第14話 とある酔っ払いの疑問
「え? 『原作』の強制力? そんなものあるのですか?」
今、ワタクシがワインをちびちび飲みつつ見させていただいている世界は、思考実験の場とやらです。
もしもクラウディアが病弱でデビュタントに参加できず、貴族学院にも入学できず、王太子と婚約も結ばずにいたら? それでも『原作』通りにオルランドとソニアは恋に落ちると思うか?
……という世界を展開していたはず。
つまり、『原作』とは少々異なる、別のクラウディアの物語のはずなのに、『原作の強制力』が働く……?
アルコールでボオっとしている頭で考えてもおかしいと思うのですが?
「あはははは、そんなのは当然ないよ! あの世界のオルランドとソニアが、勝手に思い込んでいるだけ!」
「にゃるほど、そうなのですね……。では、なぜ、あの世界のワタクシ……、クラウディアが学院に通うのかしら?」
「んー? 親としては、原因不明で寝込んでいた娘が、元気になって、生き生きと事業を始められるほどになったんだから、当たり前の貴族の令嬢としての暮らしを取り戻させたいって思うものじゃないの?」
「ああ……」
ワタクシは頷きつつ、グラスのワインを飲み干し、次はどのお酒にしようかな……と、酒場のメニューに手を伸ばします。
サングリアという、赤ワインに一口大またはスライスした果物と甘味料を入れ、風味付けとしてブランデーとスパイスを加えたものを注文してみました。
「兄と一緒に事業を行うのもいいけどさ。クラウディアって侯爵令嬢でしょ。だったら、ごく普通に、しあわせな結婚をしてほしいって思うでしょ、親ならさ」
「まあ……確かにそうですわね」
貴族の娘であれば、婚姻が当然。
結婚できない令嬢にはなんらかの瑕疵があると思われても仕方がない。
ワタクシ……ではなく、今見ている世界のクラウディアは、二年もの間、「うー……」だの「あー……」だのしか言えない状態で、ベッドの上で過ごしていた。
そんなふうに、健康上に問題があり、貴族学院にも通っていない娘は……社交界でまともに扱っては貰えないだろう。
侯爵家に引きこもって、下の兄と共に事業だけを行っていれば、それなりに問題はなく暮らせる。
だけど、クラウディアの貴族の女性としての評判は、恐ろしく低いに決まっている。
たった半年の学院生活で、伴侶となる男性を掴むことができればいいが、高位貴族に嫁入りは難しい。
同世代の貴族の令息は、ほとんどがすでに婚約済みだ。
学院を卒業するまであと半年というのであれば、婚約者が居るのは当たり前だし、婚約者が居ないのであれば、それは、貴族学院に二年以上も通っているのに婚約者を得られなかった余りもの……。
爵位が低いとか、性格に難ありとか。
とにかく侯爵家の令嬢であるクラウディアの相手としては、不足がありすぎる。
お父様とお母様は、純粋に、クラウディアに学校生活を楽しませ、友人を増やし、交流をするということをさせたいのかしらね……。
「あー、いや。それもあるだろうけど、ほら、見てみなよ」
「はい?」
店員の方が運んできてくれたサングリアを一口飲んでから、言われたとおりに、実験の世界を見る。
あ、あら! これ、おいしいわ~。もう一杯頼んでしまおうかしら。
「クラウディアのご両親、クラウディア用に車椅子を用意して、学院に通うための付き添いっていうか、専属の侍女と護衛を学院に申請しているよ」
車椅子?
しばらく外出していなかったから、歩くことができない……わけではないわよね。だって、屋敷の中だったらむしろ元気に歩き回っているし。
「……どういうこと、ですの?」
「うん、だから、学院で、クラウディアの病弱アピールも兼ねているんだろうね」
「病弱アピール……」
「クラウディアに婚約者が居ないのは、特別な瑕疵があるわけではなくて、単に健康上の問題。だけど、学院に通えるほどには回復はしてきた」
「回復をアピールするのと病弱アピールは真逆では?」
「そこで、車椅子という小道具が効いてくる! 学院に通って、交流はする。だけど、まだ体力は回復していないから、車椅子生活だ」
「よくわかりませんわ……」
と言いつつ、サングリアを飲み干す。
さて、もう一杯、同じものを注文します。
「つまり、婚約者は積極的には募集していないけど、完全に独身というのを狙ったわけでもない。また、爵位が低いとか、性格に難ありという、不良物件も求めていない。病弱なクラウディアを支えられる経済力、そして、可憐で弱々しいクラウディアを精神的に支えられる包容力。それを有する男性だったら、求婚して来いという、クラウディアお父さんとお母さんのそこはかとないアピールなんだよ」
そう……なのかしら?
この方の言っていることが本当なのかどうなのかもわからないけれど……。
疑問に思いつつも、ワタクシは、引き続き、ワタクシとは違うクラウディアの様子を見続けることにしたのですわ。もちろんサングリアを楽しみながらね!




