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「見合い……?」


 突然訪ねてきて突拍子もないことを言い出した清麻呂に、清仁が同じ言葉を投げ返す。

 今はお手玉を投げてはおはぎが兎パンチを繰り出す遊びをしている最中だった。せっかくのお楽しみ中に、なんて爆弾を投げつけてくるのだ。


「ウソでしょ?」


 嘘だと言ってほしい。嘘じゃなかったら、清麻呂の頭を疑う。


「嘘なものか。清仁も良い歳だろう。妻の一人や二人、いた方がいい」

「いや、一人で十分……というか、俺、ここの人間じゃないんですけど」


 偶然やってきただけで、長岡京に定住するつもりはさらさらない。今日にだって帰ることが出来るなら帰りたい。それなのに、この男は何を言い出すのだ。やはり頭が湧いたのか。熱中症にはならなさそうな気温だけれども。


「しかし、帰る手立ては無いのだろう」

「それはそうですけど、こう、希望を捨てない的な気持ちくらい持たせてください」

「そうか……」


 寂しそうな中年という図がずしりと心にのしかかる。何故、中年というだけで哀愁が漂うのか。誰か論文でも書いてほしい。


「誰かに人を紹介したいなら、広世さんはどうです」

「広世はすでに奥方がいる」

「あ、そうですか」


 早々に詰んでしまった。

 はっきり言って、清仁に結婚願望は無い。ここが令和だとしてもだ。一人を一生想って支えていく未来が予想出来ない。いつか来るのかもしれないが、来ないなら来ないでいい。

 とりあえず、今はこのお見合い紹介おせっかいおじさんはどうにかせねば。


「してみたらどうだ」


 後ろから国守の声がした。睨むと、予想通りにやついた顔をしている。実に憎らしい。


「あ、国守さんは? 一人でしょ?」


 誰かに白羽の矢を立てれば逃げられるはず。清仁が国守を引っ張って提案した。


「以前勧めたことがあったのだが、今後それを言ったら呪うと言われてしまって」

「それは諦め案件ですね」


 陰陽師の本気程怖いものはない。彼の力が本物だというのを清仁は身をもって知っている。


「いやあ、でも、そんな気ないですし、そういう場に行くのも面倒だから」

「面倒ではないぞ。もう連れてきている」

「気が早すぎる!」


 準備も何も無いままに、清麻呂が外で待っていた女性を連れてきた。清仁の情緒が死んだ。


「なんでそういうこと」

「男は奥方を養い、子を成してこそだ。清仁にも幸せになってほしい」


 時代の流れを感じる。しかし、昭和まではこういう男性が大多数だったのかもしれない。自分の幸せは自分で決めるのに。


「はじめまして、清仁様。北野きたのと申します」

「はじめまして……」


 突如始まった悪い結果にしかならない見合いに、清仁は相手の女性に同情した。

 完全に面白がって見合いの席を用意してくれた国守が「ごゆっくり」と部屋から出ていった。清麻呂はさらに前に出ていっている。気を利かせるのが早すぎる。


 どう切り出したらいいものか。北野を傷つけたいわけではない。穏便に終わらせて、にこやかに帰ってくれる方法はないものか。


 まずは何か話題を。彼女の緊張を解き解すような……そう思ったところで、自分の方が緊張していたことに気が付いた。


──だって、お見合いなんてしたことない!


 合コンや女性を含む飲み会なら経験がある。お付き合いの経験もある。しかし、一対一で初対面の人と恋愛的な目線で探り合いながら会話するなんて、高度過ぎて眩暈がする。

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