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欠落の氷結姫  作者: 愁香
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クロノスの扉

交流戦も終了した翌日、タクトを除いた4人は再度学園長室に集められていた。もちろん、昨夜の件についてだ。


「噴水を調べたのなら入り口の扉には気づかれた可能性が高いな。だからといってそのままでは開くことはできないが、目的はクロノスの扉できまりだろう。」


と学園長はさっそく本題を切り出す。


ークロノスの扉。

ユティーヌだけでなく、この大陸における神話がある。この世界には人々が住み、豊かな感情をもつ人々は霊獣という存在を生み出した。力を持たない人々はその存在に対抗する術を持たなかった。そこにラトリアという女神が現れた。女神は浄化の力を持ち、霊獣を浄化をしたり人々を治癒してまわった。人々の人口が増えるにつれて、霊獣も増え、女神は2人の兄妹に力を分け与えた。兄妹は女神にとって子供のような存在であり、兄妹にとっても親のような存在だった。兄には倒した霊獣の力をその力ごと取り込み自分の力に変える力が与えられた。妹は歌や言霊によって女神と同様に傷を治癒する力を得た。そうやって人々を助けながら暮らしていくうちに、兄は5人の眷属をつくりそれぞれに霊獣から取り込んだ力から炎、水、大気、大地、雷の力を与えた。それが現在のフォルツと呼ばれる力の根源である。

そしてその神話からこれまでの歴史を保存するために存在しているのがクロノスの神器と言われるものだ。クロノスの神器には扉と鍵、鏡の3つがある。鏡にはこれまでの歴史を見ることができる力があり、扉は鍵セットで扉を開くことで歴史が現実世界に呼び起こされると言われている。この3つの神器は国の軍事バランスを保つために各国に1つずつ保管されており、鏡は昔からユティーヌとも親交が深く、今ではクレキアとユティーヌを仲介する立場にもあるミロワール王国に、鍵はクレキア王国に、そして扉はユティーヌ王国に存在している。そしてその力は人智を超えたものであり、どの国でも王家の権力独占と悪用を防ぐため、神器は神殿管轄のもと管理されている。そしてユティーヌでは隠し場所としてクロノスの扉は、神殿管轄の王立学園に保管されているのだった。

つまりこの学園にはクロノスの扉が保管されており、そこに通じる扉や開け方は秘匿され、学園長とこの国の上位貴族、神殿の上位階級しか知ることができないのであった。


王家に仕える三代名家のスペランツ家、オリオール家、ヴィンレスト家の3人と聖女として神殿で地位のあるルナは学園入学とともにこのことを知らされている。タクトがここにいないのはそれが理由だ。


「家にも報告が来て警戒を強めてはいますが敵の情報が少なすぎますね。交流戦で来ていたクレキアの生徒か教師の中にいる可能性が高く、騎士を倒すだけの力がある。とはいえ、フォルツや抵抗の痕跡はないので隠密に長けていると考えるのが妥当ですが、絞るにはクレキアの生徒や教師についてそこまで特徴的な情報を持たないので難しい。」


とシュウが今回のことについて相手を分析しながらため息をつく。


「その時間に会場にいなかった人物と言っても把握しきれていないし、見回りの騎士が会場外で目撃した生徒もいたが、どの生徒も会場に戻ったか、誰か他の生徒と一緒だったことが確認されているからな。」


学園長のこの言葉に中庭でシンと会ったことを思い出す。少し思い出すと別れ際のことまで思い出されてユリアは鼓動が速くなるのを感じていた。


「ユリア、その時間くらいに中庭にいたんだろ。何も見てないのか。」


「…」


「おい。おーい、ユリアさーん。」


とシュウが目の前に顔を近づけてきてユリアははっとする。すぐにぐいっとシュウの顔を手で押しのけてユリアは答える。


「あのとき中庭に行ったのですが、エトフィラント殿が先にいました。とはいえ私が中庭に行く前に噴水を通った時には何事もなく騎士の方々も健在でしたし、他に人影もなかったように思います。」


そう話すと何やらシュウとハルトがにやにやし始めた。


「完全に2人っきりじゃん。ついにハートを掴まれたか。」


とハルトが茶化し、シュウも頷いている。


「そこ、うるさい。それに掴まれてない。」


とユリアはそんな2人を横目に言い放ち話を続ける。


「守りを固めるのはもちろんですがこちらからもクレキアに探りをいれていきますか?合同討伐作戦も定期的にありますし、学生であることを利用して事情を知っている私たちをクレキア側の騎士や学生と組ませてもらう方法もあるかと。」


「うむ。国王陛下や騎士団ともそれを検討しているところだ。騎士団員では上位階級なら事情を把握しているが、クレキア騎士とチームで組ませることは反発心が強い者もいるし難しいのではないかと。その分学生の君らならクレキア騎士も優位に立ててそこまで強い反発心は抱かれず受け入れてくれるだろうと…」


と学園長はそこまでいって、だが学生の彼らにそこまで重要な任務の負担を押しつけていいものかと少し考えていた。その力は信用しているが、上位貴族の子息、令嬢である彼らが入学した時から、まだ学生である彼らが国のためとはいえ仕事ばかりに縛られる必要はないと学園長は思っている。


「自分達なら問題ないっすよ。兄貴の裏仕事でも潜入するとかも慣れてるし上手くやります。それに力で騎士に劣るメンバーでもないですしね。」


と学園長の考えは知ってますよというようにハルトが答え、ユリアとシュウも頷いて学園長を見つめる。


「好きにやらせたらいいんですよ。私が暴走しないようには見はっときますから。」


とルナも呆れたように言いながらなんだかんだで乗り気だ。

学園長はそんな4人を見て、頼もしいような、もっと大人を頼って欲しいような気持ちになった。学園長はある男の影を思いながら、この4人がせめていつまでもその絆だけは壊れず、ただ自分の幸せのために生きて欲しいと願うのだった。

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