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3

 ついには桓武天皇が立ち上がった。後ろで安殿親王がわたわたしている。父に合わせて立ち上がった方がいいのか迷っているらしい。結局タイミングを逃して中腰で見守っていた。


「それは……どういう意味だろうか、陰陽師」


──天皇もノリで立っちゃっただけかい。


 シリアスな場面のはずだが、いまいち真剣みが足らず、清仁の緊張もすっかり解けていた。


「意味ですか」


 ずっと笑うのを堪えていた国守が咳払いをして真面目そうな声を出す。清仁は知っている。安殿親王が現れた瞬間吹き出しそうになっていたことを。見た目に反して、案外笑い上戸なのかもしれない。


「私見ですが、特徴からして白澤というあやかしだと推測しております。白澤は吉兆の瑞獣。つまり、時が動くとは、国自体に影響を与える何か変化が起きるということではないかと」


「うむ、なるほど。白澤か。どういうことが起こるか分かるか?」

「そこまでは難しいです。が、非常事態に備えて、とりあえずは食べ物の備蓄や軍備の確認などされるのが得策だと思います」


 国守がそれらしいアドバイスをする。こういう立場の人間はいつの時代も必要なのだと感じた。さらに、複数いた方がいいとも。


 陰陽師として国守が言ったことは正しいと思う。しかし、事あるごとに進言し、それを真に受ける上司では上手く成り立たない。だから、助言者は複数置き、それらを聴き比べてより良い結果に結びつけるべきだ。


──というか、国守さんの話は素直に聞くのに、清麻呂さんの進言は笑ってスルーかよ。そうなったの俺が原因だけど!


「分かった。備蓄や軍備だな。よし、さっそく確認しよう。二人とも、助かった」


 天皇に礼を言われ、どうにかこうにかあやかしの報告が終わった。これでお役目御免だ。もうこんなことはしたくない。自分はあくまで一般庶民なのだ。


 東院を出るまで安殿親王が付いてきて、牛車を乗る際には本当に天皇からのお礼の品を両手で持てない程もらってしまった。遠慮したいが、相手はお散歩おじさんではない雲の上の人物なのでそうもいかず、何度も頭を下げて有難く頂くことになった。


「神の君! またいつでもいらっしゃってください」

「はぁい……お見送りありがとう……」


 安殿親王が遠くなる牛車に向かってずっと手を振っている。よかった、好かれていて。物理的に首が飛ぶ心配はなさそうだ。また横で国守が肩を震わせ出した。しかも今は我慢しなくていい状況なので、声を上げて笑われた。


「ははは! 安殿親王と知らず相手していたとはな!」

「うるさいです。顔なんて知らなかったし名乗られなかったし」

「そうだな、神の君……ぶふッ」

「うるさい」


 どこまでもからかいたい家主に土産物の一つを押し付ける。


「なんだ」


「中身何か分かりませんけど、いつも居候させてもらってるお礼にもらってください。もらいものをそのまま上げるの失礼とかは言わないでくださいね。俺にはこういう方法しかないので」


 早口でまくし立てると、今度はにやにや笑われた。


「お前は不思議な奴だ」

「そうですか」

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