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6

 門の外で三人が立ち尽くす。


 あっさり帰ることが出来た。これは真か幻か。

 ちゃんと自分の足で立てているかさえ分からない。


 しばらくして、口元がゆるゆるとだらしなく緩み出した。


「やったな?」

「平安京遷都、決まりましたね」

「まだ平安京の名は付いておらん。まあ、そうなるのだろうが。で、何か言うことは?」


 国守が両腕を左右に広げる。二人がそれにしがみついた。


「志斐国守様ァァァァ!!!!」

「もっと褒めたたえよ」

「日本を救った救世主ゥゥ!!」


「進言したのは私なのだが!?」

「もう誰でもいいよ! ありがとう桓武天皇! ありがとう平安京!」


 五体投地で国守を拝む。人を超越した何かに見えた。穴という穴から水が顔から流れたが、何も気にならない。平安京の道が開かれた今、自分の顔面なんぞ大したことではないのだ。


 結局早良親王はお囃子の一部だった。しかし、あれがなければ歴史は動かない。もしかしたら国守は違うと言っていたが、本当は一ミリくらいは祟りもあったかもしれない。あれだけ憎い憎いと言葉にしていれば、言霊として伝わっても不思議ではなかった。ただ、彼の様子だけ見ると、幼子が駄々を捏ねて床を転げまわっているようにしか見えないが。


「確かに、そろそろ祟りになってもおかしくはなかった」

「じゃあ、最後まで祟りじゃなかったんですか」

「祟りの才能が無かったのだな。憐れ」

「早良親王あの世で泣いちゃいますよ」


 あれでどれだけ睡眠時間を削られたと思うのだ。清仁にとっては立派な祟りである。それなのに、消されてまでこの言われよう、あんまりではないか。


「あとで乙訓寺に美味しい物お供えしてあげましょ! あ、そういえばどうやったんですか、あれ。人間の技じゃないです」


「なに、式神を使ってちょいちょいと。簡単なこと」

「簡単かなぁ」

「清仁、清仁。こんなこともあると思って、国守を呼んだのは私だぞ」

「失敗すると思っていたんですね」


 指摘すると清麻呂は地団太を踏んだが、なんにせよ第二の手まで打っていてくれていたからこその成功だ。だが、清麻呂の浮かれ具合に乗りたくなくて、少々意地悪になってしまった。


『我等もやったぞ』

「仙さん!」


 姿を現した狐の頭を撫でる。思わずしてしまったが、鉄拳が飛んでくることはなく享受してくれた。よほどご機嫌らしい。


「我等もってことは、もしかして式神って他にもいるんですか」

「人型のがもう一体いる」

「え、うそ。会いたい!」


 てっきり仙だけかと思っていた。しばらく国守の家に厄介になっているのに一度も出くわしたことがない。国守が首を振った。


「あいつは人間に会うのを嫌う。ついでに家事も嫌う。だから、清仁が家事をしてくれているからと、札からなかなか出なくなった」

「引きこもりの式神かい!」


 家事もしないとなると、主の命令に背くとんでもなく陰キャの式神だ。それだけ突き抜けていると是非とも会いたくなる。ずっと住んでいればいつか会えるだろうか。


「そうだ、パンフレット」


 懐からパンフレットを取り出す。少しよれたそれを三人で覗き込んだ。


「……おい、清仁」

「清仁、これは」


 がくがく肩を揺すられる。唯一正解を知っている清仁は天に向かって両手を挙げた。


「…………ぃやった~~~~~! 古都・京都! 京都が戻った!!」


「未来が戻ったということか! やったな!」

「私のおかげだぞ」


 何気ない一言で京都を消し去ってしまって二か月、ようやく、ようやく清仁は堂々と人の世を歩ける身分へと戻ることが出来た。あとはここが令和であったなら。


「やった! ……やったぁ」

「ん? どうした。世界の軌道を正常にさせたのだぞ。急に元気が無くなったな」

「はは。いやぁ、未来が返ってきたのはいいんですけど、俺はここにいるんだなと思って」

「清仁……」


 たった今笑っていたというのに、口がうまく上がってくれない。二人を心配させてしまう。清仁は頬を思い切りひっぱたいた。


「うん。もう大丈夫です。さてと、これから忙しくなるんじゃないですか。いろいろ備えないと」

「うん……うん、そうだな。私にも重大な責任がある。私の一言で歴史が大きく動いたのだから」


「そうですよ! 俺も手伝います」

「ありがたい! では、今から屋敷に戻って、あれを着てはくれまいか」


 どんな手伝いかと思ったら、何やら妙なことを言い出した。真意が掴めず首を傾げる。清麻呂が清仁の両肩に手を置いた。


「あれだよ、あ・れ」

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