新種発見
「国内で、新しい人種が発見された」
そういうよくわからない報告が、我が研究所に持ち込まれた。その他に、とくに情報がないので精査できない。
しかしまぁ、真偽不明の情報だとしても、それは確かめる必要がある。とっとと行ってこい、とのありがたいお言葉をちょうだいし、『加山』という話をしたことのない研究員と私でバディを組まされ、放り出された。
移動中の車内。重苦しい雰囲気が漂い、非常に居心地が悪い。私は免許を持っていないので、運転は加山に任せっきりなのも、非常に後ろめたい。
おなじ研究対象を探す仲間なのだし、ここは打ち解けておかないと、後々やりづらい。なにより静かすぎて発狂しそうなので、積極的に話しかけてみることにした。
「はじめましてですね。今日はよろしくお願いします、加山さん」
「ん」
会話が終わった。
会話というのはキャッチボール。私がボールを投げて相手が受け取って「ナイピ☆」とか言って、投げ返してくることで成立するものである。
しかも私は括弧や句読点を入れたら三十文字も喋っているのに、加山は三文字である。これは許されない。到底許されることではない。
「加山さんはなぜ、この仕事を引き受けたのですか? 私はもう、主任のお願い攻勢にあっちゃって、断りにくくなっ—」
「いつの間にか」
会話が終わった。
なんだこれは。なんだここは。なんだこの人は。許されざる。許されざる人ではないか。もはや会話することが罰ゲームだ。しかし、残念ながら私は沈黙に耐えられない。
耐えられないなら、抗えば良い。
「そういえば、あの研究ってどうなったんでしょうね? 所内でも噂になった—」
「知らない」
「そうそう。所長の奥さんがまたおめでたらしいですよ。子沢山で良いこと—」
「わからない」
「粉塵爆はt」
「小麦粉か何かだ」
ラーメンズかよ。
そんなこんなで件の土地に着いた。ここで新種の人類? 新人類? を見かけたと報告があったのだが、見た限り、普通の山裾ののどかな村にしか見えない。
「ここで『新しい人種』が発見されたんですか?」
「ここは俺の生まれ故郷だが、そんな話は聞いたことがない」
初めて私よりも長いセリフを言った。私は勝ったのだ。いやいや、勝ち負けではないし、ここが生まれ故郷?
「ここが加山さんの生まれ故郷なんですか。良いところじゃないですか」
「単なる田舎だよ」
無愛想にボソッと吐き捨てる加山。
「あ。私、新種の人類、目星がついちゃいました。名称も」
「なんだそれは」
「ぼくねんじん」