第7話 欠けたピースの在処
「幸いなことに怪我はなく……というか先輩たちを目がけて突っ込んできたが、途中で大きく逸れて九死に一生、ということだったそうだ」
「驚いたわよね。展示会の次の日って普通に大学だったでしょ? 仁さんも紗蘭さんも、そんな目に遭った素振りも見せなかったから全く気づかなかったわ」
呆けたまま閉じることすら忘れた半開きの唇。ものの数秒でそこから水分が逃げていって、そのせいで乾いた舌じゃ海老原さんたちの言葉に相槌すら打てない。それぐらいには衝撃を受けた。
展示会楽しかったね、じゃあまた大学で。多分そんなありふれた挨拶を交わしたであろう後に、そんな事件が鱓野さんたちを襲っていたなんて。あの時点で、永遠の別れがすぐそこまで迫っていたなんて、想像すらしてなかった。
その事実が次から次へと背筋に冷たい汗を呼んで、身体から血の気が引いていく。重たい吐息の温さが厭に生々しい。
「運転していたのは荒井 剛という男で、電柱に激突した車内で死亡……ここまでが、後からネットニュースで確認した部分。ここからは嶋崎さんから聞いたことだが、実際は何やら命乞いのようなことを泣き叫びながらその場で自殺したらしい」
「鱓野さんたちを殺そうとしときながら、自殺……? 命乞いしながら……? 何、それ……」
「意味が分からないだろう? 嶋崎さんがこれを話してくれたのは埠頭の監視カメラ映像の確認に呼ばれたあとのことなのだが、あの人ですらこの事件を気味悪く思って、半ば忘れようとしてたらしい。そんなことせずにあの時からもっとしっかり警戒していれば紗蘭たちが死なずに済んだのではないか……と後悔していた」
口調は淡々と、声音は穏やかに、しかし表情はそれらでは隠しきれないほどの怖気で強張らせながら、海老原さんは言葉を続ける。
「……僕が展示会に行きたくなかったのはね、嶋崎さんの話し方からしてこれが単なる事故ではなく、荒井が先輩と紗蘭のどちらかないし両方の命が狙って起こした殺人未遂と断定した口調だったからだ。観測した限り最初に殺害を狙ったこの事件さえ起こらなければ、先輩たちに降りかかる火の粉を払い除けられると思って。……現実はそこまで甘くなかったが」
「遊びの行き先も日時も変えたのに、結局似たようなことが起こっちゃったものね、形は違うけど。どうしたら未然に防げたのかしら……」
「……ありがとう、教えてくれて。これも記録しときたいからさ、悪いけどさっきの犯人の名前、どういう字で書くのかも教えてほしい」
「ああ、犯人の名前はね……………………はい。確かこうだったよ」
海老原さんは手元の紙に素早くペンを走らせ、荒井 剛と書かれたそれを見せてくれた。短い礼の言葉を言い終えるより早くに手帳に書き写し、その後に事件の概要を記しながら思考する。
(遊びに行く先は変えた。日時だって早めた。でも、前回も今回も紗蘭さんの命を狙った事件が起こった。今回は複数犯であることを合わせて考えると、何としてでも紗蘭さんを殺したい勢力がいるのは明らか。それはもう嫌ってほど分かったけど……)
ある意味、こいつらの詳細が分からない以上の問題が残ってしまう。それは、事件同士の繋がりが見えてこないこと。
狙われたのは紗蘭さんだけど、あたしたちを遠ざけたがっていたのは鱓野さん。その鱓野さんは命を狙われているはずの紗蘭さんに殺された。紗蘭さんが焼け死んだのは……当の勢力に殺されたと考えるべきだろうか。埠頭内に鱓野さんたち以外が侵入した映像がない以上、断定はできないけれど。
……いずれにせよ、時期的に無関係とは考えにくいという憶測の範囲から出られない。概要だけ見せられたら全く別々の事件なんだと解釈しそうな程度には。それが分かって尚、あたしの脳はまだ見えない繋がりを見ようと徒に考えを巡らせて……そんな繰り返し。
(それは分かってるのに、持ってない情報を必死に探しちゃうんだよね……。2人を救いたい気持ちが逸っちゃうと……)
今更だけど、端からピースの足りないジグソーパズルでもやらされている気分だ。大まかな絵柄は分かりそうなのに、欠けたピースのせいで決定的な全体像が見えてこない。その欠けたピースがどこを探せども見つからない。そんな行き場のないもやもやばかりがひたすら募っていく。
……こんな堂々巡りをやっている場合じゃない。今は分かる限りの情報を、海老原さんたちと嵌めていく方が遥かに有意義だ。前回紗蘭さんが殺されかけた事件について記し終えたのは、ちょうどそんなことを自分に言い聞かせた時だった。
「お待たせ、書き終わったよ。それで……公園の話までしたんだっけ?」
「そうだね」
「じゃあ、クリスマスについては話し終えたかな。そこからタイムリープするまでは引き籠もっていただけだから……」
他にタイムリープ前のことで気になる点は……チャットアプリに兄様から大量のメッセージが届いていたことくらいだ。
流石にあたしの実家についてまで話されたところで海老原さんたちも困るだろうし、そもそも事件と関係あるとも思えないし、これは別にスルーしていっか。
「それじゃ、ここからはタイムリープ後のことだね。あなたたちがブルームに来た日にあった出来事なんだけど……」
「ん? あの日他に何かあったのかい?」
「まぁ、ね……。正確には、あなたたちが来る直前のことでさ。ブルームだとあんまり珍しいことじゃないんだけど、度が過ぎた迷惑行為をする一見さんが来ることがあるの。その日来た迷惑客がね、ドス……遊園地帰りに紗蘭さんの命狙った奴が持ってたのと同じ刃物を持ち出して──」
「はぁ?」
半分がなり声が混ざった、地を叩き割るかのような低音。それを発した海老原さんの右手の中でペンが悲鳴を上げたのと同時に、それまで穏やかな様子だった切れ長の目が一気に見開かれ、眼球にビキリと血管が浮かび上がったのが見えた。その横で同じように瑠璃色の瞳を赤い筋で囲んでいる彼女と揃って、眼輪以外が無と化した顔であたしを見つめてくる。
ほぼホラーに等しいその絵面が怖すぎるあまり、引きつった喉に空気がつっかえて悲鳴すら上げられなかった。何もそんなところまで兄妹らしくしなくてもいいのに……。
「……………………それで?」
「ぇ……」
「それで? ドスって言ったか? そんなのを持ち出したとかいう大馬鹿者が、何なんだ? まさかそんなことがあってはならないが、君や紗蘭に危害を加えたのか? まさか、あってはならないが。ないよな?」
海老原さん、お願いだからその血走った目と無表情のままで問い詰めてこないで、こっちガン見しないで。あのブリザードスマイルの方が幾分かマシだったなんて知りたくなかったよ。よく聞いたら若干口調変わっちゃってるし、余計に怖い。
あと、真璃愛さんは無言でパンチの素振りしないで。勢い余って海老原さんの頭殴っちゃってるの気づいてないでしょ、絶対。ていうかそのシュババババって感じの目にも留まらぬ速さの拳、どうやって繰り出してるの。
「や……ぁ、のね、対処は店主さんが、してくれて……。あたしも紗蘭さんも、何もされてない、から……だから……」
「なんだ、そうだったか! それなら問題ないね!」
「も~、それを早く言ってよ! エルさんたちに何かあったら、怒りでお兄ちゃんをサンドバッグにしちゃうとこだったわ!」
3徹目でも眠れない人みたいな顔が一転、あれだけ主張していた血管が眼球から消え、2人同時に眩しいくらいの笑顔を取り戻した。変化が一瞬過ぎてこれはこれで怖いけど、ひとまず安堵の溜め息が出た。何かこう、ホッと胸を撫で下ろす感じじゃなくて、疲労混じりの盛大なやつ。
というか真璃愛さん、サンドバッグにしちゃうとこだったんじゃないんだよ。してたんだよ、あなた。
「何ともないのは分かったが、今日の男と同じ凶器を持ってたということは、あの日紗蘭の命を狙ってブルームに襲撃してきた輩がいたということかい?」
「そうじゃないと思う。最初は普通に飲んでて、酔った弾みの迷惑行為がきっかけだったから。ドスを取り出したのだって、紗蘭さんに蹴り飛ばされたからだし。あたしが気になってるのはそこじゃなくてさ。そのお客さんが迷惑行為やって店主さんに追い出されたのは前回通りなんだけど、ドスを持ってなかったの」
「……つまり、何故か今回はドスを持ってくるという出来事が追加されてたってことだよね?」
「うん。基本的にさ、意識して前回と違う行動を取らない限り、みんな前回の行動を踏襲するじゃない? でも当然あたしはそんな風に変えるようなことしてない……というか、できないんだよ。ブルームに来て初めて顔を合わせたんだから」
「確かに……それは気がかりだな……」
「おかしいわよねぇ。変えようもないのに、過去から出来事が変わってるって、そんなことありえるのかしら……?」
左手を顎に当てながら心底怪訝な顔をした海老原さんは、そのまま右手のペンを紙に走らせ、メモを取る。隣の真璃愛さんも同じように訝しげな表情で腕を組みながら考え事をしている。
……この様子を見る限り、海老原さんがああなるように未来を変えたわけじゃなさそう。分かっていたことだけど、改めてそうと判明した今の方が安心感は段違いだ。
それならそれで何で未来が変わったのかって問題が発生するけど、考えられる可能性はただ一つ。
「……いるのかな、タイムリープの記憶持ち。あたしたちが知らないだけで、あたしたちの他にも……」
「それは考えられない……と、言いたいところだが……今となっては可能性は捨てきれないね」
だろうね、と海老原さんの言葉に内心頷く。
自分で言ったもんね、あなた。あたしが記憶持ってることに関して、それ自体おかしいって。それについて話すと言っておきながら、あなたは結局触れすらしなかったけど。
やっぱり思うところがあってわざと避けたのか、ただ単に忘れていただけなのか……。それはまた後で聞くとしよう。
「それとさ、もう1つ気になることあってね。迷惑客は結局店主さんに追い払われたんだけど、その時ドスを置いてったの。それを見た店主さんがさ、言ってたんだ。ドスに組の紋はない……って」
「組……?」
「それで、さ……ここからは落ち着いて、なるべく怖がらずに聞いてほしいんだけど……」
「え、なになに、その前置き。もうそれがすでにちょっと怖いわよ?」
「僕自身は並大抵のことでは怖気づかない性分だと自負しているが……そんなに改まるほどのことなのかい?」
「まぁ、オカルト系じゃないからね。……ブルームの常連さんが話してたことなんだけどさ、店主さん……どうもヤクザと交流があるらしいんだ」
「……ヤクザ」
疑問を呈するでも、怯えるでもなく、ぽそりとした抑揚ない鸚鵡返し。そんな海老原さんの声に頷きつつ、あたしは話を続ける。
「店主さん、そのヤクザに気に入られてて、ブルームに飲みに来ることもあるみたい。あたしも最近知ったことだし、それっぽい人見たことない……というか常連さんみんなアウトローな見た目だから、見分けついてないと思うの」
「……………………」
「前回店主さん、組がどうのってどこかに電話かけてたんでしょ? それと、さっき言った組の紋の話。もしかしたらだけど、これに関係してるんじゃないかって考えてるんだ。まだハッキリ分かってるわけじゃないけど、一応あなたには知らせておいた方がいいかと思って……。それで、ね? そのヤクザの名前は──」
「雅瀾組、だろう?」
「……………………え」
2人、特に真璃愛さんがまた店主さんのこと怖がったりしないでくれたらいいな、と思いつつ正直に話すものの、それに応える声はない。それでも話を進める中でようやく返ってきた声は、今まさにあたしが口にしようとしていたあの名前を、ハッキリと強い声音で先に言いきった。
それに呆気に取られて、口先まで出かかっていた言葉を放つはずだった口は、半端に開いたまま間の抜けた声しか発せなかった。そんなあたしを、海老原さんたちは真っ直ぐに見つめてくる。その表情を観察すれば、どちらも怖がるどころか「やっぱりね」と言いたげな様子さえ感じ取れた。
実際にヤクザの名前を口に出した海老原さんはもちろん、真璃愛さんも雅瀾組を知っているらしい。
「前回、とある常連さんと少しだけ話をするタイミングがあったんだよ。詳細な情報が得られたわけではないないが、大学やブルームがある一帯では昔から有名なヤクザらしいね。嶋崎さんと浅からぬ交流があるその組織が妙にピリつき出してから色々と起こり始めたと聞いた。まさかエルもこのことを知っているとは夢にも思わなかったよ。その常連さん、嶋崎さんなら君に知らせてないはずだと言っていたから」
「知ったのは今回、というかあなたたちが店に来た日が初めてだよ。あんまり褒められたことじゃないけど、情報欲しさにお客さんたちの話を盗み聞きしてさ」
「なるほど。自分のバイト先がアングラと繋がってると言ったら不必要に怯えさせてしまうかもと言わないでおいたが、どうやら余計なお世話だったようだね」
「余計なお世話ってわけじゃないけど、別に今更店主さんやブルームが怖いとか思わないよ。立地が立地だし、客層も客層だし、何よりとっくの昔に慣れた」
「ははっ、それもそうか」
「お兄ちゃんにも言えることだけど、妙なところで胆据わってるわよね~、エルさんって。何か本当に兄妹みたい!」
時折瓜二つな表情をする目の前の兄妹は、今も鏡映しのように揃って笑顔を見せている。口角と目尻がふわっと解けた、そんな朗らかな笑顔。
こうして見るからに海老原さんとよく似た子に兄妹みたいと言われると……誓って不快なわけじゃないけど、何だか素直に喜べはしないような……そんな少し複雑な気分で心臓がチクリと痛んでしまう。
「まぁそれでだ、もしかしたら事件と関係あるかもと、僕の方でも雅瀾組やヤクザについて調べたりもしたよ。調べたと言っても、資料は昔の新聞の切り抜きやアングラ関係の本、あとはネットの情報くらいしかなかったけどね」
「新聞……アングラ関係の本…………あっ! そう言えばあなた、この前大学の図書館で……!」
「あぁ、やっぱり気づいたよね。当たり前か、前回のあの日、僕は図書館に行かなかったからね」
「何ならあの日にエルさんが図書館にいることすら知らなかったもの、私たち」
あの時はびっくりしたわよね~、なんて気の抜けた声で真璃愛さんは海老原さんに語りかけるけど、それはこっちのセリフだ。前回は鉢合わせなかったはずの人たちが何故か立て続けに前回と違う行動を繰り返していると気づいた時、あたしがどれだけ冷や汗流したか……。
「あの時持ってきた物の中にあったファイルが新聞の切り抜きをまとめた物なんだ。以前図書館を利用した時に地域内で起こった事件や祝い事を主にまとめているファイルがあったのを思い出して、それなら雅瀾組について詳しく調べられるかもと考えたんだ、が……」
「……その落胆顔からして、期待外れに終わったんだね」
「まぁ、そういうことになってしまうかな。ほとんど名前も出てこなかったのは事実だし。アングラ関係の本も大体同様さ」
「仕方ないわよねぇ。あくまで新聞であって、ヤクザの専門書とかじゃないもの。……あれ、でも何かなかったかしら? 雅瀾組かは思い出せないけど、ヤクザに関する記事」
ふわふわ遊ばせていた右手の人差し指を顎に添える真璃愛さんの言葉に釣られるように、あたしの頭も自然と記憶を探り出す。ヤクザ関係の記事……と曖昧な情報だけを頼りに思い返してみると、そういえば真璃愛さんが海老原さんと一緒にファイルを読んでいる時にそんな話をしていたような気がしてきた。
でも確か、あの記事って……。
「ねぇ、その新聞さ、ヤクザ関係の記事何にもなかったの? 1つも?」
「えっ? …………あ、いや、確かあったにはあったよ。ただ、それはあるヤクザが崩壊だか何だかしたって感じの記事だったと思うから、恐らくその雅瀾組とは関係ないことだと思うよ。常連さんの口ぶりを思い返すに雅瀾組は現存している組織のようだし」
やっぱりそうだ。あの時の真璃愛さんが言っていたように、崩壊したヤクザ組織に関する内容だった。確かかなり前の記事だった気がする。何だっけ……内輪揉めが原因で、組長の妻と息子が亡くなったとか何とか……かなりうろ覚えだけど……。
そんな風に頭は記憶を探りつつ、手はペン先を紙面に走らせ記録を始める。
「その記事の内容、もう少し思い出せない? 崩壊した組織の名前とかさ」
「うーーーん…………確か10年近く前の記事だったような気がするが、組織の名前まではちょっと……。そもそも事件と関係ないと判断してロクに読み込まずにページを進めてしまったから、覚えてることの方が少ないよ。雅瀾組の名前を見た記憶がないのは確実だけども……」
「そんなお兄ちゃんのせいで私はもっと読めなかったから、私も分かんないわね」
「そっか……」
この件は、これ以上追及しても意味なさそうだな。とにかく、海老原さんたちに雅瀾組の件を伝える……というか2人が組のこと知っていると判明しただけでも立派な収穫だ。今後その雅瀾組が事件に絡んできても情報共有がしやすくなる。……尤も、ヤクザなんかと関わらないで済むのが一番なんだけど。
前回事件と密接な関わりがあったなら、それも難しいのかもな……なんて愚痴を内心吐いたと同時に、手帳への記録を終えた。海老原さんも同じように書き留めていたようだ。
「雅瀾組に関する話はこんなところかな。知ってることも、事件と関わってる可能性があることと、店主さんと交流があることくらいだし」
「そうだね、僕も大体同じだ。……気になる点がまだ1つだけあるけども」
「え、何?」
「紗蘭だよ。嶋崎さんの養女である彼女が、雅瀾組についてどこまで知ってるのか」
「あ! 言われてみればそうよね!」
「確かに……紗蘭さん、高校まではブルームで暮らしてたから、知っててもおかしくないか」
「手っ取り早いのは本人もしくは嶋崎さんに聞くこと、だが……」
「……絶対教えてくれないと思うよ、特に店主さん。ブルームでバイトして3年目のあたしに言ってない時点でお察しでしょ」
「そもそも今回の嶋崎さんは、私たちが雅瀾組のこと知ってるとは思ってないわけじゃない? そんな状況で聞いても、逆にどこで知ったんだって追及されたら、返す言葉が……ねぇ」
真璃愛さんの言う通り。最悪は常連さんの雑談を盗み聞きしたと正直に話せば聞けるかもしれないけど、これに関しては現状下手に触れない方が多分吉だ。紗蘭さんがヤクザのこと知っているかどうかで、こっちが取れる行動が増える可能性はあるけども……。
「今話し合っても進展は見込めないね。このことは頭の片隅に留めておくだけにしておこうか」
「だね。となると、次は……」
海老原さんが言った疑問点を手帳に書き加えつつ、次に話すべきことは……と脳内を探って、残る共有事項を思い出した。……と同時に、胸からお腹の底にかけて重い物が沈んだような苦しさを覚える。
「? エル、大丈夫かい?」
「……うん」
残るこれは、クリスマスのことと同じくらい思い出したくない。
でも、あたしが話さなきゃ。そのために、ちゃんと全部思い返さなきゃ。
「それで、次は…………紗蘭さんが襲われる前後のこと、話すね」




