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「というわけで、畑作っていいですか」

「よい」

「やった」


 思いがけずOKがもらえ、清仁は飛び上がった。おはぎも横でぴょんぴょん跳ねている。


「庭なら余っているから、好きに使え。邪魔にならないところにな」

「了解です!」


 こんなにあっさり許可が下りて何か裏があるのではないかと勘繰るが、畑を作ることでこちらにマイナスになるとは考えにくい。むしろ、お互いにプラスなはず。清仁は意気揚々と庭に出た。


 従五位下に与えられた土地はわりと広く、畑を作るのに十分な広さがある。今は全く何にも使用していないため、どんな形にも加工出来る。


「さて、まず土を掘り起こすところからだから、鍬かな」


 畑を耕した経験は無いが、種を蒔きやすいように土を柔らかくすることは分かる。玄関に戻り国守に鍬の場所を訪ねると、首を振られた。


「鍬は無い。井戸はあるから水は汲める」

「鍬無いんですか……」

「貨幣が余っているだろう。買ってこい」

「はぁい」


 畑を作りたいと言い出したのは清仁側だ。仕方ない。畑は後にして、まずは道具を揃えよう。


「これで大根が育てば野菜を買う手間が省ける。いつかはやらなければと思っていたが面倒でやらなかったんだ。ちょうどよかった」


 なるほど。何故国守が乗り気だったのかをようやく理解した。清仁が元来た道を戻る。市場なら北野の家よりずっと近いからマシだ。


「市場は正午からだからな」

「分かりました。いってきます」


 門を出る時にそう言われた。となると、まだ昼ではないということだ。スマートフォンを確認すると、確かに十一時半だった。この分なら少し待つだけだろう。


 ここに慣れ過ぎて、スマートフォンを見る時間が減った。長岡の時代に慣れている自分が少々怖い。しかも最近、魔除けの札のおかげか、早良親王が出てこなくなった。このまま消滅してほしい。


「さて、鍬を買うぞ~」


 市場の近くまで来ると、入場待ちの列が出来ていた。最後尾に並ぶ。すぐに後ろにも人が並ぶ。いつでも市場は活気がある。この分だと、たいした用事も無いのに市場に来ている人もいそうだ。


「せっかく来たから種があったら買おう」


 もらったのは大根の種だけだ。他の野菜も育てられたらもっと楽しくなる。


「北野さん家の畑はトマトとかピーマンが無かったから、まだこの時代だと無いんだろうな」


 いろいろ育ててみたいが、そもそもどんな野菜があるのか分からない。正午になり入場した清仁は鍬とともに種を探し歩いた。


 種はすんなり見つかった。鍬が売っている店に置いてあったのだ。農業用の店だからだろう。


「これは何の種ですか?」

「里芋です」


 芋類があったら、料理のレパートリーが増える。しかし、種まきの時期を聞いたところ合わなかったため見送ることにした。


「有難う御座います」


 結局、種はネギを買った。鍬と一緒に会計する際、はたして金が足りるのか分からず不安だったが、どうにか事なきを得た。余った貨幣を観察する。


「和同開珎だっけ……こんな古いお金使った現代人なんて俺だけかも」


 感慨深げに息を吐く。それを大事に仕舞い、改めて国守宅へと戻っていった。

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