潜む闇
その夜、4人の姿は夜会にあった。
この夜会では霊獣の売買が行われていた。霊獣は人々の負の感情が集まり、強い負の因子が魔素と反応して形をなすことでうまれる獣だ。人がいる限り霊獣が消えることはなく、王家の騎士団が日々討伐にあたっている。人々が思いを馳せる夜や暗闇に感じる恐怖などから霊獣は夜に力を増す。霊獣の売買だけでなく使役することすら法で禁止されているにもかかわらず、その力をもって権力にしようとする貴族も少なくはなく、ここはその集まりのようなものだ。みな仮面を被り、身分を隠している。だからこそ4人も潜入できた。
「最近、妙な奴らが出入りしているらしい。ここは霊獣の売買会みたいなところだからそれに関する話がほとんどなのに、そいつらは学園のことを聞き回っているんだと。今回はそいつらを捕まえる。」と茶髪の彼から目的を確認する。
普通、国の霊獣についての対応は騎士団が行なっている。にもかかわらず学生であるユリア達にこの仕事が任されたのもそれが理由だった。
4人は会場に入るとばらばらになって周囲の話をききながらその人物達を探した。
自身の霊獣をプレゼンしてくる貴族をうまくかわしながら会場をうろつく。ここにいる霊獣は専用の拘束具で力を抑制されているものの、負の感情がより集まれば、力はとらえた時とは比べものにならないほど増幅する。夜会なんて場所は貴族の欲望が渦巻く場所で霊獣にとっては格好の餌だというのに認識の甘い人たちだと話を聞き流しながらユリアは思う。
そんな時だった。
「これは珍しい。こんなに綺麗な白銀の髪は久しぶりにみました。」
仮面だけでなく、帽子を被った1人の男が声をかけてきた。見たところ同世代に見える。
「お褒めいただき光栄です。久しぶりと言われましたが他にも同じような髪の方にお会いしたことが?」
「ええ。この国の学園にいらっしゃるでしょう?たしかオリオール家のご令嬢です。みたところ同じくらいの年代にみえますが、学園の生徒さん?」
自分のことを話題にだされユリアはぴくりと反応する。
「ここでは身分を探るのは御法度でしょう?それにお褒めいただくのは光栄ですがそこまで美しい髪ではございません。」
と冷静に返す。これまで話しかけてきた貴族とは明らかに違う。正体がバレるわけにもいかないし、ユリアはそのまま様子を伺うことにした。
「そうでしたね、これは失礼を。けれど髪の美しさは本当ですよ。実はわたしの知り合いが学園長と知り合いでして、もし生徒さんなら学園の様子でも教えていただき、彼に伝えたら喜ぶんじゃないかと思いまして。」
男は穏やかな口調で話をすすめる。これはほぼ当たりだとユリアは判断した。話をしながら捉えるタイミングを伺う。
「それは素敵ですね。学園の詳しいことはわかりませんが、特に問題もきかれませんし、みなさん優秀だときいております。」
「そうですか。そういえば、学園に国の宝が保管されているという噂はご存じですか?」
この質問にユリアは警戒を強める。
「初めてききます。国の宝なんて大層なものを学園で保管なんて危険では?」
「そこが落とし穴です。そう思うからこそ、そこに隠してるとも考えられます。」
「…」
ユリアは真剣な眼差しで男を見つめる。そしてこれは学園だけの問題ではないと悟る。相手の正体と目的を見極めなければと方法を考えていた。
「ですがそうまでして隠したい宝なんて…」
ととぼけたふりをする。男は情報を得るためか意外にもすんなりと答えた。
「クロノスの… "キャー!!""ガッシャーン!"
その瞬間会場に悲鳴と騒音が響き渡る。目を向けると一体の霊獣が巨大化し暴走していた。ユリアは言わんこっちゃないとドレスの下から銃を取り出す。周囲の避難と霊獣の攻撃はユリアより霊獣の近くにいた他の3人がすぐに対応してくれていた。
ユリアは銃を霊獣の核に向けて構える。引き金を引くと核を中心に氷の槍が霊獣を貫き、次の瞬間には核と共に弾けた。
「欠落の氷結姫…」
後ろから男が呟いたその声にはっとして振り返る。男は不適な笑みをみせ、人混みにまぎれ消えてしまった。
その後は騎士団が駆けつけ、夜会に参加していた貴族達は告発され、霊獣もすべて討伐された。結局この日の収穫はあの男の発言のみであった。