第24話 侯爵令嬢クラウディア ⑪
「一般論としてお聞きいたします。身体上の理由で婚約をお断りすることと、男爵令嬢に過ぎない者が公の場で王太子殿下のお名前を呼び捨てにすること。どちらが王族の皆様にとっては不敬なのでしょうか。ご教授いただきたいのですが」
はい、個人名は出していませんよ!
わたくしの話ではなく、ソニアの話でもない。
ここがポイントね!
一般論と前置きしたからね!
普通の常識としてどうなのってことしか言っていないからね!
「うるさい! ソニアには私の名を呼ぶことを許している!」
「そうでございますか。わたくしは一般論として問いかけをしたのであって、そちらのご令嬢と殿下の、個人的な関係をお尋ねしたのではないのですが」
設問に対する答えが違いますよー、ちゃんと質問の意味、分かってますかーなんてね。
「では、再度、お尋ね直しいたしましょう。わたくしは健康上の理由があり、王太子殿下と婚約を結ぶことは不可能です。ですから、当然婚約はお断りさせていただきました。なのに、わざわざ卒業パーティという場で、既に終わった話を蒸し返す、その意図をご説明願えますか?」
難癖をつけてでも、悪役令嬢の断罪を行って、男爵令嬢と王太子殿下の真実の愛を皆に認めてもらいたい。
『原作』の通りに。
多分、王太子殿下とソニアはそれを狙っている。
だけどねえ、既に『原作』の話とは乖離しているの。
イマサラわたくしを断罪したところで無意味よ無意味!
あー、付き合うのも馬鹿々々しい。
国王陛下がいらっしゃるのを待って、どうにかしてもらおうと思ったけど。
……わたくしが、ここで、やっちまってもいいのかしら?
構わないわよね。
やっちゃお。
オルランド王太子殿下が「そ、それは……」と言い淀んでいる間に、さっさと引導を渡す。
「王太子殿下は、そちらの男爵令嬢と恋仲であるという噂は、わたくしの耳にも届いております。ですが、我が国の常識から鑑みれば、男爵家の令嬢が王太子妃、そして後の王妃として立つことは、ありえない」
身分制度というものを考えれば、当たり前。
前世のニホンのように、法の下ではみんな平等とか、そういうものはないからね!
ここは、王政の国なのよ。
王様が偉くて、次に公爵。以下侯爵、伯爵、子爵、男爵……と、貴族の身分はきっちり決まっている。
貴族と平民の差なんてまさに雲泥の差。
ぶっちゃけた話、この世界では貴族が平民を殺したところで法によって裁かれることはない。虫を足で潰すのと同じ感覚。
さすがに貴族内では、たとえば伯爵位の者が男爵位の貴族を害したら、醜聞だけど。
法的な咎めはない。そういう国なの!
悪役令嬢物で、王子の愛する男爵令嬢を、侯爵令嬢が虐めたなんて話あるけど。
それって、例えるのなら。
幼稚園生の男児が、園庭で見つけたダンゴムシを「宝物!」と言って見せに来たんだけど。
幼稚園生の女児が、そのダンゴムシが気持ち悪いから「嫌っ!」って言って、男の子の手を叩いたら、ダンゴムシは男の子の手から落ちました……ってレベルなの。
つまり、男爵令嬢なんてダンゴムシ。
ニホンの感覚からしてみればおかしいかもだけど。
きっちりとした身分差がある世界なんて、そんなもんよ。
だから、真実の愛だとか何といわれてもねえ。
幼稚園男児が「ボク、ダンゴムシが宝物だから、将来ダンゴムシと結婚する!」って言ったら。
頭がオカシイと思われるかもしれないし。
微笑ましいと思われるかもしれないけど。
それは、人それぞれの感想だけど。
「ダンゴムシを地面に落っことしたから、お前は悪い奴だ!」なーんて主張されてもねえ。
子どもならともかく、物事の判別がつくような年齢にもなって、ダンゴムシと結婚なんて……。
頭、おかしいの? 大丈夫?
心配されるか、敬して遠ざけられるよねえ……。
繰り返すけど、王太子殿下が男爵令嬢とオツキアイなんて、ダンゴムシを愛するのと同じレベル。
だから、王太子殿下の婚約者が誰もいないのよ!
打診された相手だって「無理!」ってお断りするし。
国王陛下も王妃様も頭を抱えているのよね。
ぶっちゃけ、オルランド王太子殿下の廃嫡は近い……と、上位貴族はみんな思ってる。下位貴族もかな……。
馬鹿王子を担がなくとも、常識のあるミゲル第二王子がいるんだもの。
さて、話が逸れたけど、続けよう。
「王太子殿下は、わたくしをお飾りの王太子妃に仕立て上げ、その陰で、そちらのご令嬢と真実の愛を結ぶ。そのために、わざわざ健康上に難があるわたくしを婚約者にするおつもりなのですね? わたくしであれば、子を成すことはない。故に、男爵家の娘が産んだ子を、後継とすることもできるであろう。そういう目論見で」
さあ、王太子殿下。反論できるのなら、言ってごらんなさーい!




