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画面は一見いつもと変わらない。日付もタイムスリップした八月のままだ。時間のみ動いている。しかし、ずっと圏外だった表示が、僅かながら圏内になっているのだ。
「マジか……マジだ……うそ、古墳にWi-Fiあんの!?」
信じられない。ここはインターネットが普及する千年以上昔だ。どう考えても有り得ない。しかし、有り得ない事実がここにある。
「ヤバイ。そうだ、誰かに連絡……冗談だと思われるか。なら、とりあえず今令和がどうなっているのか」
ネット接続を試みるが、電波が弱すぎて検索サイトにすら接続できない。SNSも同じだ。
あともう少しなのに。もどかしい気持ちで清仁が立ち上がり、電波を求めて古墳周辺を彷徨う。
「……うう、ダメだ」
十分程して、どうにもこうにもならず清仁が崩れ落ちる。ずっと使えないものばかりだと思っていたので、急な期待からの落胆は心臓に悪い。胃に穴が開いたかもしれない。胃カメラを所望する。
「は~~」
思わずため息が出てしまう。現代との繋がりが生まれたというのに。おはぎがしゃがんで、清仁の膝を撫でる。
「あるじ、ねる?」
「ううん。ちょっと疲れただけ。でも大丈夫。他の場所散歩しよっか」
「うん」
おはぎに悟られたくなくて元気な振りをする。他の古墳に行けば、この古墳より強い電波があるかもしれない。一縷の望みをかけ、パンフレットを参考に次の古墳を目指した。
「うん、分かってた」
結果、電波が出ていたのは最初の古墳のみだった。歩けそうな場所が二か所あったので両方行ってみたが、空振りに終わった。
「まあ、運動になったし、一か所でもおはぎがパワーチャージ出来る場所があるって分かっただけいいか」
おはぎはというと、古墳を離れて数分で兎に戻った。まだ、清仁自身の力は戻り切っていないらしい。
「さて、そろそろ家帰るけど、帰り道だし最初の古墳でチャージしてから帰ろう」
『ぷ』
おはぎを連れて古墳に戻る。もしかしたら電波が強くなっているかも、なんて思ってはいない。いや、少し思っている。緊張しながら古墳に近づくと、電波はうんともすんとも言わなかった。おはぎも人型にならなかった。
「なんッッッでだよ!!!」
まるで狐につままれたみたいだ。今日の一日は幻だったのか。随分長い白昼夢だ。ということはまだ夢の中か。泣きそうになりながら頬を抓るが、強い痛みと悲しみが返ってきた。
「痛い!」
一人コントか。虚しい。観客は可愛い家族の兎のみ。ツライ。清仁はおはぎを抱っこし、とぼとぼ国守宅へと帰った。




