消えた稲妻
「…きれい」
ユリアは目の前の彼をみつめ、彼もまたこちらを見る。その瞬間、ユリアの思考は停止していた。
彼が目を逸らし、ユリアははっとして思考が回り始める。
"この人は一体…というか、今何が起こった?はやすぎる"
と疑問ばかりがうかんでくる。
状況を把握するために冷静になってはじめて、その人物が既視感のある制服を着ていることに気づく。
「ありがとうございました。その制服、クレキア王立学園の方とお見受けします。わたしはユティーヌ王立学園の生徒で、ユリア・オリオールと申します。よければお名前をお聞きしても?」
と声をかける。例の夜会の件もあり、クレキア側の情報は少しでもある方がいい。もちろんその考えがあることは事実だが、この時のユリアは彼への興味も含んでいた。
彼はユリアの名前にぴくりと反応し、再びこちらに目を向ける。
「…あなたが「オリオール嬢!!」
何かを言いかけた彼の言葉は騎士団員の声によって遮られた。
「ご無事でしたか。あれを討伐されるとはさすがですね。」
「あ、いえ。確かに一度は倒したんですが、不可解なことが起きまして。彼に助けていただきまし…」
振り返ると、そこに彼はもういなかった。
ユリアは騎士団員とともに基地に戻り状況を騎士団長に報告した。すると他にも霊獣が消滅せずに鬼の形をなすという同様の事象が数箇所で発生したようだった。
「おまえんとこも出たんだって?その吹き出して形を成した鬼ってのは強かったか?負傷者が予想よりいてルナはひっぱりだこだ。」
婚約者の時間をとられて不満げなシュウが興味を持って声をかけてくる。どうやらシュウのところでは発生しなかったようだ。
「それが、わたしが戦う前に倒されちゃった。」
「ん?騎士団にか」
「稲妻…。クレキア王立学園の生徒だと思うけど、一瞬で現れて倒して、気づいたらいなくなってた。」
「一瞬でって。おまえが遅れをとったのか。」
「……。去年のクレキア王立学園との交流戦で黒髪に金の瞳の生徒っていたか分かる?」
一瞬、あの姿にみとれて思考が停止していたことがなんだが後ろめたくて、遅れをとったかという質問には沈黙でやり過ごす。
「いや、覚えはないな。」
この基地にはクレキアの騎士団も集まっているがその姿を見つけることは出来なかった。