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第14話 高嶺乃花の憂鬱

《三人称視点》


 その日の夕方。

 大通りの角にある、とある喫茶店にて。


「どしたん乃花のんか。急にカフェに誘ってくるなんて。今日は弓道部の仮入部に行くんじゃなかったっけ?」


 一人の少女が、オレンジジュースの入ったコップの縁をなぞりながら告げる。

 彼女の名は涼城真美すずしろまみ。黒髪を一部紫のメッシュに染めている、小柄の女子である。

 山台高校の一年生であり、中等部からの内部進学組。

 明るく気さくな性格で、男女問わず人気が高い彼女は、同じ内部進学組である高嶺乃花の親友でもあった。


「……うん、実はちょっとだけショックなことがあって。まあ、()()()()()()()()()()()()()()()()って、自分勝手に期待してた私が悪いんだけどさ」


 テーブルを挟んで真美の向かいに座る乃花は、心ここにあらずといった表情でメロンソーダに挿したストローをぐるぐると回す。

 それから、「はぁ~」と盛大にため息をついた。


「うぇ~、こりゃまた重傷だねぇ」

「そんな重傷に見える?」

「見える見える。中学の頃から、「高校生になったら弓道部に入る!」って騒ぎまくってたし。ダンジョン冒険者のジョブも、一番不人気の“弓使い(アーチャー)”とか選ぶし。それなのに、仮入部初日にバックレるって。正直乃花が偽物なんじゃないかって疑ってるレベル」

「そ、そんなに?」

「そんなに」


 恥ずかしげに頬を染めた乃花に、真美はジト目で突っ込んだ。


「まあ、あんたが何に落ち込んでるのかは知らないけどさ。ほら、これ見て元気だそ?」


 真美は自身のスマホを取り出して操作すると、対面にいる乃花に画面を見せつけた。


「何それ」

「昨日のダンジョン配信の切り抜き~。公式じゃないのに、もう500万再生突破してるとか、激ヤバだよね~」

「ふーん」

「いや、「ふーん」て! 反応うす! てかちょっとは見ろよ! 最弱ジョブなのにマジ無双してっから! 激アツだよ!」

「う~ん。でもなぁ、()()()()()()()()()


 どこか冷めた真美に対し、乃花は頬杖をつきながら応じた。


「はぁ!? これ見ないとか人生の180割損してるよ! 私なんて、もう切り抜き30周は見てるから!」

「へ、へぇ……」

「ちな、PINEとイソスタのアイコンも、この子にしてるよ!」

「へぇ……って、ちょちょちょ! それはマズくない? 主にプライバシー的な意味で」


 慌ててツッコミを入れる乃花だったが、真美は忙しなく画面を操作して、PINEのアイコンを乃花に見せつけた。

 そこには、綺麗な白髪でゴーグルを付けている、女の子と思しき人物の顔がドアップで映っていた。

 

 しかも、ハートやら猫のヒゲやらでデコったあげく、可愛い丸文字で「最強!」「推し!」などと書かれている。

 最強の弓使いの威厳はもはやゼロ。見事なまでに可愛くドレスアップさせられていた。


「ね! 可愛いっしょ?」

「う、うん……」


 最早どこから突っ込んで良いかわからず、頷くことしかできない乃花であった。


「てか、なんで動画見ないわけ? あんたも同じ“弓使い(アーチャー)”でしょうが」

「そ、それは――」


 乃花は、思わず口ごもってしまう。

 そのままバツが悪そうに、メロンソーダを口に含んだところで、真美が何かに気付いた用に叫んだ。


「あ! わかった! さては()()()()()()()以外の“弓使い(アーチャー)”が世間から注目されてて、拗ねてんでしょ!」

「ブハッ……ゲホッ、ゴホッ!」

 

 とたん、乃花は口に含んでいたメロンソーダを危うく吹きこぼしかけ、激しく咳き込んだ。


「あ、あれ。もしかして図星?」

「ばっ! そ、そそそ、そんなわけにゃいでしょ!!」


 何事かと周りに注目されていることに気付かず、早口でまくし立てる乃花。

 本人はそう言ってはいるが、何せ顔は真っ赤で噛みまくっているから、説得力が全くない。


「えー? ほんとにぃ? てっきり、「どこの馬の骨とも知らない“弓使い(アーチャー)”なんかより、あの子の方が強いもん! ぷいっ!」とか思ってるんだと……」

「そ、そんなこと! ……お、思ってないわけじゃ、ないこともないけど」

「いやどっちよ」


 しゅんと縮こまってしまう乃花に、呆れたように突っ込む真美。


「はぁ~、まったく。乃花はその男の子にゾッコンだからなぁ~」

「ち、ちが! 「かっくん」はそんなんじゃなくて! ただ、優しくて、頼りがいがあって、弓捌きが上手くて、私もいつかかっくんみたいになりたいって思ってるだけ!」

「それを世間一般では、ゾッコンて言うんじゃない?」

「うぅ……」


 またまた赤面して顔を伏せる乃花。

 なまじ真美の言っていることは全て真実であるがゆえに、否定しようとしてもボロが出てしまうだけだった。


「まあ、乃花の中で、その思い出の男の子が最強の弓使いだってことは知ってたけどさ。なんでその子に惚れ込んでんの?」

「そ、それは……いろいろあったというか」

「えぇ~、なんではぐらかすの。聞かせてくれても良いじゃん。今まで詳しいことは何も教えてくれなかったんだからさ。乃花が恋に落ちちゃった経緯も含めて聞かせてよ〜」

「こ、恋って! だから、かっくんはそういうんじゃなくて!」


 なんとかはぐらかそうとする乃花だったが、既に聞く体制に入っている真美を見て、無駄だと悟る。


「――あ、あんまり大した話じゃないけど」


 そう前置きをして、乃花はとつとつと語り始めた。

 6年前。ここから遠い場所に住んでいたときに出会った、とある弓使いの少年のことを。


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