか、いろいろよく分からない発言をされたことがありまして」

「ニホンジンテンセイシャ?」

「ええ。わたくしにも意味はよく……? ただ、キーワードと成り得る言葉を利用して、そうではないと否定しただけだのです。つまり、オルランド殿下とソニア嬢の発言を理解した上での反論ではないのですわ……」


……ということにしておく。

そうじゃないと、わたくしまで狂人扱いされそうですからね!


「だから、口から出まかせ……」

「上手くいって良かったです」


 ほうっと息を吐く。ミゲル殿下も誤魔化せようでよかったわ……。


 実のところはわたくしにも分からない。


 本当にこの世界が『原作』の可能性だって、ある……。


 ……うん、あれだけ、あの二人が『原作』だーって主張しているんだから、もしかしたら、あの二人の前に、ラノベでよく登場する転生の神様みたいな人が現れていて、「あなたを〇〇の世界に転生させます」とでも言ったのかもしれないし……。可能性は捨てきれない。


 わたしには、分からない。

 分からないけど、対処するのみ。


 思い込みですよ! 妄想ですよって、あの二人に納得してもらえればそれで良し!


 真実なんて、分からない。


 本当か嘘かなんて、追及しても、無理でしょ。

 それに、真実がどうであれ、わたくしは、心穏やかに過ごせればいいの。

 オルランド殿下たちががっくり折れてくれれば、それでよしっ!

 いつまでも馬鹿な人たちに煩わされたくない。

 ただそれだけよ。


 さ、オルランド殿下たちを排せたんだから、もう、この場にいる必要もない。

 それにあんまり詳しくああだこうだと説明したら、わたくしのほうにぼろが出るかもしれない。


 撤収、撤収! 逃げよーっと。


 わたくしは「あ……」と小さくこぼすと、耐えきれなかったように、ふらりと体を傾けます。


「お嬢様!」


 慌ててリカルドが抱きとめてくれます。

 ナイス! リカルド! 


「……申し訳ございません。これ以上ここでお話を続けるのなら、車椅子を利用させていただいても」


「……いや、クラウディア嬢は退室したほうが良いだろう」


 国王陛下が立ち上がって、言った。


「愚息に付き合わせて申し訳なかった。クラウディア嬢に対する謝罪。今日という晴れがましい日を、愚息の妄想で台無しにした謝罪。それは王家から責任で行う」


 王である以上、臣下には頭は下げられない。

 だけど今のお言葉だけで謝罪の意は受け取りました。


「学院の卒業生たち。本来であれば、喜びの言葉を述べるべきであるが……。今は謝罪しか浮かばん。ただ、今日という日を準備してきた者たちもいる。今日限りで王都を離れ、領地へと帰る者もいるだろう。卒業生も列席者も、今日のために着飾って、今日という日を楽しみにしていた。だから、愚息のことはいったん忘れ、皆で卒業を祝ってほしい」


 なんとか卒業パーティも始まりそうです。

 わたくしもほっとして、それから、ありがたく退室させていただきました……。



次回最終回です。

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