第21話 侯爵令嬢クラウディア ⑧
さて……、今日は卒業式の日。
『原作』通りに、婚約破棄からの断罪……は、どう転んでも不可能だと、わたくしは安心して、貴族学院の卒業パーティに向かったのです。
ま、ちょっとは警戒心は残しておきますけど。
でも少なくとも「クラウディア! キサマとの婚約は破棄だ! ブランシャール王国の王太子であるこの私に相応しいのは、キサマのような悪女ではなく、この可憐で聖女のように清らかなソニアだ!」とか何とか、実にテンプレートな婚約破棄はできないはず。
わたくしは聴講生ですので、べつに卒業式は、必ず参加しないといけないというわけではないのですが……。
ミゲル殿下から「オルランド兄上が何やら企んでいるようです。卒業式の参加は見合わせては……」とわざわざ言いに来てくださったのよねえ。
さすが、気配り殿下。ありがたい。
けど……、ここでスルーして、何事もなく……、なんていきそうにはないわよね。
後からネチネチと、いろいろやられそう。
それ、面倒だし。
だったら、逆に。
あちらが何やら画策しているというのであれば、こちらは迎え撃ったほうがいいのでは……なんて。
メンドウなことは、さっさと済ませて、後はのんびり手芸ライフ!
ということで、わたくしの侍女、それから護衛、ミゲル殿下に、殿下の婚約者のソフィー様も交えて、あれこれと対策を練ってみたのです。
あ、そうそう。
学院にも付いてきてくれているわたくし専属の三人の侍女、ナタリア、ケイト、ブリトニー。それから、護衛はリカルド・レハレタ。いつも車椅子を押してくれている人ね。
使用人と言えども、侯爵家が雇う者だから、全員貴族の令嬢に令息。だから、それなりに貴族の間に伝手はある。
ただ、二十歳を過ぎても婚約者を見つけることができなかったので、我が家で働いているのだ。
四人とも、人格・性格的には瑕疵は全くないのだけれど……。五女とか、六女とか、七男だからねえ。婚姻に当たっての持参金とか、継承する爵位とかがなくて、それで、働いているってわけ。
みんな、自活の道を選んだ優秀な人材なのよ。
末永く、我が家で働いてほしい……。
というか、ちょっと思い付いたわ!
いっそ、リカルドにわたくしの婚約者になってもらってしまえばいいのでは⁉
と思ったのだけれど。
「めっそうございませんお嬢様! 恐れ多いです!」
リカルドにフラれたわ……。
あー、残念。いいアイディアだと思ったのに。
子爵家の七男というのが侯爵令嬢の婚約者になるのは身分が……とか思うけど、そこは、ほら、それこそこちらも『真実の愛』で身分は関係ないですわーとか、言っちゃえばいいんじゃない?
でも、リカルドの答えはノー。
無理だって。えー……。
いい案だと思ったのにーって言ったら、ナタリアから笑われた。
「お嬢様、リカルドを特別にお好きなわけではないのでしょう?」
「好意はあるわよ? 護衛の仕事、過不足なくきっちりとこなしてくれるし、気遣いはできるし」
うん、車椅子をね、押すとき。力任せにテキトウに押すのではなく、ちゃんとわたしが怖くないようにって、ゆっくりと丁寧に押してくれたり、道で段差があるときなんかは、いったん止まって「お嬢様。段差があるので、少々車椅子を傾けます」って言ってくれるから。
顔だって、そりゃあ物語のヒーロー的なキラキラなイケメンではないけれど。
いかにも護衛ですっていうキリっとした顔つきや、姿勢の良さなんかは良いと思うのよね。
何より、気配り系男子は将来の旦那様としてよいと思うの。
「でもそれ、恋人としての好きではないでしょう?」
「まあ、そうだけど。偽装の婚約者、やってもらいたいなーって程度には信頼しているよ」
「信頼と愛情は異なりますでしょう? お嬢様とリカルドが『真実の愛』で結ばれていると言ったところで……下手な演劇役者の、下手な芝居にしか見えません」
「あー……」
それじゃあ、無理かあ。
「残念。いい人材と思ったのに」
ケイト、ブリトニーもクスクス笑って。
リカルドは「恐縮です……」と顔を赤らめているけど。
「うーん、じゃあ、真っ当に返り討ちにするしかないかしら」
「真っ当ですか?」
「ええ。オルランド王太子殿下が本当にやりたいことは、卒業パーティで、わたくしとの婚約を破棄し、断罪して、追放。そして、男爵令嬢に過ぎないソニアとの真実の愛を皆に認めてもらって、ソニアを王太子妃にすることなんだけど……」
リカルドたち、四人は呆れ顔になった。
「あの、ツッコミどころが多いのですが……」
「そもそもお嬢様と婚約を結んでいないのですから、破棄などできません」
「断罪って、何ですか。追放?」
「このフェルナンデス侯爵家のご令嬢であるお嬢様を追放なんてしたら、旦那様や奥様が怒り狂いますよ! 王家に反旗を翻すくらいの力は有していらっしゃいますからね!」
そうよねえ。
『原作』通りにクラウディアが本当にソニアを虐めたのなら、流石のお父様やお母様だって、ウチの娘がやらかしたから仕方がない……って思うかもだけど。
現状、わたくし、王太子殿下との接点、ほとんどない。
婚約だって断った。
個人的な交流なんてしないし、したくない。
ミゲル殿下のおかげで、学院でも接触も、このところ、皆無。
ソニアだって同じようなもの。
あちらからは接触しようとがんばっているみたいだけど、無視はしないまでもやんわりとお断り。
御用があれば、書面でどうぞ。
なんらかの証拠が残るのが嫌なのか、ソニアから書面の提出はない。証拠というよりも『原作』ではソニアがクラウディアに手紙なんて渡したことがないからかしらねぇ。
断罪しようがない状態よ。
ミゲル第二王子は「現実と物語を混同している兄がすみません」スタンス。
直接お会いしてはいないけれど、国王陛下だって、王妃様だって、ミゲル第二王子と同じ考えとのこと。
うん、この状態で、オルランド王太子殿下が、何をどうしようと、わたくしを断罪なんてできるはずはない。
悪役令嬢は不在。
でも……。
脳内お花畑の、常識知らずは、何をどう結び付けて、論外な言いがかりをつけてこないとも限らない。
うーん、やっぱり、ある程度状況の読みやすい卒業パーティで、対決したほうがよさそうねー。




