第27話 侯爵令嬢クラウディア⑬
国王陛下と王妃の登場に、この場にいるほぼすべての人間が一斉に頭を下げる。
お二人はゆっくりと会場に入り、王族席として設置されている場所へと進む。
一番奥の檀上。ホールよりも数段分高くなっている場所。
ちなみに通常であれば、陛下と王妃様の登場にはファンファーレが鳴り、楽団の音楽も流れるのだけれど。
それは、陛下が片手を上げて制止していた。
だから、会場にはコツコツとした靴音が響くのみ。
糸がぴんと張ったみたいに、空気が……張りつめてる。でも。
「父上っ! 悪役令嬢クラウディアを排し、私とソニアの婚約を認めてください!」
なーんて、空気も読まず、オルランド殿下が叫んだものだから。
うっわー……。
どうなるのかなこれ。
国王陛下は無言。オルランド王太子殿下に視線を流すこともしない。
王妃様も同じ。
二人、ただ、席へと進み。そして……。お座りになった。
「父上!」
オルランド王太子殿下がまたもや陛下に呼びかける。
陛下の顔は……何の感情も浮かんでいない。
王妃様はと言えば……取り出した扇で口元を隠している。
「父上! お聞きになっておられますか⁉」
何度か、オルランド王太子殿下が話かけるけど。陛下は無反応。
しばらくしたのち、疲れ果てた旅人のように「……ミゲル」と、第二王子殿下の名前を小さく呼んだ。
ミゲル殿下は国王陛下に向かってただ頷いた。
「……矯正は無理か?」
「……妄想狂に何を言っても通じないと思われます」
二人の重々しい声が、会場に落ちた。
国王陛下はオルランド王太子殿下の考えがなんとか改まるようにって思っていたのかな。
でも、大勢の前で、何もしていないわたくしに冤罪を吹っ掛けるどころか、妄想公言だものね。
無理無理の無理ー。
なんて心の中でふざけている場合じゃない。
でも、空気が重々しすぎるのよ。
国王陛下が三千世界の苦悩を一人で抱え込んでいるみたいなお顔なんですもの。
「父上! 聞いておりますか! 耳でも遠くなったのですか⁉」
重々しい空気の中、その空気を読まないオルランド王太子殿下は国王陛下に向かって何度も呼びかけますが。
あーのー。わたくしにね、暴言を吐いても、身分の上下がありますから、道義的・常識的に同行はともかく。
法的に裁くことはできないの。
だけど、王太子殿下が国王陛下に「耳が遠いのか」なんて言ったら。
……陛下から、何をされても知りませんよ。
もしもブチ切れ陛下モードとかになったら、剣を持っている兵に向かって「切れ」とか言っても別に法的には罪になりませんからね~。王制、マジ、怖い。
でも、国王陛下は理性的だった。
「妄想の上に妄想を重ねるオルランドは、王位継承権をはく奪した上、隔離。第二王子ミゲルを王太子とする」
結論だけを、端的に言った。
「は? な、何を言っているのですか、父上」
理解ができないのはオルランド殿下とソニア嬢だけだった。
会場にいる他の皆様は、当然だよね、みたいな表情ですよ~。
ソニア嬢の手を取って、二人して陛下のいる檀上へと突き進もうとして……衛兵に止められた。
「やめろ! 何をする!」
「ちょっと! 放してよ!」
オルランド殿下とソニア嬢が抵抗をするけど。
無理よね。
「どうして『原作』と違う流れにするのですか! それではしあわせになれない!」
国王陛下はもう疲れ切ったみたいで。
言葉も発せず、手ぶりだけで衛兵たちに連れていけと命じる。
ずるずると引きずられていくオルランド殿下とソニア嬢。
このまま放置でもいいんだけど……。
わたくし、一言くらい言っておいた方がいいかしらね。
すっと、一歩前に進み出て、陛下に向かって一礼をした。
「……僭越ながら、オルランド……殿下とソニア嬢に一言二言申し上げてもよろしいでしょうか?」
ええと……、王位継承権の剥奪だけだから、敬称は殿下でいいんだよね?
ま、いいか。




