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国守に言われて、傍で遊んでいたおはぎを抱きしめた。もうここにはいないらしいが、周囲を警戒してしまう。国守が首を振った。
「この辺りにいたら、すでに私が反応している。そうかりかりするな」
「そっか」
国守の言う通り、いた形跡を感知出来るなら気配も分かるはず。つまり、もう遠くに行ったということだ。
「じゃあ、そのあやかしが原因でおはぎに力が戻ったんですよね。俺たちがいた時は近くにいたってこと?」
「そうだ。食われなくてよかったな」
「そんな危険なあやかしがいるんですか!?」
「いないとは言い切れない。野良のあやかしはいくらでもいる。力が付けば、神もどきになるし、人間に危害を加えることも十分にある」
恐ろしい話を聞いてしまった。電波を求めて二度も行ってしまった自分も怖い。無知とは時に暴力になる。あやかしの姿は見えなかったが、もしかしたら姿を消すことが出来る類かもしれない。どんなあやかしにせよ、二度とエンカウントしないことを望む。
「他のあやかしに作用する程力を蓄えているあやかしが存在することを察知出来たのは収穫だ。お前が私の家に来て一番役に立った」
「そですか。それはよかったなぁ」
家事はわりとしているのだが、それはカウントされていないらしい。厳しい宿主だ。それくらいここにいたあやかしの存在が大きいともとれる。
「まあ、危ない輩ではないだろう。それか、お前がよほど不味そうに見えたか」
「不味いなら不味いでいいです。死にたくないし」
国守にじろじろ不躾に観察される。非常に居心地が悪い。
「よし、お前であやかしの居場所を突き止めるか」
「なんでそうなるの!?」
脳内のどの回路を通したらその結果になるのか詳細を教えてほしい。教えてもらったところで解決はしないが。清仁は懇願した。
「俺、食べられなかったから、あやかしからしたら不味いんですよ。だから、俺を囮にしたって出てこない」
「別にあやかしをどうこうするつもりはない。上が依頼しない限りはな。ただ、現状は把握した方がいい。お前、そのすまあとふぉんで感じ取れるのだろう。電波とやらが入ったらすぐ知らせろ」
「俺の安全については無視ですか」
「食べられないのだから問題無い」
昨日はたまたま食べられなかっただけかもしれないのに。清仁の不安をよそに、囮作戦は決行されることとなった。居候は予想以上に立場が低かった。
とはいっても積極的に探すわけではなく、散歩時にスマートフォンを持って歩き、たまに電波が入っているかを確認する程度と決まった。ホラー展開で怖い方にわざわざ行かなければならないかと思っていたので安心する。
おはぎはすでに人型になれるまで力が戻ってきているので、おはぎが人型になったところでそこにあやかしがいるとは限らない。結局スマートフォン頼み。かなり地道だ。
「今日のところは帰る」
「はい。付き合ってくれて有難う御座います」
清仁の後ろで冷たい風が一つ吹いた。




