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第12話 

 僕の相手は堕天使とカルダシェフ。

 堕天使を召喚して満足するはずもなく、カルダシェフは普通に僕を攻撃してきた。


 僕は確かにエリートだよ?だけど、一度に二人を相手するなんてのは骨が折れる。

 ここは僕の職業スキル『オートドライブソード』が活躍する番だ。


 合計七刀の黒きエネルギーソードを使役している僕は、二刀をカルダシェフの元へと向かわせ、残りの五刀は僕のアシストに全力を尽くしてもらっていた。


 「クソッ!!忌々しいッ!!」


 カルダシェフを隔離することにはひとまず成功した。

 エネルギーソード二刀が執拗にカルダシェフを攻撃し、何とかけん制している。

 しかし、こんなのでカルダシェフを殺せるはずもなく、膠着状態が続いていた。


 「まずはお前から倒す必要がありそうだ」

 

 僕の眼前で優雅に佇む一人の堕天使。

 呼びかけに応じず無言を貫いている彼女の右手には禍々しいオーラを放つ一振りの剣が握られていた。


 《【警告】莫大なエネルギー量を検知。未登録の魔剣である可能性があります。警戒してください》


 魔剣…。

 僕の脳内に反芻する一つの単語。

 太古の昔から存在する強力な武器。それが魔剣だ。


 この世界に数十本程度しか存在しない骨董品だが、その力は得体の知らないもの。

 初見殺しの可能性も十分にある。今一番相手にしたくない物だった。


 「なんで超レアものの魔剣と戦わなくちゃいけないんだよ!!」


 僕が発狂するのも無理はない。

 そんな僕の叫びを聞いて、遠方で牽制されているカルダシェフが煽ってきた。


 「目の前にいるのは太古の堕天使だぞ?彼女が扱う武器が貧相なわけないじゃないかッ!!お前みたいな人間はすぐに殺される!!」


 生憎僕の耳にはノイズキャンセリング機能が備わっている。

 都合の悪い話とやかましい騒音は簡単にシャットアウトできるのだ。


 《魔力波を検知!攻撃が来ます!》


 E.V.E.の忠告と共に、堕天使が魔剣を振りかざす。

 視認するのもやっとな超スピードであったが、E.V.E.による戦闘アシスト機能【思考加速】により難なく回避に成功。

 すれすれをかすめた魔剣は奇妙な音と共に空気を切り裂いた。


 超高速の一撃を僕が回避できるとは思ってなかったのだろう。

 慣性に従って剣は僕を通過し、一秒にも満たない僅かな瞬間、反撃の道筋ができた。


 魔力強化とE.V.E.による思考加速によって完成する予備動作なしの僕が出せる最速の一撃、二刀流によるに連撃により、堕天使の両腕を切り刻む!!


 て、手ごたえがない!?

 あれ!?斬れて無くね!?


 結構な自信をもって切ったはずだったのだが、堕天使は全くの無傷であった。

 これにはさすがの僕も困惑を隠しきれない。


 まさか…斬った瞬間に再生したのか!?


 「堕天使の魔力量を舐めるなよ!太古の悪魔なんだ!無限に近い魔力総量に卓越した再生魔術!お前如きが勝てるような相手じゃないんだよ!!」


 頬を紅潮させながら興奮気味にまくしたてるカルダシェフ。 

 僕のエネルギーソードによって抑え込まれているが口数が減ることはなかった。


 《堕天使の頭上に浮かぶ輪は高度な演算処理能力を有しており自身の魔力を効率よく使用することができます。聖書によると魔術の発動速度は50%上昇。魔力の使用量は一万分の一となるそうです》


 え、何それずるくない?


 《油断してないで構えて下さい。次が来ますよ》


 休息する暇なんてものはなく、矢継ぎ早に繰り出される攻撃を次々回避していた僕だったが、剣で受けなければならない状況がついにやってきた。


 この体勢に相手の振りかざす速度。

 剣で受け止めなければ僕は間違いなく切り殺される。


 能力不明な魔剣を受け止めたくないんだけど…そんなこと言ってられる状況ではない。

 

 咄嗟の判断で、僕は右手の強化カーボンソードで魔剣をパリィする。

 澄んだ衝撃音と共に魔剣が後方へと弾かれ、少しばかり体勢を崩すルシファー。

 

 そのすきを逃すはずもなく、五刀のエネルギーソードと共に反撃に転じようとした僕であったが…。


 右手が動かないことに気が付いた。


 「は?」


 空間に固定されたかのようにびくともしない強化カーボンソード。

 いくら手に力をこめようと動くことはなかった。


 なるほど、この魔剣の能力は触れたものを固定する。つまるところ触れたものすべての時間を止めてしまうチート能力というわけか…。


 瞬時の状況判断により、迷うことなく右手の強化カーボンソードを捨て、そのまま堕天使に斬りかかる僕。

 軽やかな身のこなしによって一撃目は回避。

 あとを続くように追従する僕のエネルギーソード。


 そのすべてを魔剣で弾かれたと同時に、五刀すべてのエネルギーソードは空中で静止し、微動だにしなくなってしまった。

 

 「時間停止の能力…。なんてめんどくさいんだ…」


 残された武器は左手にある強化カーボンソード一振り。

 これが使えなくなってしまえば、僕の防御手段がなくなってしまう。

 

 《別の策が必要ですね》


 そう。もっとなんかこう…違うやり方でこいつを追い詰めなければ僕が勝つ未来はない。


 剣一刀を握りしめる僕に対し、攻撃を繰り返す堕天使さん。

 洗礼された剣筋に無駄のない動き。

 流石は太古の昔から生きてきた悪魔だ。

 隙の無い矢継ぎ早の攻撃に押されてしまう。


 回避するにしてもギリギリの状況。

 剣で受け止めるにしても魔剣の能力によりその場で固定されてしまう。


 どうしよう…。


 刻一刻と死期は近づいている。

 このまま何もしなければ、僕は防御策を失う。そうなったら一瞬で四肢を切られゲームオーバーだ。

 

 そろそろ切り札を出す時なのか…?


 一瞬の迷いで生じたわずかな隙。

 コンマ一秒にも満たないわずかな油断。太古の昔から生きてきた堕天使にとってはコンマ一秒の隙というものは永遠の隙に感じられたことだろう。

 

 意表を突くような刺突攻撃が僕の頸椎目掛けて飛んできた。

 

 《【警告】不可避の一撃です!剣で防御してください!!》


 回避のタイミングが遅れたことにより、攻撃を避けることは不可能となる。残された道はただ一つ。

 剣でガードし、パリィすること。


 迷っている暇はない。

 今やらなきゃ僕は死ぬ!!


 「キィィン!」


 澄んだ金属音と共に、逆手持ちの強化カーボンソードで魔剣をはじく。

 しかし、最後の防御策であった強化カーボンソードは空中で固定されてしまった。


 触れられたものの時間を止める魔剣…。

 恐るべき能力と対峙している僕は、久しぶりに息が上がっていた。


 「アハハハハハ!!ついに武器がなくなったみたいだなぁ!!おい堕天使!!最後は派手な大技でこいつを殺すんだ!!お前がどれほどの強さを誇っているのかこの目で見てみたい!」


 堕天使ルシファーは表情一つ動かさずに頷くだけだった。

 先ほどから一言も発さず、眼光には光がない。生気も活力も見受けられなかった。


 《おそらくカルダシェフの職業スキルによって所有物とみなされ一種の洗脳状態にあるのでしょう》


 まぁ多分そうだよな。

 何を定義に所有物となるのかは曖昧だけど、彼女が操られているのは間違いない。


 洗脳状態の敵を殺すのは気が引けるけど、堕天使ってことは多分悪者だし誰にも責め立てられないだろう。


 《【警告】強力な魔力の揺らぎを感知!!大技が来ます!》


 堕天使ルシファーは、右手に握られた魔剣の剣先を天へとかざす。

 幾ばくもの積層型魔方陣が展開されたかと思いきや剣先にエネルギーが収縮されていった。


 「なんかヤバそうなんだけど」

 「なるほど!剣先から発生するエネルギーレーザーには触れたものから時間を奪うみたいだ!なんと恐ろしい能力!!今度こそ完全にお前は死んだ!!」


 時間を奪う?

 そんな極悪光線に触れたら僕はどうなっちゃうんだ?


 《あくまでも推測ですが。時間という概念を奪われた瞬間、この次元には存在できなくなり、エリアル様は跡形もなく崩壊するでしょう》


 ヤバ過ぎだろ!

 え?防御方法とかない感じ?


 《現状、この世界に存在する科学技術をもってしても、時間という概念そのものを焼失させる攻撃から身を守るすべはありません。古代魔術なら可能性はありますが、私のデータサーバーからは見つかりませんでした》


 見つかったところで僕が扱えるはずないんだけどね。

 

 そう考えるとやっぱりあれだな。

 

 「撃たれる前にやっちまおう」


 《そうするのが妥当ですね》


 「なに言ってんだお前?バカか?ルシファーの再生速度を上回るほどのダメージ量を出すなんてのは不可能だ!!おとなしく死ぬがいい愚か者めが!」


 E.V.E.。奴が大技を放つまでにかかる時間は?

 

 《おおよそ15秒です》


 なるほど。

 つまり堕天使さんが大技を放てるようになるまでの15秒間。奴は動きもしないし、攻撃から身を守ることもない。なぜなら圧倒的な回復能力の元にはどんな攻撃も無意味だから。


 随分と舐められたものだ。

 

 「僕が彼女の再生能力を上回るほどの攻撃ができるとしたらどうする?」

 「そんなバカなこと起こりえるはずがない。冗談はいい加減にしておけ」


 それができちゃうんですよね。

 僕が本気を出せば。


 どうやって?


 それはもちろん『オートドライブソード』を使う。

 『オートドライブソード』は僕の遊び人スキルから生まれた万能能力だ。 

 意のままに剣を操り、敵を翻弄する。

 今までの僕はそう使ってきた。

 

 しかし、ほかにも使い道はある。


 『オートドライブソード』は魔力を変形させて剣の形にしたエネルギーソードを使っている。

 元の素材は僕の魔力なので、ある程度形に対しての融通は利くのだ。


 大きさ、形、色、個数。 

 その気になれば何億個もエネルギーソードを作成することもできる。

 僕がそれをしないのは、莫大な魔力を必要としあまりにも脳に負荷がかかるからだ。


 じゃあ、エネルギーソードを極限まで細くしたら?


 この場合、必要となる魔力量は格段に減り、極限まで薄くなった剣は不可視の斬撃へと変化。

何億個もエネルギーソードを作ったところで魔力切れになることはないが、まだまだ問題は残っている。


 それは脳が焼き切れてしまうということ。

 

 しかし、これは簡単に解決できる。

 方法は至ってシンプルだ。

 僕の脳では7刀のエネルギーソードを同時に動かすのが限界。一つ一つに対して動きを命令、そんなことをすれば当然脳の処理は追いつかない。

 

 だったら簡単な命令だけを飛ばしておけばよいのだ。

 「その場で不規則に動きまくる」こんな感じの命令を飛ばすだけで、エネルギーソードは勝手に動き出す。

 一刀だけでは物足りないが、これが何億刀もあれば?


 応えは至ってシンプルだ。


 その空間に存在するすべてのものを分子レベルにまで切り刻むことができる。


 「『オートドライブソード』!!!」


 僕の一言と共に、極限まで鋭利になった不可視のエネルギーソードが堕天使ルシファーに襲い掛かった。

 絶え間ない斬撃。不可視の斬撃。一度に何億もの斬撃が堕天使を襲い、飛び散る血しぶきですら切り刻み、跡形もなく消し去る。


 ルシファーの再生速度など余裕で上回っていた。

 相手が異変に気付いた時には既に手遅れだ。

 

 「は?」


 困惑するカルダシェフ。

 呆けた表情で茫然自失と傍観している。


 「き、貴様…な、何をした!?」

 

 数秒で消え去った。

 堕天使も、積層型魔方陣も、周囲の地形でさえ。


 カルダシェフが驚愕するのも無理はない。

 堕天使が立っていた空間半径5mが跡形もなく削り取られていたのだから。


 後に残るは魔剣のみ。

 触れたものの時間を止める性質のためか、魔剣だけは切られずに残っていた。


 「まぁ、こういうことだよカルダシェフ君。僕の手にかかれば古代の悪魔なんてもんは一瞬で処理できるんだよ」


 対魔特殊行動課を舐めないでほしい。

 僕たちの本業はこの人間界に侵入してきた魔物を駆除することなのだ。

 この程度の相手に僕が負けるはずない。


 「噓だ噓だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!私は信じない!!そんなわけがない!!こんなことがあってたまるかぁぁッ!!!」


 叫び出すカルダシェフを片目に僕は何とか平静さを保っていた。

 既に魔力の大半を失い、立っているのがやっとだ。今後数時間、僕はスキルを使うことができないだろう。

 しかし、それは相手も同じこと。

 大型の召喚魔術を使った影響でほとんどの魔力を使い果たしたはずだ。これ以上魔術を扱うことなんて不可能である。


 《経口補水魔液はもってないんですか?》


 ああ…それならバックパックに入っているはずだ。

 飲めば魔力が回復する万能薬は、対魔特殊行動課のエージェントにとって当たり前の所持品だし。


 僕は腰のポーチに手を伸ばす、しかし目的のボトルは見当たらない。


 ん?


 おっかしいな…。ないんだけど…?


 「あ…。やべ。机の上に置きっぱなしだったわ」


 普通にやらかした。


 《何をしているんですか!?直ちにカルダシェフを拘束してください!!》


 発狂していたはずのカルダシェフは、いつの間にか地面に転がっている主なしの魔剣を手にしている。

 その血走った瞳は魔剣から僕の元へと…。


 「殺す!!!」


 カルダシェフはそう叫んだようだった。

 剣を構え、魔力切れを起こしている僕の元に突っ込んでくるではないか。


 やばいやばいやばい!!

 だ、誰かッーー!助けてくれ!殺されちゃう!!


 そもそも身を守る武器がないんだ!

 僕の強化カーボンソードは忌々しい魔剣の効力で空中に固定されたままだ。

 丸腰の状態でどうやって身を守れと?


 僕が心の中で悲鳴を上げていた次の瞬間。


 空気を切り裂くような音と共に二刀のダガーが地面に突き刺さった。


 これは…?


 困惑する僕だったが、そんな場合ではないことを思い出す。

 武器だ!

 武器があればこいつのカウンターで仕留められる!


 最後の力を振り絞り、僕はダガーでパリィした。


 「まだそんな力が!?」


 驚愕するカルダシェフに、もう一つのダガーが襲い掛かる。

 一つは空中に固定されてしまったようだが、僕は二刀流なのだ。


 「グアッ!?」


 僕の放った鋭い刃が男の静動脈を突き刺す。

 致命傷は避けたが、再起不能に振ることができる凶悪な一突きだ。


 少しギリギリの戦いだったかもしれない。

 どちらにせよ、滅茶苦茶疲れたことには変わりないだろう。


 気を失っているカルダシェフを片目に僕はため息を吐いたのだった。


 

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