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7 告白


「えっ!」


 大通りから逸れた脇道の歩道を桜公園へと上っている最中、声を上げた。伝えられた事案に驚き過ぎて思わず。先程中断してしまった話の続きを己花さんから聞いていた。手で口を押さえた。


『銀河君とあのお客さん、双子の兄弟だったのっ?』


 声には出さず、己花さんに確認する。


『似てるとは考えませんでしたの?』


 呆れている雰囲気で己花さんが言ってくる。苦笑して答えた。


『言われてみれば確かに顔が似てるね。でも髪とか雰囲気とかで全然気付かなかったよ』


 そんな会話をしている内に桜公園に着いた。緩やかな坂道の途中にあり、周辺にはマンションが多く立ち並んでいる。街灯が照らし出す夜の公園に人影を見付けた。


 声を掛ける前に相手が気付いてくれた。


「店員さん」


 ホッとするような朗らかな表情で笑い掛けてくれた。小走りに近寄る。


「お待たせしました」


「来てくれてありがとう」


 お礼の言葉と共に微笑みを向けられて胸がぎゅっと苦しくなった。今日は彼の相談に乗る為にここへ来た筈なのに。もっと話したいとかもっと親しくなりたいとか下心を持っている自分に後ろめたくなる。


 私はきっと彼が好きなのだと思った。


「……銀河から聞いた」


 彼は話し出した。


「店員さんって俺のこと好きなの?」


 いきなり、つい今し方考えていた内容に関する質問をされ言葉に詰まった。えっ……?


『音芽。本当にごめんなさい。言い忘れていた事があります』


『己花さん~~?』


 己花さんが銀河君と喋っている時に私が銀河君のお兄さんを好きだと暴露してしまったとの説明をされた。そんな。私は今さっき自分の気持ちに気付いたばかりだというのに。己花さん……早々と察し過ぎだよ!


『それにしても。まさか当人に教えるなんて。銀河様は口が軽いんですのね』


『己花さんもね』


 怒りを通り越して呆れてしまう。


「店員さん?」


 お客さんの声で我に返った。己花さんと会話している間、彼を待たせてしまっていた。うわぁ。何て答えたらいいんだろう。


「ごめん。店員さんの事情についても聞いたんだ。今、己花さんと話していたんだろう?」


 言われてハッとする。そ、そこまで喋ってたの己花さん? 呆れを通り越して驚愕した。


「こんな事言える立場じゃないんだけど、そうだったらいいなって思ってた」


 前置きがあった後、確かに聞こえた。


「え……?」


 でもやっぱり聞き間違いかもと疑い相手を見つめた。街灯の下、二人向かい合って立ち尽くした。耳に残る調べのように望まれる。


「あなたが好きですって言ったら、応えてくれますか」


 心音がドクドクと重たく刻まれる。状況がよく理解できない。何が起こってるの?


 つい先程、好きな気持ちを自覚した。直後、相手から告白された。


 恋愛って、こんなにスムーズに展開していくものなのかな?

 私が今まで読んだ多くの本で語られていた恋愛には数々の困難や試練が付き物だった。もちろんフィクションが大半だし、現実にはもっと多くの事例があると思う。でも……。


 ためらっていた。正直、こんなに早く決断を迫られるとは想定していなかった。もっと時間を掛けて考え答えを見付けていく、くらいの心構えしか持っていなかった。


 私は彼が好き。だけど……己花さんが好きなのは銀河君だよね。


『……己花さん』


 呼び掛けたけど返事がない。己花さんも私と同じでどう対応すればいいか考えてくれているのかもしれない。けれどきっともう手遅れなんだろうな。彼女も、私も。


『己花さんのせいだからね』


 不機嫌に言い置き、もう一度……彼と目を合わせた。辛抱強く答えを待ってくれていた。彼の喉が唾を飲むように動いた。


『おとっ……』


 己花さんが何か言おうとしていたけど思いっきり無視した。


「私もあなたの事が好きです」


 勇気を振り絞って伝えた。嫌われるのを覚悟して言う。


「だけど……己花さんは…………多分別の人が好きで……。こういった場合は、どうしたらいいんでしょうね?」


 口に出してから思う。


 あれ? そういえば今日は相談事を聞く為にここへ来た筈なのに、逆に相談に乗ってもらってる?


「すみません。逆に相談しちゃって。お客さんの相談事って何でしたか?」


 話題を戻そうとした。


「こちらこそごめん。……今、親と進路の事で揉めてて。ちょっと話を聞いてほしかったんだ」


 親と聞いてドキッとした。


「店員さん?」


「あ、何でもないです。続けてください」


 慌てて手を振って話の先を促した。胸に手を当て心を落ち着けようとした。彼の話に集中して考えないようにしないと。


「店員さん、具合悪い?」


 お客さんを心配させてしまったみたいだ。ふと思う。私、まだ彼の名前も知らない。



そら!」


 突然だった。女性の声が響いて身を竦めた。声がした方に目を向ける。公園に隣接する歩道に誰かいる。


追記2024.7.9

「きた」を「来た」に修正しました。

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