5
「遅かったな。どこぞれ野垂れ死んでいるのかと思った」
「それが聞いてくださいよ」
国守に今日のことを興奮しながら話してみたものの、Wi-Fiや電波の概念を上手く説明出来ず、悲しみは全く伝わらなかった。しかし、おはぎの変化については興味を示したらしく、狐姿の仙までやってきておはぎを観察した。
「仙、おはぎの状態をどう思う」
『今朝までと何も変わりませぬ』
「だろうな。私も何も感じん」
これでは清仁の白昼夢説が濃くなってしまう。清仁が慌てて提案をする。
「じゃあ、明日仙さんも行きましょ。なんなら国守さんも」
「しかし、二度目はおはぎの変化は無かったのだろう」
「一度あったんだから、またあるかもしれないじゃないですか」
「ふむ、一理ある」
いつもなら清仁の意見なんぞ一蹴されるのに、珍しく国守が意見を聞き入れてくれた。一つお手伝いをして褒められた子どものように清仁は嬉しくなった。
『小童の戯言もたまには付き合ってやらんと、拗ねて暴れる。主、いってみましょう』
「そうだな」
「仙さんから見た俺ってそんな感じなんだ……」
三十代にして小童と言われるのは心外だが、あやかしからすれば人間の数十年などあっという間なのかもしれない。仙が何歳かは知らないが、主である国守の何倍も生きている可能性は十分にある。
なんにせよ、自分の提案が通ったことを素直に喜ぶ。呼応して、おはぎもぴょんぴょん飛び跳ねた。すかさず動画を撮った。
翌日、全員で古墳を目指して出発した。朝方おはぎが人型に戻りはしたが、まだ万全ではないので、力を蓄えてもらおうと今は兎の姿でいる。
古墳まで近くてよかった。もし遠ければ、途中で飽きて帰られてしまったかもしれない。
「ここか」
「はい」
昨日と同じ場所に立つ。古墳だ。どこから見ても古墳以外の何ものでもない。
──古墳パワーよ出ろ出ろ!
そうしないと、清仁の立場が悪くなる。国守が歩いている横で清仁は必死に祈った。
「ふむ」
「ど、どうですか」
国守が両手を組む清仁に振り向く。
「無いな」
「無い、無いですか」
「古墳に特別な何かは無い」
「無い……」
無い無い言われて気分が地に這ってしまった。本当に白昼夢だったのか。清仁は自分が信じられなくなった。その時、一つの希望が降る。
「しかし、何かがいた形跡はある」
「やったぁ!」
「お前、単純だな」
「でも、何かはいたんですよね。何か分からないけど、何かいたってことは、おはぎの変化もスマホの電波も俺の妄想じゃなかったってことですよね!」
小躍りして喜ぶ清仁を国守が可哀想な目で見る。どんな風に見られたっていい。またその何かに出会えれば、現代との繋がりが生まれるかもしれないのだ。
「その何かって、少しでも分かりますか?」
国守が小首を傾げながら、二三歩歩いて言った。
「恐らくはあやかし……しかも、相当な」




