第22話 侯爵令嬢クラウディア ⑨
卒業パーティです。
さすがに、車椅子でパーティ会場内に入るのはどうかなと思い、会場の扉の外のところまでは車椅子でやって来て。
扉から中は、護衛であるリカルドに支えてもらいながら、みっともなくないギリギリのあたりを狙って、ゆっくりとよろよろと、歩く。
そして、パーティ会場の壁際に椅子を用意してもらい、椅子に座って卒業パーティの様子を眺める……ということにしたのですが……。
会場の中央に、ソニアを伴ったオルランド王太子殿下が、いきなり「皆の者、聞け!」などと大声を上げたのよ。
パーティの参加者……卒業生たち、彼女ら彼らをエスコートをしている婚約者たちや家族たち。
それから、下級生や学院の教師たち。
壁際の護衛たちや、会場内で給仕をしている使用人含めると、何百人いるのって感じの大勢に向かって、いきなりの大声。
皆、驚いて、オルランド王子とソニアに注目をする。
「フェルナンデス侯爵家のクラウディア! 出てこい‼」
あら、いきなりの名指しで呼びだしですか。
しかも「嬢」もつけずに、呼び捨て。
王太子殿下とはいえマナーは守ってもらいたいわーなんて。
それから、いったいどんな理由でいちゃもんつけるのかしらーなんて。
会場の皆様も、無関係の侯爵令嬢に対する無礼呼びに対して顔を顰めていたり、何事かと訝し気な顔をしていたりですよー。
これから何をしたいのか、具体的にはわかりませんが、出だしからの墓穴掘り、ありがとうございます~。
ちらっと視線を流せば、ミゲル第二王子殿下は、額に手を当てている。
うん、頭が痛むわよねえ。
国王陛下と王妃様はまだ来ていない。お偉いさんは一番最後に登場だからねえ。
んー、では、国王陛下がたが到着するまで、なるべく時間をかけておくのが得策かしら。
「……はい、王太子殿下。フェルナンデス侯爵家が娘、クラウディア。ここにおりますわ」
返事をしてから、ゆっくりと立ち上がる。
ワザとよろけて「あ……」とか漏らして、リカルドに支えてもらったりして。
「お嬢様!」
「まだ、足が……」
「ご無理をなさらずに。よろしければ、抱えさせていただきますが……」
リカルドは使用人だとわかるように、わざと流行から外れた……と言うか、一年前にお兄様が着用した礼服を着てもらっている。そして、装飾品もつけていない。
着なくなった服は、使用人に下げ渡すのが高位貴族としての常識ですからね。
だから、わざわざ使用人ですなんて説明しなくても、普通の貴族なら、リカルドがウチの使用人だってことは、見ればわかる。
まあ、わたくしを「お嬢様」と呼んだ時点で、服の知識がなくたって、使用人と理解できるでしょうけどね。
ありえないけど、わたくしが王太子殿下以外の男性と懇意にしているとか、浮気だとか、王太子殿下からの婚約を断って他の男と親しくするのは何事だなどと難癖をつけられないようにするための対策よ。
予防線はいくつも張り巡らせるに限る。
これ、大事!
「手を引いてもらえるかしら?」
「かしこまりました」
「ありがとう」
リカルドは一礼して、わたしの手を取る。
病弱アピールと時間稼ぎ。
わざとゆっくりと歩いて。
時折つまずいて、リカルドに支えてもらう。
王太子殿下はイライラと「さっさと来い!」と怒鳴るけど、わたくしは敢えて、よたよたと、歩く。
学院では車椅子で移動。階段などはこのリカルドに抱き上げてもらって上り下り。
それを、学院の生徒や教師は見て知っている。
だから、オルランド王太子に向かって眉根を寄せている者もいるくらい。
よし。
ダメ押しで、もう一回くらいよたよたと歩き、途中でつまずいておこう。さっさと行くのは無理なんですアピールよ!
ふふふ。
時間をかければかけるほど、オルランド王太子殿下のイライラも募るだろう。
イライラしていると、判断力も低下するでしょ。
わたくしに有利な状況を作る。
舞台に上がる前に、舞台を整えておくのが大事よね。
「遅い! この私が、呼んでやっているというのに!」
「そうですよ! クラウディア様! オルランド様を馬鹿にしているんですか⁉」
オルランド王太子殿下の怒鳴り声と、ソニアの偉そうな言葉に、ますます皆は顔を顰める。
あーあー、短気は損気ですよー、王太子殿下。
病気で、体が弱くて、常に車椅子のわたくしを呼び寄せて、遅いとは。
まだ、足が上手く回復していない設定なのよね、わたくし。
病人に鞭打つ鬼畜な王太子殿下とか思われるわよー。
ほら、あちらこちらから「……いつも車椅子のクラウディア嬢が、早く歩けるはずないのに」なんていうぼそっとした呟きが聞こえてくるわよー。ふふふ。
それにソニア嬢もね。
貴女、男爵令嬢でしょうに。
侯爵令嬢であるわたくしの名前を、わたくしの許しもなく呼ぶとは。常識のなさが露見して、更に、王太子殿下のご威光を、自分のモノとして振るう偉そうなヤツとか思われるわよー。
とりあえず、困った顔で、よろよろと進み、そうして、足を止めて、淑女の礼をとる。
「……二年もの間、病を得ておりました。今はその病も治り、学院にも通えるようにはなりましたが、まだ体力や筋力が回復しきっておりません。故に、使用人に支えてもらいながら御前に進みました。ご容赦くださいませ」
弱々しく聞こえるカンジを装って、しかし、会場内に声が響く声で、わたくしは告げた。
さ、前哨戦は完璧に、こっちの勝ちね。
会場の皆様の同情、わたくしに向いていますわよー!




