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第5話

 奴らの話を聞いていてことの経緯はよくわかった。こいつら暴力団員は孤児院を乗っ取ったのだ。


 一体全体何のために?


 それはこれから調べるとしよう。


 「先輩!無限に敵が湧いてくるんですけど、どうします?戦ってもきりがいないです」

 「ひ、ひぃ!!こっちに来ないでください!!!」


 暴力団員達から逃げ惑っているルフォ。彼女は情けない悲鳴を上げていたが、敵に向かって炎魔術をぶっ放していた。

 それもかなり高火力な魔術ではないか。

 ほんの数秒で焼死体の完成だ。


 「シアノ。まだ持ちこたえられそう?」


 僕の問いに対してシアノは数秒間逡巡したのち、無言でうなずいだ。


 「おっけー。君たち意外と優秀だからこの場は任せるよ!僕は孤児院内を家宅捜索してくるからその間頑張ってね!」

 「ちょ、ちょっと!?戦うのが面倒くさくなったからって逃げないでくださいよ!!」


 セルの訴えを背中で受け流した僕は、孤児院内を全力疾走で駆け巡る。


 ロビーを出てすぐの細長い廊下には数々の武装した暴力団員達で満ち満ちていた。

 

 「特課の執行官だ!今すぐ撃ち殺せ!!!」

 「邪魔だよー」


 次の瞬間、僕の周囲を追従していた七本のエネルギーソードが全敵を穿った。

 僕の固有スキルをもってすれば、銃弾とさほど変わらない弾速で剣を操ることができるのだ。

 並列思考の訓練は必須だけど、習得さえしてしまえば後は簡単。


 「いい子だよー。従順な部下は嫌いじゃない」


 今ではエネルギーソード一つ一つに対して愛情を抱いていた、まるで血の通った子供のように。

 僕がエネルギーソードを優しく撫でたところ、七刀すべてが共振したかのように黒く不気味に発光した。

 どうやらこの子達も僕のことを愛してくれているようだ。


 「さっきから気色悪りィんだよ!死にやがれイカレ野郎!!」

 『キィィィン!!』


 背後から忍び寄ってきた刺客に素早く反応する僕のエネルギーソード。

 刺客の放った鋭いナイフは、黒いエネルギーの集合体に弾かれたのだった。

 

 「一体何人いるのやら。それにしてもやけに大きい孤児院だなぁ。子供が一人もいないのはなんでだろ?ねぇ君何か知ってる?」

 「ガッッ…!?」


 僕の片手で首を絞められた男は、苦しそうに顔をゆがませながらジタバタともがいている。

 巨体の大男だったが、地面から数十センチほど上まで持ち上げることができた。


 「ああ、ごめんごめん。力込めすぎちゃったわ」


 腕の筋肉を少し緩めたところ、絞められている男は勢いよくせき込み始めた。

 どうやら気管まで締めていたらしい。


 「お、お前なんかに言うわけねぇだろボケが」

 「んんー?よく聞こえなかったなぁ」


 ボキボキボキボキ!!!


 「あ、ごめん。肋骨何本か折っちゃったかも…」


 やべ。

 力加減したけど、思ったよりもコイツ脆いぞ。


 「わ、分かった。話す!全部話すから地面に下ろしてくれ!」

 「言ったな?言質獲ったからな?」

 

 聞き出すのに苦戦しそうだなとは思っていたが、こいつらの団結力は意外にも脆いようだった。

 楽に仕事が進みそうだ。


 「それで?子供たちはどこにいるの?」

 「ち、地下の貯蔵庫だ!」

 「嘘つけよ。孤児院なんかに貯蔵庫なんてあるわけないだろ」


 僕は地面で苦しそうに呼吸している大男に向かって一歩足を踏み出す。

 すると、地面で伸びていた彼は慌てて僕を制止した。


 「ま、まってくれ!この孤児院には災害用の食料貯蔵庫が存在するんだ!嘘だと思うなら俺が連れて行ってやる!!」

 

 大男の必死さを見ている限り嘘の情報だとは思えない。

 ほんとにあるのか?こんな孤児院に地下室なんて。


 「ちなみに、地下室の入り口はどこ?」

 「あ、そこの通路を突っ切って右だ!」

 「おっけー。ありがとね!!」


 僕は大男に対して心からのお礼を述べると、流れるように飛び蹴りを入れる。


 「がはッ…そん…な、滅茶苦茶なッ…」


 殺さなかっただけありがたいと思ってほしい。

 あくまで情報のお礼だ。

 もし彼が僕に対して嘘を吐いていた場合、ここまで引き返して気絶している男の脊髄をへし折ればいいだけである。


 えーっと?そのこ廊下を突っ切って右だったな?


 先ほどの記憶を思い返した僕は、孤児院の薄暗い廊下をてくてくと歩いていく。


 ほんとにあるとは思えないけどなー………そんなことを思っていた矢先、地下へと続く階段が現れた。 

 壁に書かれた標識には『食料貯蔵室』と表記されている。


 うわ、ほんとにあるじゃん。

 どうやらあいつの言っていたことは本当だったらしい。


 一段一段降りるごとに、周囲の気温は段々と下がってくる。

 足音が狭い廊下内に反響していた。


 「うーん、カギがかかっているな…。まぁぶっ壊しちゃえばいっか!」


 後で問題になったらセルに始末書書かせればいいし、何とかなるだろう。


 そう考えた僕は、アルミ製の薄い扉を思い切り蹴飛ばした。

 次の瞬間、僕の目に飛び込んできたのは驚くべき光景だった。


 数十人もの子供たちが拘束されており、数名の大人たちは子供をかばうかのように立ちはだかっていた。

 全員来ている服はボロボロでところどころ血が付着している。

 あいつらからひどい仕打ちを受けたのだろう。


 「な、何者だ!!子供たちには手を出さないでくれ!」


 初老の男が僕に向かってそう言い放つ。

 その言葉に続いて数人の大人たちが各々騒ぎ始めた。「子供は見逃してくれだとか」「解放してくれだとか」


 主に助けを求める声が大多数を占めていた。


 「落ち着いて。僕は敵じゃない。君たちを助けに来たんだ」

 「助けに来ただって!?それは本当か!?」

 

 驚愕の表情を浮かべる初老の男に対して、隣に座っていた中年の女がこう言った。「そう簡単に騙されるんじゃありません!証拠を見せてくれるまで私は信じませんからね!」と。 


 まぁ、確かにそうだ。


 子供たちは不安そうな瞳で僕を見つめ、大人たちは疑念に満ちた表情をしている。


 警戒している相手を安心させるには自分の身分を提示するのが道理である。


 そう考えた僕は、スーツの裏ポケットからIDホルダーを取り出し、彼らにしっかりと見えるよう首にかけた。

 僕の身分を証明する、対魔特殊行動課の職員全員が所持しているIDカード。

 これさえあれば、一定の信頼を得ることができるはずだ。


 「対魔特殊行動課……。お、お前さんは特課の人間なのか!?」


 僕の予想通り、警戒心が緩まった。

 流石は国家組織専用の身分証明書だ。悪用できないのがなんとも惜しい。


 「そうだよ。今うえで僕の部下たちがゴミ掃除をしてくれてるからもう安心して良いよ」

 「てことは、特課の連中はもう知ってるのか!?」

 「え?なにが?」

 「あいつらが何をやったのか分かっているからこの孤児院に来て私たちを救おうとしてくれているんだろう?」


 困惑している大人達。

 僕は状況がいまいち理解できていなかった。


 「いや。僕たちはたまたま調査しに来ただけで、孤児院が乗っ取られて、君たちが幽閉されているっていうのはさっき初めて知ったね」

 「そ、そうなのか?ま、まぁ助けが来てくれたんなら何でもいい…。そ、それよりも聞いてくれ!あいつらがこの子達にしようとしていることを!!」


 滅茶苦茶嫌な予感がした。

 できれば関わりたくなかったが、困っている市民を無視したら今世紀最大の大問題となる。


 「ぼ、僕で良かったら話を聞きますよ」

 「あ、あいつら、魔族の犯罪者集団に私たちの子供を売りやがった!!今この場にいる子供たちもじきに売られちまう!」


 魔物化した二人の子供…。同じ孤児院出身…。脊髄に同様の注射跡…。


 僕の頭の中で何かがつながったような気がした。


 「なるほど。そう感じね」

 「た、助けてくれるのか!頼む!私たちを助けくれッ!」


 初老の男の一言と共に、それまで不安そうに状況を伺っていた幼い子供たちが次々と懇願しにきた。

 「お願い!」「私たちを助けて!」「連れていかれた子を助けて!」


 無視する道理なんてあるはずがなかった。

 どうやら僕は、思ったよりも凶悪な事件に首を突っ込んでしまったのかもしれない。

 ああもう、なんで僕担当の任務でこんな事態に陥っちゃうかな…。


 「聞きたいことは沢山ある、子供たちはどこに売られたのかとか、奴らは何者なのかとか…いろいろあるけど。まずは脱出しよっか」


 僕がそう言い終わるのと同時に、孤児院の人たちを縛っていた縄が全て断ち切られた。

 勿論僕のエネルギーソードによる早業だ。


 「それじゃあ行こうか。はぐれないでついていてきてよ」


 巨大な地下室から外に出ようと、扉を開けた次の瞬間。

 

 『ピー!』


 深いな電子音が聞こえてきたかと思いきや、瞬きする間もなくアルミ製の扉が吹き飛ばされ、ついでに僕も吹き飛ばされた。


 辺り一面火薬の臭いが充満している。

  

 「は?」


 僕が困惑していると、階段の上からくぐもった笑い声が聞こえてきた。

 

 「クックック。久しぶりに帰ってみたら、俺のファミリーのほとんどが殺されてるじゃねぇか」


 コツコツという音と共に、声の主はどんどん近づいてきた。


 「大丈夫ですか!?大丈夫ですか!?」


 爆薬によって吹き飛ばされた僕を心配するかのように、孤児院の大人たちが慌てて僕を介抱しようとしてくるが、僕は片手で静止した。


 どうやらついに悪の親玉がお出ましのようだ。

 

 「よくもまぁやってくれたなクソ野郎。お前ら全員ハチの巣にしてやんよ!」


 ついに顔を見せた暴力団のボスは、傷物の顔面を汚くゆがめると、僕たちに向かって一つの銃器を見せびらかしてきた。

 漆黒の鉄パイプが何本も束ねられている大型の殺戮銃。

 その名もミニガンと呼ばれる大型兵器を構えた暴力団のドンは、万にも及ぶ鉛玉を一斉に僕たち目掛けて発砲し始めたのだった。

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