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14 思惑


『音芽……』


 己花さんの心配そうな声が聞こえる。そう言えば……。


『己花さんごめん。銀河君と話したかったよね。折角の機会なのに気付かなくてごめんね。私、暫く休むね……』


 伝えた後、眼鏡を掛けた。



 わたくしは怒っていました。眼鏡越しに横目で銀河様を睨みます。


「音芽を傷付けないでくださいまし!」


 言い放つと銀河様の目が大きくなりました。直後、何とも甘い笑みを向けられました。


「傷付けてるって分かってるのに、何で己花さんは協力してくれてるの?」


「それは……銀河様を信じているからです」


 俯いて小さく答えました。不意に銀河様が立ち止まりました。私も足を止めます。

 今日の彼は大きめの白いTシャツにカーキ色のズボン姿です。Tシャツの上で金色のネックレスが光っています。


 銀河様がわたくしの右手に触れました。繋いだ後で告げられました。


「好きな人の全部を手に入れたいって思うよね? 悪いけど半分だけじゃダメなんだ」


 再び歩き始めました。手は繋いだままです。本当に……拗れていますわ。ため息が漏れます。


 視線を感じて顔を上げました。神妙な口振りで問い掛けてきます。


「己花さんはあいつの事……どう思ってる?」


 あいつとは蒼様の事ですわね。この人は本当に……。心底呆れてしまいます。


「音芽を傷付ける人は等しく嫌いですわ!」


 言い放って思い切りそっぽを向きました。


「ごめん」


 謝罪の言葉が聞こえチラッと様子を窺いました。銀河様は少し困ったような顔で笑っていました。



 わたくしはこの時まだ分かっていなかったのです。音芽の受けたダメージはわたくしの想像より深く、それにより彼女を危機に近付けてしまう事態へと発展すると予想もしていませんでした。






 その日は蒼君が迎えに来てくれる事になっていた。だけどまだ心の整理ができていなかった。

 彼との約束の時間まで一時間はある。やっぱり一人で考える時間が必要だと思い直しメッセージを打った。「今日は友達と帰るから大丈夫だよ」と。



「本当に大丈夫なの?」


 隣を歩くあややんが心配そうに聞いてくる。彼女は私の家まで付いて行くと申し出てくれた。けれど私の家まで来てくれたとして、彼女一人だけを帰す事になるのでそっちの方が心配だ。


「うん。そんなに頻繁には会わないだろうし」


 内心ばったり会いそうな予感がしていたけど自分を誤魔化して無理に笑顔を作った。


 だって蒼君に来てもらったとして……私はどんな風に振る舞えばいいか分からない。銀河君の教えてくれた情報が本当だったら……私は蒼君のただの遊び相手って事だよね。


 ズーンと気分が重くなる。




 いつもの十字路であややんに手を振った。


「音ちゃん。気を付けてね」


 そう言われたのに。




 また左の道から帰れば大丈夫だよねと軽く考えていた。少し自暴自棄になっていたのかもしれない。蒼君との問題に比べたらあの男の件なんてどうでもよく思えてくる。


 下を向いて歩いていた。だから気付くのに遅れた。


 私の右斜め前……歩道の側に車が停車した。見覚えがあると考えた時には既に例の男が目前に迫っていた。


 彼は私に言った。


「少しの間でいいんだ。話を聞いてほしい」


 いつものニチャアッとした笑顔ではない慎重な様子に、この人はもしかして私に何か用事があるから今まで追い掛けて来ていたのかもしれないと感じた。


『音芽、ダメです! 危険です!』


 己花さんの制止に従わなかった。もう、うんざりしていた。考えるのも疲れた。男の指示で白い車に近付く。車の後方にあるスライドドアが開けられ促されるまま足を踏み入れた。


 その瞬間、騙されたと思った。


「え……」


 無意識に声が零れる。車中には女の子がいた。くすんだ赤色のセーラー服姿の子で、脚を組んで座り腕組みもしている。


「久しぶりね」


 不遜な態度で話し掛けてきたのは……。


 彼女の名を口にする。



「裏原さん……」


追記2024.7.18

「来てくれる」を「行く」に、「くれる」を「くる」に、「の発展を」を「と発展すると」修正しました。

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