第23話 侯爵令嬢クラウディア ⑩
「お前には告げなければならないことがある!」
「何でございましょうか、王太子殿下」
とりあえず、聞く姿勢を見せる。
まーさーか『原作』通り、可憐なヒロインをいたぶる悪役令嬢め、婚約破棄だ、追放だ! とかは言えないものねぇ。
虐めてなんてないし、そもそも接点がない。
待っていれば、オルランド王太子殿下は言った。
「この不敬者め! 王太子であるこの私からの婚約の申し出を断るとは、ずいぶんとまあ、偉いのだな、キサマは!」
「そうですよ! 王太子殿下からの婚約を結んでやると言われたんだから、ありがたくお受けいたしますって言うのが当然でしょう!」
……は、い?
きょとん……と、わたくしは目を丸くしました。
いえ、わたくしだけではないですね。
この場にいる全員……いえ、オルランド王太子殿下とソニア以外が、いきなりの言葉に「は?」
……という状態になっております。
婚約破棄ではなく、婚約を断るとはいい身分だな! ですか?
しかも、男爵家の娘に過ぎないソニアが、偉そうにわたくしに婚約を受けろですか?
余りに馬鹿々々しすぎて、笑いたくなるのですが。
えー、なにこれ。
二人とも正気?
あんまりのことに、ミゲル第二王子なんか、茫然としておりますが。
あー、ミゲル殿下ー。早く正気を取り戻して、国王陛下を呼んできてくださいませねー。
とりあえず、ミゲル殿下に目配せをしておいて。
わたくしは、馬鹿二人に反論をする。
「……ずいぶんと前のお話を、イマサラ持ち出されましても困りますが。とにかく、当時申し上げました通り、健康上の理由で、王太子殿下との婚約はお断りさせていただきました」
「それが不敬だと言っている! 王太子との婚約だぞ! ありがたく引き受けるのが筋というものだ!」
「そうよ!」
……えーと、何をしたいんでしょうかこの馬鹿……いえ、王太子殿下。
まさかとは思うけど、テキトウに難癖付けても「不敬」と言えば、すべて通るとでも思っているのかしら?
まさかねー。
いくらなんでも、それ、ありえないわよー。
余りに馬鹿々々しいけど、聞いちゃおうかしら。
「では、お尋ねします。二年もの長き間、病床で過ごし、立ち上がることも、まともに食事をすることもできずにいたわたくしです。未だにデビュタントも行えず、社交や令嬢たちのお茶会に参加する体力もない。貴族の令息や令嬢が通う学院にも、聴講生として週に数回通うのがやっと。そんな病弱な娘が、王太子殿下の婚約者として立つことができるとお思いなのでしょうか? 公務なども行える体力はございませんわよ?」
普通に考えて、無理。
後継を孕めないかもしれない女が、王太子殿下の妻になるのは無理。
身分の差もなく、自由恋愛推奨の国なら、君が居ればそれでしあわせだとか、言えるでしょうけど。
ここは、王政の国。
王族というものは、血筋を保つ必要がある。
子を作り、次代の王太子や他国や自国の貴族と縁を結ぶための王女を得るのは、義務なの。
好き嫌いとか、真実の愛とか言っている場合じゃないのよ。
義務なのよー。
「率直に申し上げれば、わたくしはまともに妊娠や出産ができるかどうかも分からないのです。後継を成せないかもしれない令嬢が、王太子殿下の婚約者になるのはありえない。故に、婚約は無理だとお断りさせていただきました」
万人が納得のできる答えでしょ。
更に難癖をつけるのなら、言ってごらんなさいよ。
「王太子であるこの私に対して、お前の態度が不敬だと言っている!」
不敬一辺倒かよ!
難癖付けるにしても、もうちょっと頭使えよ!
前世口調でツッコミ入れたくなるわー。
「そうよ! 大人しくオルランドの言葉に従いなさいよ!」
ソニアの発言に、会場が一瞬にして、ざわめいた。
オルランド殿下とか、せめて敬称をつけるのならばともかく。
卒業パーティという公の場で、男爵家の娘でしかない者が、王太子の名を呼び捨てにした。
不敬って言うのなら、ソニア嬢のほうがめっちゃ不敬!
あーあー、どうするのかなあ、これ。
勝手に騒いで、勝手に自滅するコース?
茶番に付き合うのも馬鹿々々しいんですけど……。
そもそも、わたくしに、難癖をつけようもないのに無理やり悪役令嬢に仕立て上げようというのが間違っている。
わたくしに、瑕疵なんて、ないもの。
不敬?
王太子殿下が勝手に言っているだけで、わたくし、なーんにもしてませーん。
病弱だから、無理です、王子妃教育も受けられず、後継を産めるかどうかも分かりませんって言うのの、どこが不敬? 単なる事実と事実から来る推測だよ?
卒業パーティで、王太子とヒロインが、悪役令嬢を追放すればいいとか、思い込んでいるのかなあ、この二人。
馬鹿なの?
あーあーあー、ミゲル第二王子殿下、早く国王陛下を連れてきてくださいよー。
馬鹿々々しくなって、心の中の言葉が、侯爵令嬢じゃなく、前世の『わたし』っぽくなっているわー。
とりあえず、気を引き締めなおそっと。




