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 清仁には確信があった。兎と少女では似ても似つかないが、艶やかな黒髪と茶色の瞳がおはぎと同じだった。何より、おはぎとの繋がりをこの少女にも感じたのだ。


「うん。おはぎ」

「こッ」


 まさか会話が出来るとは思っておらず、我が子の急激な成長に戸惑い、そして悶えた。


「うおお、言葉を発するなんて……娘が可愛いすぎる……」


 両手で顔を覆いブンブン振る清仁の様子に早良親王が一歩距離を取る。


『お前、気持ちが悪いな』

「いいんです。おはぎちゃんが可愛ければなんでも」

「おはぎ」

「うんうん、お名前言えてえらいね~」


 早良親王が舌打ちをして立ち上がる。


『空想の家族ごっこに付き合ってられん。我は畑の世話をする』


 そう言って井戸水を汲もうとしたが、桶に触ることは出来なかった。


『何故だ!』


 憤る早良親王だが、幽霊なのだから触れなくとも仕方がないだろう。幽霊歴が長いのに今さらなことを言い出して清仁が呆れた顔をする。


「早良親王生きてないだろ」

『違う。我の位になると、物を触ることは出来るのだ』

「そうなの?」


 幽霊に位があるのか。あったとしても、早良親王はそこまで上ではないと思う。早良親王が地団駄を踏む。


「じゃあ、なんで触れないんだろ」

『我が聞きたい! そうか、これは国守の呪いだ』

「多分違うと思いますよ。あんた、なんでも呪いって言うね」


 分からないものは神の仕業か呪いかのパターンが多い。彼は後者か。


 それにしても、普段は触れるというのが本当であれば、この現象は確かに説明がつかない。早良親王が騒ぐのも仕方がないと言える。


「はいはい。とりあえず水やりは俺がやるから。ね?」

『我を幼児のように扱うな! 水やりはしろ』

「はぁい」


 国守が言っていたが、やはり早良親王の実際の力具合は弱いのだろう。不良中学生と同等だと思えば全く怖くない。清仁が水やりを終えると、監督の如く頷いた早良親王がようやく消えてくれた。


「はぁ。疲れた……なんで俺の周りは一人でどうにか出来ない人が多いんだ。その点ではおはぎちゃんの方が大人だね」

「おはぎ、おとな」


 おはぎが頬を赤くさせ、両手を挙げる。可愛い。


「おはぎちゃん見てると語彙力ゼロになっちゃうよ」

「だめなこと?」

「ううん、良いこと!」


 いつものくせでおはぎを抱き上げる。人間の姿になったと言えど、幼児だからまだ十分に軽い。そのまま清仁は家に入り、おはぎの成長を国守に報告した。


「それがおはぎか」

「そう。可愛すぎて倒れちゃうでしょ?」

「倒れないが」

「なんで!?」


 おはぎの可愛さがうまく伝わらず、今度は清仁が地団駄を踏んだ。


「おはぎ、かわいい?」

「可愛い! 可愛い選手権宇宙一!」


 この子が嫁に行く時まで絶対守り続けると清仁は心に誓った。

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