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「その、我儘な相談なのですが」

「やらん」

「まだ内容言ってませんけど」

「おはぎの服が欲しから金をくれ、だろう」

「その通りで御座います」


 自分でも我儘だと理解している。そもそも自分は居候であり、衣食住の内二つを世話になっている。服についてはスポンサーがいるので大丈夫だが。


「あ、清麻呂さんの袋」

「どうした」


 服について考えていたら、清麻呂から初日にもらった袋を思い出した。あの中は金だと言われていた。慌てて鞄を漁る。


「あった!」


 中身を開ける。思った以上の貨幣が入っていた。仙を通して国守からもらったお小遣いよりずっと多い。こんな金額を初対面に渡したらしい。やはり清麻呂が貴族だ。


「よし、これでおはぎの服が買える。国守さん、お金持ってたから大丈夫です」

「清麻呂殿から頂いたものか」

「はい」

「お前のものだから好きに使え。くれぐれも調子に乗って無駄遣いするな」


 仙と同じようなことを言われてしまった。三十代なのに、無駄遣いするように見えるのか。


「盗賊に襲われるな。私が迷惑する」

「承知しました。いってきます」

「これに着替えさせてから行け」

「うぷッ」


 頭に布を投げられた。見てみると、子ども用の服だった。


「私のだ。これならそれよりは目立たないだろう」

「あ……有難う御座います」


 国守なりの気遣いを感じて素直に礼を言う。ツンツンツンツンデレくらいなので、たまのデレを浴びて戸惑ってしまった。おはぎに国守のお下がりを着せる。可愛らしい男子に仕上がった。


──おお、これならただの貴族の子どもっぽい。でも、男子の服だから、やっぱり可愛いのを買おう。


 もしおはぎがこちらの服を望むならそれでもいいが、せっかくなので、女児の恰好も見てみたい。すでに親バカ全開で、財布の紐が緩まぬよう清仁は深呼吸した。


「じゃあ、改めていってきます」

「ふん」

「いてきます」

「いってこい」


 清仁はおはぎの手を握り、二人で市場へと向かった。


「良い服買おうな~」

「いいふく」


 おはぎが頷く。可愛い。そこではたと気が付いた。


「服って売ってるのかな。もしかして、布か? それをどこかで仕立ててもらうのかも」


 貴族が着る高級な服が市場で大量に売っているとは考えにくい。それならば、すでに服がある貴族の家で古着を買った方がいい。思いつくのは清麻呂しかいないが、清麻呂からもらった金で清麻呂から古着を買うという、些かおかしいというかどうしようもない状態になる。


「言いづらいなぁ」


 身分の高い貴族の知り合いは他にあの青年しかいない。あちらはあまり関わりたくないのと、家が分からない。


「裁縫が出来る知り合いがいればいいんだけど」


 そこでふと思い立ったのは北野だった。彼女なら、貴族より家事に精通しているかもしれない。とりあえず、頼むための布を買おう。


「ちょっと待ったぁ!」


 あと少しで市場というところで、牛車が二人目掛けてのろのろと追いかけてきた。急いでいるのだろうが、牛なのでやはりのんびりしている。待っていると、予想通り清麻呂が牛車から降りてきた。


「その買い物、待った!」

「なんで知ってるんですか」


 盗聴器でも仕掛けられているのかと思ったが、ここは長岡京だった。訝し気に清麻呂を見ていると、でれでれした顔でおはぎを見てきた。

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