日常
この世界でわたしは、晴れ渡る空の下、そよ風にふかれながら感じる木漏れ日以上にあたたかい光なんてないと思っていた。
――――
"ドカーーン!"
この学園ではそれなりに日常とも言えるこの爆発音を遠くにききながら彼女はゆっくりと目をひらく。
「またか。強いのはいいけど毎度のごとく派手すぎない?スマートさに欠ける。」
と夢心地のまま彼女は独り言のように呟く。そんな彼女の顔のすぐ横から
「あっちのほうが音は派手なだけで、ユリアもやってることは変わんないから。というか起きたなら頭どけて。」
と返事が返ってくる。ふむ、どうやら親友である彼女の肩を借りてうたた寝をしてしまっていたのかと彼女は思いつつ、日の光の暖かさと風の心地よさに再び目を閉じようとした。ところが、
「まわり。視線が気になって本に集中できない。」
と遮られる。周りを見れば、そこまで大勢とは言わないまでも廊下を通りがかる数人の生徒や上の階の教室から微笑むような視線が向けられている。ここはいわゆる中庭で、中心には一本の木が植えられているのだが、2人はその下のベンチでお昼を過ごしていた。彼女は顔をあげて隣の親友をみる。
少しピンクがかった長い黒髪を風になびかせながら、端正な顔で本を読んでいる彼女はルナ・マフィレン。その紫の瞳は本を見つめていて、伏せ目がちになっておりこれは誰もが見惚れるだろうと彼女は納得した。
「これはしょうがない。みんなの気持ちわかるなあ。神聖な肩を借りちゃって、お邪魔しました。」と拝むような仕草をする。
すると紫の瞳は本ではなく、拝みながら揶揄うように笑っている彼女に向けられ、「まったく、この無自覚め。」とあきれたような声で返される。
それもそのはず。紫の瞳が捉える彼女はユリア・オリオール。青みを帯びた白銀の長い髪をなびかせ、長めの前髪が少しかかる瞳は透き通る水色をしていて輝いている。
見つめられたユリアは「そんなに見つめられたら照れちゃう。」と凛とした印象とは裏腹に無邪気に笑い親友に抱きつく。ルナは諦めたように「はいはい。そろそろ戻るよ。」とユリアをなだめて教室へ戻ることにした。
ガラッ
「何度もお願いしてますけど、神殿管轄の学園だからって修繕費はただじゃないんですよ。お強いんですから威力をコントロールしてくださいよ。」
教室に戻ると2人の生徒が、とほほ…というような悲しい表情をした副学長に注意という名のお願いをされているところだった。この2人こそさっきの爆発音の主なのだが、訓練場で模擬戦でもしていてどこか壊したのだろう。だが、2人とも慣れたものでまともに聞く気などない。
短めの金髪に碧眼、いかにもモテるであろう容姿の彼は「すいません、ついつい。」なんて笑ってごまかし、もう1人は手に持った封筒をぴらぴらと遊ばせて聞く耳すら持っていない。
その1人、モンブラン色の短髪に緑の瞳を持つ彼は彼女達をみつけると
「お、おかえり〜。」
と副学長の話を遮り、ユリアたちに話しかけた。
それによって副学長と金髪の彼も視線を移す。
「まーた言われてんじゃん。おばかめ。」
と3人に近づきながら彼らをからかったユリアだったが
「あなたもですよ。何回障壁ごと凍らせたか覚えてないないんですか。」
と言われてしまい、彼らから"言われてやんの"というような笑みを向けられる。彼女は副学長にてへっと笑ってみせると、副学長はため息をつきながら「ほんとにお願いしますよー。」と肩を落として帰っていった。
「というか明日にはランク戦なのに、なんで今模擬戦を?」
一息ついたところで、ルナはこの一連の発端ともいえる質問をする。
茶髪の彼はスッとさっきまでぴらぴらと遊ばせていた封筒を彼女達にみせる。
「兄貴からのお仕事です。」とにっこりと意味ありげに笑う。
その言葉に彼女達の瞳に真剣さが宿る。
「第二訓練場でくだらない喧嘩をしていた3年のやつが、ちょうどこの夜会に招待されてたみたいだから混ぜてもらったってわけ。というわけで、夜ね。」
明日はランク戦だというのに、前日に疲れることはしたくないなあとその場にいた3人は思ったが、仕事はこなさなければならないので大人しく従うのだった。