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 これで居候としての家賃くらいにはなるだろう。なんだかんだ言って、彼には大変世話になっている。あとどれだけ住むのか分からないが、出来る限り、今のうちに恩返しはしておきたい。


「吉兆ってことは良いことが起きるんですよね?」

「その可能性は高い。どういう意味で、誰にとって良いことかは分からんが」

「えぇ……」

「他の誰かにしたら悪いことかもしれない。だからこうして、天皇に伝えて平時に備えておくのだ」


 自分にとって良いことでも、相手にとっては悪いことかもしれない。確かに、全てにおいて言えることだ。こうして身構える気持ちが出来ただけでも、あのあやかし出会った甲斐がある。


「また白澤に会えますかね」

「いや、もうどこかへ行ってしまっただろう。私も一目視てみたかった。よりによって、お前が目撃するとは」


「それは国守さんが俺に探してこいって言うから」

「まさか吉兆のあやかしとは思わなかったのだ。悪さをするその辺の動物かと予想していた」


 面倒事を普段清仁に押し付けていたツケが回ったのだ。陰陽師としては幻のあやかしをこの目に収めたかっただろうが、こればかりはどうしようもない。


「また百年くらい経てばやってくるんじゃないですか」

「お前は私を何だと思っている」

「数百年生きる陰陽師」

「陰陽師はただの人間だ」


──なんだ、残念。


 清仁だって、陰陽師をあやかしの類だとは思っていない。しかし、不思議な力を操るのだから、寿命くらいは他の人より長いと思っていた。違ったらしい。


「じゃあ、俺が令和に帰ったら会えないんですか」

「その令和とやらは千年以上先ではなかったか」

「そうです」


「喧嘩を売っているようだな。仙」

「うわああ冗談です!」


 冗談が過ぎて仙を召喚されてしまった。狭い牛車内で土下座をキめる。


『主、下賤の者が何やら騒いでおります』

「そのまま放っておけ」


 どうにか車から放り出されることなく、国守宅まで無事到着した。転げるように降り、率先して夕餉の準備をする。


「えへへ、まだまだ宜しくお願い致します」


 桓武天皇のお礼とやらは清仁がいつも寝ている場所の横に置かせてもらった。全部好きに使っていいと国守には伝えたが、特に中を見る素振りは見せなかった。


 夕餉はいつも通り質素なものだったが、その後風呂が沸いていたので、数日振りに堪能することが出来た。さらに寝ようとしたら、大判の布を渡された。


「そろそろ冷えるから、それでも敷いておけ」

「有難う御座います!」


 敷布団には程遠いが、今まで清麻呂からもらった服を敷いていたことを考えれば雲泥の差だ。


 この家の住人だと認められた気になる。清仁は布を敷き、枕に頭を乗せ、服を掛布団にして横になった。今日は良い夢が見られそうだ。

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