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第6話

 「オートドライブソード!」


 僕の掛け声と共に、七刀全てのエネルギーソードが出現したかと思いきや、次の瞬間、とてつもない轟音を撒き散らしながら高速回転し始めた。


 「ッ…!?」

 

 凄まじい風を生み出した僕のエネルギーソードは敵の目を細めさせる。


 等速直線運動の場合、銃の弾速以上と同程度の速度を誇る剣なのだ。

 重さゼロの剣が高速回転しているのだから、かなりの回転量があるのは間違いない。


 案の定『キィンキィンキィンキィンキィン!!!』という喧しい音を立てながら、すべての銃弾をことごとく粉砕していた。

 これが七本もあるのだからかなりの広域を完璧にカバーできる。

 捕虜の人たちに傷一つ付くはずがなかった。


 「チッ…。見たことねえ武器を使いやがって…くたばれ政府のクソ犬が」


 ゲリラ豪雨のような銃弾の雨が止んだのち、暴力団のドンが口にした第一声は紛れもない暴言であった。


 「おい。子供達の前でなんてこと言うんだよ!教育に悪いだろ。この剣一つ一つで全身の臓器を突き刺してやろうか?」

 「ふぇぇぇぇん!!」


 あーあ。泣いちゃったじゃないか。


 「安心して。僕が今すぐ目の前の極悪犯罪人を処刑してあげるから」


 僕は泣いてる子供に対して優しい言葉をかけたつもりだったのだが、彼の涙は止まるどころかさらに悪化した。


 「ふん。どうせ武器の性能依存で強者の座に立ってる人間なんだろう?調子に乗るなよ雑魚が」

 「何を言ってるんだ。このエネルギーソードは僕のスキルだよ?その名も【オートドライブソード】」

 

 目の前の悪人は僕の言葉を聞いてキョトンとした表情になる。


 「【オートドライブソード】?聞いたことねえスキルだな…お前の適性職業はなんだ?」


 今までに会敵した数々の人間は、僕の固有スキルに興味を持ち、口を揃えて「適性職業はなんなんだ?」と疑問を口にした。

 そしてもれなく僕の答えを聞いた全ての敵は、例外なく唖然としていたのだが、こいつの場合は一体どうなるのだろうか。


 「僕の適正職業は【遊び人】だよ」

 「は?冗談はいい加減にしておけよ」


 殺気だった暴力団のドンは再びミニガンを発砲してくる。

 しかし、僕は涼しい顔で銃弾一つ一つをパリィしていった。


 「嘘じゃないよ。これでも初めは苦労したんだよねぇ。」


 この世界の人間なら誰もが知っての通り、適正職業に就職した際に獲得する固有スキルはかなり万能だ。

 【剣士】や【魔術師】、【僧侶】などは言うまでもなく。

 その職業の人にとって得意であるステータスを更に向上させるようなスキルが多い。

 しかし、【遊び人】は例外だ。

 少なくとも僕が【遊び人】となる前の一般常識はそうだった。


 「この世に存在するありとあらゆる魔術がランダムに発動するスキルだったり、感情が昂ったら強制的にタップダンスを踊る羽目になるスキルだったり、天才魔術師として崇められてた頃の僕は『人生終わったな』って確かに思ったよ?だけど、現実を受け入れてどんなにバカげた能力でも自分のスキルを磨き続けていたら今の僕みたいに強くなることができるんだ」


 僕が涼しい顔をして操っている七刀のエネルギーソードだが、これも【遊び人】の固有スキルだ。

 現在の正式名称は【オートドライブソード】。もとになった遊び人の固有スキルは【多動遊戯(ハイパーモーション)】という。


 名前の通り、僕が素手で触った無機質はなんでもかんでも意志を持って暴れ出すというゴミみたいな能力だった。


 「適正職業に就職した時に、赤ん坊の時から築き上げてきた魔力総量とか魔術の腕とかが一夜にして崩れ去ったのはだいぶショックだったね。怒ったら踊り始める体に、弱体化したステータス、愉快な気分にさせられるゴミ職業。危うく鬱になりかけたよ」

 「よくしゃべる野郎だな」


 一通りミニガンを打ち終えた若干逃げ腰でそういった。もう弾は残っていないようだ。

 僕に銃器類の攻撃が一切通用しないことに驚きを隠せないでいるのだろう。


 「久しぶりの話し相手なんだよ。もう少し付き合ってくれ。まあとにかく僕は【多動遊戯(ハイパーモーション)】っていうゴミスキルを何とか活用できないか考えた。僕程度の魔力総量でも扱える下級魔術【魔力武器創造】っていうものと、このゴミスキルを合わせてついに完成したのがこの【オートドライブソード】っていう能力なんだ」


 口では簡単そうに言っているが、実際は毎日禿げそうな思いで苦労していた。

 始めはスキルが幾度も暴走し、鋭い魔力のエネルギーソードが何度も体の節々をつついてきた。

 長い年月と絶え間ない努力を積み重ねてようやく制御することができたのだ。


 「おっと。長話が過ぎてしまったね。そろそろ君を処分しないと」


 それにしてもセルたち遅いなぁ。

 いくら人数が多いとはいえ、セルほどの実力ならば敵を殲滅して今頃僕と合流してもおかしくない頃合いなのに…。


 考え事をしている僕に、暴力団のドンは不敵な笑みを浮かべた。


 「お前…。仲間のことを心配しているんだな?安心しろ。今頃俺の息子の手によって全員殺されていることだろう。大丈夫さ、お前も今すぐあの世へ送ってやる」


 こいつの息子に殺された?

 いやいや、セルに限ってそれはないだろう。

 僕と知り合って十年の付き合いとなる彼女がそう簡単に殺されるはずない。


 なんだ?これは動悸か?

 いやいや、死んでるはずはない。僕の後輩はどこぞの暴力団員に殺されるような奴じゃない。


 「フハハ。動揺が隠せていないみたいだぞ?まだまだ若い野郎だ。そして、お前の剣が俺を攻撃してこない様子を見る限り、その力には何か細かい制約があるみたいだなぁ」

 

 僕が黙っていることを良いことに、暴力団のドンは見当違いなことを言い始めた。


 「そんなわけねぇだろ、僕はただおしゃべりしていただけであって、君を殺せなかったわけじゃない」


 僕はそういうと、これから地獄に落ちるであろう暴力団のドンに向かって鎮魂の意を込め、煽りの言葉を投げかけた。


 「地獄で思い出せよ。君は僕が殺さなくちゃいけなくなるほどの脅威じゃなかったってことをね。それじゃあ用が済んだことだし、さっさと死んでいいよ」

 「は?てめぇ舐めてると痛てぇ目ッ……!!?!?」


 全て言い終わる前に弾け飛ぶ男の頭部。

 首無しの肉体と化した男は、重力に身を任せて地面へと倒れたのだった。


 くそ。くだらない会話に時間を使ってしまった。

 まさかとは思うけど…セルが心配だ。

 早いうちに確認しに行かなければ。


 僕はどこか不吉な予感を感じながらもセルが戦っているであろう孤児院のロビーへと戻ることにするのだった。

 捕虜にされていた人たちは完全に忘れていた。

 今の僕にとってはどうでもよかった。

 

 


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 なんだ…これ…。何が起きているんだ…?


 目の前に転がるのは仲間三人の死骸。

 セルにシアノにルフォ。


 床は三人の血が混ざりあった真っ赤な水たまりができていた。


 「そ、そんな…!セル…死んじゃったの!?」


 なんだこれ、喪失感っていうのか?

 子供のころからの知り合いだったセルが死んじゃった…?そんなはずはない。


 「僕ほどじゃないけど、セルは十分強かった!!一体誰に殺されたんだッ!!!!?」


 孤児院内に響き渡る苦痛の叫び。

 なるほど、僕は悲しいらしい。

 セルがいなくなって絶望しているらしい…。


 さっきまで一緒にいたセル…。突然の出来事はなんだか他人事のように感じてしまう。

 これが他人事であったらどんなに良かったことか…。


 初めての感覚に胃液が込み上げてきた。吐きそうになった。


 「クックック…!!だいぶショックを受けているようだね。仲間が死んで悲しいのかな?特課の職員よ」


 声のした方へ視線を向ける。

 薄暗いの向こう側、不敵な笑みを浮かべている人間の姿があった。


 「黙れ。僕にこんな思いをさせたんだ。父親だかなんだか知らねぇが、大切な人間の死体を今すぐお前に見せてやる。じゃなきゃ僕の気が済まない」


 この感情はなんだ?僕が本当に怒ったらその時は体が全力でタップダンスを踊り始める。

 その痕跡がないということは怒りの感情ではないということになる。


 なるほど…。憎しみか…。


 「アハハハハァァッ!!特課の人間よ!貴様は実に愚かだな!奴は確かに私の肉親だがそこに愛情なんてものは一切ない!むしろ死んで清々するほどだ!どうやら損をしたのは君だけだったみたいだね!!」

 「それはこれからわかる」

 「存分に殺し合おう!貴様を心行くまで嬲りたい気分だ!」


 オートドライブソード全てに殺意を込め、駆動させようとした次の瞬間、ナイフを構え、戦闘態勢に突入していた敵の動きが突然止まった。


 あれ?


 僕が違和感を抱き始めた次の瞬間。


 「あ?あ、れぇ?」


 急に吐血したかと思いきや白目をむいてぶっ倒れたではないか。

 

 「…は?」


 理解の及ばない出来事に僕はしばし唖然としてしまう。

 

 うつぶせに倒れた男の後頭部には武骨なコンバットナイフが突き刺さっていた。


 「え?死んでる?」


 近づいてみて分かったが男は完全に息絶えていた。

 

 「え、エリアル課長?」


 次の瞬間、僕の背後から声が聞こえてきた。

 脊髄反射でオートドライブソードが戦闘態勢に入ろうとしたところ、聞き覚えのある声に僕は声を上げて驚いてしまう。


 「る、ルフォ!?生きてるのか!?で、でもあそこに死体が…。…ま、まさか、成仏してないのか!?」

 「ひ、ひぃぃぃぃい!?殺さないでください!!私は生きてますから!その剣をしまってください!!」


 ゆ、夢じゃないよな…?

 

 僕は我を忘れてルフォの狐耳を触り、実体かどうか確かめようとした。

 見た目は茹で過ぎた葉物野菜だが、予想に反してふわふわだ。しかしセルほどではない。


 「実体?え?死んだんじゃないの?」

 「あ、ああ!すみません!映像切りますね!!」


 ちょっと待って?映像?


 ルフォが手を叩いた次の瞬間、先ほど間で存在していた死体や血痕の跡がきれいさっぱり消えていた。

 後に残るは、壁に張り付いた何千にも及ぶ小型ドローン。部屋一面を等間隔に覆っていた。


 「ご、ごめんなさい。困惑してしまうのも無理はないですよね…。実はこれ3D拡張現実でして、ドローンの投影技術を利用したものなんです」


 と、投影技術?

 つまりさっき見た死体は全部仮想世界のものだったってことなのか?


 いや絶対におかしい、血の生暖かい感触とあの臭い…確かに実態があったはずだ。

 いくら現代魔術社会の技術が進んでいるとは言え、感覚まで再現するのはさすがに不可能だ…。


 「わ、私は幻覚魔術とか洗脳魔術を専門にしてるんです!!この力と拡張現実の技術を同時に利用すれば完璧な仮想世界が作れるんです!!」

 「つまり、セルは死んでいないと?」

 「は、はい。この孤児院の資料を探すために今は別行動しているんです」

 「別行動しているところに、この男が現れて…ルフォは拡張現実と幻覚魔術で惑わしながら戦っていたんだね?」


 僕の頭の中で次々とパズルのピースがはまっていく。

 次に現れた感情は怒りでも悲しみでもなく心からの安堵だった。


 「そうだよね!セルがこんな相手如きに殺される訳がないよね!!ふああああ!!マジでよかったぁぁ…!セルが死んだらどうしようかとおもったよ…」


 幼少期で既に涙は枯れたから、泣きはしなかったけど、僕の心は間違いなく雷雨だった。

 しかし、本当に良かった。生きている心地が全くしなかった。


 「はぁ…。お前、滅茶苦茶コスい手使うなぁ…」

 「す、すみません…こんなの良くないですよね…。相手に仮想世界の幻覚を見せて背後から殺すなんて…」


 ルフォは自嘲的になっていた。


 「いや、コスい手は僕だってよく使うし、むしろ大好きだよ。ただ、仮想世界で見たものがだいぶショックだっただけなんだ」


 おかしいな。僕の精神はかなり強固なはずだが、後輩一人が死んだだけでこんなにも凹んでしまうなんて…。僕って意外と仲間思いだったのかな。


 「セルのことを大切に思っていたなんて意外ですね…」

 「は?」

 「い、いや!ち、ちがくて!いや、違わないけど!!す、すみません…語弊なんです!え、ええと、つまり言いたいのは…自由奔放でセルさんのコトなんて気にも駆けずにほっぽり歩く課長がまさかこんなにもショックを受けるなんて意外だなって!!」

 

 え、全然、悪口に聞こえるんだけど?


 僕のジト目に気が付いたルフォは気まずそうに目を逸らした。 

 「なんでこんなに口下手なんだろう…」と一人で勝手に落ち込み始めているではないか。

 

 「まぁいいや。僕がショック受けてたことセルには言うなよ」

 「な、なんでですか?」

 「そりゃあもちろん、あいつが僕のことをからかってくるに決まっているからだよ。とにかく他言無用な」


 僕がそういうと、ルフォはコクコクと何度も首を縦に振ったのだった。

 

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