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第4話

 「ねぇここって孤児院なんだよね?僕は孤児院の責任者に聞きたいことがあって来たんだ。君たちに害を与えるつもりは毛頭ないから解放してくれてもいいんじゃない?」

 「黙ってろ、これ以上口を開こうものならお前の舌をナイフでそぎ落とす」


 流石は暴力団員だ。

 脅しの仕方まで完璧である。


 玄関から数秒歩かされた僕たちは、ロビーのような少し大きい空間へと連れてこられていた。

 そして、数十名の暴力団員達が僕たちの周囲を囲っており、それぞれ所持している銃の銃口はもれなく僕たちの元へと向いている。


 「なぁ兄貴、こいつらの処遇はどうしますか?ここで殺ってもいっすかね?」


 下っ端であろう人物が、兄貴と称した男に視線を向けた。

 こいつがこの中で一番権力を持っている人物なのだろう。


 さてさてどうしたものか。


 今後の対応について僕が思い悩んでいる最中、暴力団員たちも同様、僕たちの対応について悩んでいるようだった。 


 「俺たちファミリーのボスが来るっていう日に不審な人間が現れたんだぞ?しかも奴らは対魔特殊行動課ときた。流石に看過できないな」


 兄貴さんはそういうと、鋭い眼光を僕たちに向けてきた。

 

 「ひぃッ…。私たちここで殺されちゃうんだぁ…。アイツ何人も人を殺してそうな目をしてるよぉ…」

 

 ルフォは小声で怯えていた。

 先ほど、「大声を上げたら殺す」と言われたからか声のボリュームはしっかりと落としている。この様子だと奴らには聞かれていないだろう。


 「ねぇどうする?こいつら全員撃破する?」

 「死にたくないよぉ…私どちらかというと後方支援を専門としているのに、なんでこんな目に合わなきゃいけないの…。早く家にかえりたいよぉ」

 「あーあ。完全に怯えちゃってるよ、話にならないね。シアノはどうしたい?」

 

 鼻水と涙をだらだら垂らしながら怯えているルフォを無視し、僕はシアノに意見を伺う。

 すると、彼はスーツの胸ポケットから小さなメモを取り出したかと思いきや、何やら文字を書き始めた。

 あまりにも早い一連の動作によって、幸い暴力団員の連中には気づかれていないようだ。


 『課長に合わせて動きます』

 

 なんだよ。言いたいことはそれだけかよ。

 全く、参考にならない奴らだな…。


 「これって撃退したら後々問題になりませんかね?」

 「大丈夫だと思うよ?まぁあいつらから攻撃してこない限り武力行使はできないから、先制攻撃は無理だけど」

 「分かりました、ないことを願いますけど、もし発砲されたらボコボコにしちゃいましょう」


 そんなこんなで僕たちの意見がまとまった次の瞬間、暴力団員のまとめ役である兄貴が一歩前に出てこんなことを言い放った。「ボスが来る前に殺しちまおうぜ」と。


 「殺しちゃえば何事もなかったことにできる。お前ら間違って味方を打つんじゃねぇぞ!」


 次の瞬間、数々の銃弾が僕たちの元へと飛んできた。

 それぞれが独自の方法で銃弾を防ごうとした次の瞬間。


 「なッ!?防がれた!?」


 突如として現れた透明な壁のようなものに、すべての銃弾が遮られる。

 見えない何かに激突して変形した鉛玉はあっけなくも地面に落ちた。


 「これやったのセル?」

 「ち、違いますよ先輩。結界魔術なんて私扱えません」


 それを聞いて、僕はシアノの方へと視線を向ける。 

 しかし、彼は一言も発さずに首を横に振るだけであった。


 「え、まさかルフォが防いでくれたの?」

 

 驚いた僕は、先ほどまでおどおどしていたはずのルフォに視線を向ける。

 相変わらず彼女の狐耳は自信なさげに垂れていた。


 「は、はい…。私の適正職業は【魔術師】なんです…」


 まって、この人たちって意外と優秀な人材だったりする?

 おかしいな、対魔特殊行動0課は出来損ないの人員が集められる組織じゃないのか?


 一瞬思考停止状態に陥りそうになった僕だが、慌ててまとわりついた疑念を振り払う。 

 戦闘中に考え事などするべきではない。

 舐めプしているのかと誤解されて相手に反感を買うだけだ。


 「まぁこの際なんでもいっか!君たち全員を皆殺しにしてから考えるとしよう」


 僕はそう言うと、腰の鞘からエネルギーソードを取り出し、一人の暴力団員の脊髄を狙って投擲した。

  

 「カヒュッ!」


 咽喉ぼとけを貫かれた暴力団員は何が起こっているのかわかっていない様子。

 首から流れ出る汚い血液を不思議そうに見つめながら絶命していった。


 「マー君がやられた!?てめぇ、よくもッ!!!ただで死ねると思うなよ!?」

 「君たちが悪いんだよ?民法第301条さえなければ脅された時点で君たちを殺すこともできたんだけど、生憎僕たちは国に仕えている。だから先制攻撃はできないんだよね」

 「知らねぇよ!さっさと死ね!!」


 僕の脳天目掛けて発砲される一筋の弾丸、E.V.Eに思考を加速させて回避でもしようかなーと考えていた矢先、突如として目の前に飛翔してきた矢によって銃弾がはじき飛ばされた。


 「シアノ!?君がやったのか!?」

 

 僕の視線の先には、コンパウンドボウを片手に弦を大きく引いているシアノの姿が存在した。

 コイツ、銃弾を矢で弾いたのか!?弓使いだったなんて初耳だ。

 ひょっとして僕が思っている以上に優秀なのだろうか?


 「お、お前ら!こいつら思っている以上に強いぞ!!!むやみやたらと撃つな!向こうの様子を伺ってだな…ッ!?」 

 

 混乱し始めている暴力団員達をなだめようと一歩前にしゃしゃり出てきた一人の男が、シアノの弓矢によってすぐさま射抜かれた。

 どうやらシアノは冷静な人間から殺していくつもりらしい。恐ろしい奴である。


 「久しぶりの対人戦だなぁ!僕も腕が鳴るよ!」

 「クソッ!やっとのことで孤児院を乗っ取れたっていうのに、なんでこんな奴ら戦う羽目になるんだッ!」

 「バカッ!余計な事言うんじゃねぇ!」


 男の失言を僕たちは聞き逃さなかった。

 え?孤児院を乗っ取った?


 「君、聞き捨てにならないこと言ったね?」


 一瞬の間で間合いを詰めた僕は男の首筋に計七本の刀を突き刺す。


 「僕に詳しく教えてくれよ」

 「だ、誰が言うかバカ野郎!」

 「じゃ死になさい」


 四方八方から剣を突き刺された男の生首は激しい血しぶきをあげながら吹き飛んでいった。

 僕のスーツが少し血で汚れてしまった。


 「うああああああ!?ケン!?首が取れてんぞ!?なぁおい!目を覚ましてくれよ!!!」

 「そんなに悲しむことはないさ。安心して君もすぐに同じ所へ送ってあげるからねぇ!」

 「てめぇよくも俺の兄ちゃんを殺しやがったな!殺してやるッ、殺してやるッ!!!」


 とか息巻いている連中も中にはいたが、空中を自由自在に動き回る僕のエネルギーソードを前にするとみんな無力に死んでいった。

 

 「ゴミ掃除は気分がいいね!殺しても誰にも文句を言われないし、むしろ社会から感謝されるんだからさ」

 「せ、先輩。それじゃあ先輩の方が悪人みたいじゃないですか…」

 

 トライデントで脳天を串刺しにするような奴に言われても何も心に響かない。

 人を殺すのはあくまで仕事の一環だ。

 対魔特殊行動課で働いていると様々な危険に直面する。

 魔物との闘い然り、魔族と共謀して人間社会を陥れようとする連中然り。


 当然、僕たちは人間とも戦う。

 悪者は魔族問わずに処刑するのが僕たち対魔特殊行動課のセオリーなのだ。

 まぁ、人間の場合は相手から先制攻撃をされた場合に限るんだけどね。


 実にうざったらしい法律だ。早く民法改正をしてほしいものである。

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