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「北野さんって言うんだ。また会うと思うからよろしくね」

「うん」


 北野がおはぎのことを詮索してこなくてよかった。何も説明していないのにそのまま受け入れてくれるとは、とても懐が広いと感心する。本当は清麻呂のようにおはぎの正体を明かしたいが、式神の存在が農民にまで知れ渡るのは良いことではないだろう。


「さて、着替えよう」


 家の中に戻り、改めて服を脱がせる。新しい服を着てもらおうと思ったら、おはぎがぽんと兎に戻った。


『ぷ』

「あれ、おはぎ?」


 不思議に戻ったが、おはぎが消えたわけではない。特に考えず、清仁は汚れた服を手洗いした。


 一人暮らしだったので家事全般出来るつもりだったが、令和では洗濯機に頼り切っていたので、手洗いの大変さをここに来て痛い程実感した。服がとにかく大変で、洗うのも絞るのも、干すのまで大変だった。重いし冷たい。それに晴れないと干せないし、晴れてもすぐに乾くわけではない。家事をするこの時代の人は全員隠れマッチョなのではないかと勘繰っている。


 おはぎの服は子ども用なのでまだマシだ。明日までには乾くだろう。その辺を散歩していたおはぎを呼び戻し、今日の仕事は終了した。疲れた。もう寝よう。清仁とおはぎは日向ぼっこをしながら、縁側で昼寝をした。


 半刻程で目が覚めた。まだ陽は落ちていない。


『ぷ』

「おはぎ~、夕食はまだ……あれ?」


 おはぎを見る。兎の姿のままだ。全然おかしくない。おはぎは兎である。しかし、人間の姿になれてからは、日中のほとんどを人型で過ごしていた。こんな風にいきなり兎に戻り、長時間そのままなのは初めてだった。


「今日は兎の気分なの?」

『ぷ』


 兎では意思疎通が難しく、おはぎがどう答えたのか分からなかった。仙までに達すれば、獣の姿でも人語を操ることが出来る。しかし、修行をしていない一般人の式神なので、おはぎの力自体が強くなければそこまでに至ることはないと国守が言っていた。


「まあ、そんな日もあるか」


 大根の葉を取り、夕食の準備を始める。仙がやってきて、鶏肉を渡された。今日は肉が食べられるらしい。おはぎの分も大根の葉を煮て皿に盛る。人型でも草食のままなので、肉は二人分だけだ。


「なんだ。兎に戻ったのか」


 夕食の時間になってもおはぎは兎のままだった。国守も違和感に気付いたらしい。清仁が頷くと、国守が葉を食べるおはぎに視線を送った。


「なるほど。一時的に霊力が弱まっただけだ。心配するな」

「そうなんですか」

「しばらくすれば人型になる」


 国守の話では、清仁の霊力が元々低いので、式神が長い間人型を取るのは難しいらしい。理由が分かってよかった。これを機に修行でもするかと提案されたので、丁重に断っておいた。そこまでは求めていない。清仁はあくまで令和の人間なのだ。

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