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13 見落としたヒント


 脈がドクドクと速くなる。怖い……。


『音芽、今日は別の道から帰りましょう』


 立ち竦んでいた時、己花さんが声を掛けてくれた。


『この近くは銀河様や蒼様のお家の近くですし……蒼様に相談してみてはいかが?』


 己花さんの提案に少し気分が明るくなる。


『そうだね。そうしてみる』


 心の中で答えて左の道から帰った。




 翌日の放課後、学校で蒼君を待っていた。


 昨日の夜、蒼君と通話した時に帰り道での一件を相談していた。蒼君が学校まで迎えに来てくれると申し出てくれ凄く安心した。


 あややんは用事があると言って先に帰った。昨日の件で待ち合わせしている事を話した時、彼女ににんまりされたけど……もしかして蒼君と二人で帰れるように気を遣ってくれたのかな?


 蒼君が来てくれるまで時間があるので教室で勉強していた。つい窓の外を見てしまう。勉強しながら校門のある方を気にしていた。三度目に視線を向けた時……見慣れた人物が視界に入り一瞬息を止めた。彼は校門の側でスマホを見ている。


「銀河君」


 遠くからだけど金髪だと分かる。スマホが震えた。着信……銀河君からだ。スマホを操作して応答した。


『着いた。蒼は今日、塾の用事ができて来れないから代わりにオレが来た。……蒼じゃなくてがっかりした?』


 面白がっているような雰囲気の声が聞こえる。


「そ、そんな事ないよ! ありがとうっ!」


 慌てて返答した。がっかりはしていないけど……自分でもよく分からない不思議な心持ちになった。



 急いで帰り支度をして校門へ向かう。


「お待たせ!」


 銀河君に声を掛ける。走って来たので息を整えた。歩道を公園の方面へ辿りながら考え至る。


 そう言えば。この前、銀河君に会って……。


 しなくてもいいのに胸がドキドキと鳴ってしまう。横目で様子を窺った。彼も横目にこっちを見ていて慌てて逸らした。


 何も喋らないのも変かと思い話題を口にする。


「この前、家にお邪魔した日。己花さんと何かあった?」


 ついずっと気になっていた事を聞いてしまった。


「何でそう思うの? 彼女……何か言ってた?」


 銀河君の声のトーンが低い。笑みのない表情で尋ねてくる。「何かあった」んだと確信めいた感覚が閃く。答えてくれないだろうなと予想できたけど探ってみる。


「何かって?」


「……いいや? 何でもない」


 ニヤッとした視線を向けられた。まだ食い下がる余地はあると踏んで更に追及しようとしていた。それなのに。


「蒼のどこが好きなの?」


 話題を変えられた。内容に少し怯んだ。銀河君は見透かすような雰囲気でこちらへ注ぐ眼差しを険しくした。


「あんな奴、真面目が取り柄なだけじゃん。しかもフリだし」


「あんな奴って言わないで!」


 思いがけない言い方をされ思わず声を荒げた。銀河君の様子がおかしいと気付いていたけど黙っていられなくて言い返した。


「私は蒼君が……本に夢中な彼も勉強を頑張っている彼も……真っ直ぐな蒼君が大好……」


「嘘つき。あいつが本当に真っ直ぐな奴だと思ってんの?」


「え……?」


 動揺した。顔を上げて銀河君を見た。


「あんたが思ってる程、あいつはいい奴じゃない。本に夢中? 笑わせるなよ。勉強してんのも本を読んでんのも別の目的があるからだよ」


「別の目的……?」


「あいつに直接確かめてみたら?」


 冷たく笑われた。


「あんた蒼の何を見てる?」


 言われて言葉に詰まる。


「本当は好きじゃないだろ」


「好きだよ! 私は蒼君が……」


「嘘つき。あんな奴を本当に好きな奴なんていない。オレも嫌いだ」


 銀河君が蒼君の事をこんなにも嫌っているなんて。二人の過去に何があったんだろう。


「酷い。酷いよ。何でそこまで言うの?」


 気持ちが高ぶってしまい涙が少しだけ零れた。兄弟ってもっといいものの筈だ。私はそう思っている。


「アンタがあいつの上辺に騙されてるから」


「騙されてない! 裏表があったとしても、どちらも蒼君の一面だよ! 私は全部を好きになりたい!」


「へえ、言ったね?」


 銀河君が目を細めた。


「あいつはアンタを騙して、その盲目な恋心を弄んで愉悦に浸ってる……そういう奴なんだ。今日何であいつがオレをここへ寄越したと思う?」


「それは蒼君が……今日、塾の用事があるからでしょ?」


 答えると、さもおかしいと言わんばかりに笑われた。


「信じるんだ、そんな嘘」


 告げられてからやっと、彼が何を言いたいのか薄く察してしまう。嫌だ。聞きたくない。その先を言わないで!


「あいつ今、彼女といるから」


 銀河君は無情に言い切った。「彼女」……。そう言えば私と蒼君は付き合ってない気がする。キスはしたけど付き合うとか、そういう話をしていなかった。


 血の気が引いていくのが分かる。


「蒼君って彼女いたんだ。そうなんだ。あはは……」


 力なく笑った。銀河君に呆れられたかもしれない。先程までと違い気の抜けたような目で見られた。


「そんなんで、よく全部を好きになりたいなんて言えたね? 普通気付きそうなのに。もはや神懸かってる。逆に笑えてくるよ」


 銀河君が気楽に笑っているから、もしかしたらそんなに大した問題ではないように思えてくるけど。大問題過ぎて考える事から逃げ出したいだけかもしれない。苦笑いした。


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