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市場に足を踏み入れる。一段と活気が増した。こんな場所があったのか。道理で、いつも歩く道に店が全然無いと思った。
「何を買うんですか?」
「食べ物。食い扶持が増えたから、予定より早く無くなった」
「おわぁお……」
原因は痛い程分かる。そして、絶賛ニートなので、国守のお金を減らしているのが心苦しい。していることと言えば、家事を手伝っている程度だ。
「荷物持ち頑張ります」
「せいぜい追い出されないようにな」
「ええ……」
やっぱり働いた方がいいのだろうか。働けるなら、清仁だって働きたい。令和でもサボることなく、十年必死に働いてきた。その結果がこれなのだけれども。
「我は必要な物を見繕ってくる。お前はその辺をふらふらしていろ。迷子にはなるな」
「わっかりました」
幼児扱いがひどいと思うが、狐にとっては三十代のただの人間など赤子と同じだろう。言うことを聞き、市場の中で大人しくふらつくことにした。
市場は人が溢れていて、外とは違い貴族の恰好でも溶け込める。清仁と同じような恰好もいる。
──貴族も買い物来るんだ。まあ、貴族専用の市場とか無さそうだし。
売っている物は多種多様だ。食べ物ばかりかと思っていたらそうでもない。何より驚きだったのが、客と店側が物々交換していることだった。
この時代はすでに貨幣があった記憶がある。勉強上の話だが。実はまだ貨幣が無かったのだろうか。新たな発見だ。
「お役人様。こちらはいかがですか」
店を見ていたら、商品の宣伝をされた。この時代の人間だと思われて少々嬉しい。しかし、清仁は手ぶらだ。
「良い品ですね。他のも見て回ってから考えます」
「はい。是非またどうぞ」
それらしいことを言って躱す。清仁は微笑みながら、自然にその場を去った。
ところで、あれは何だったのだろう。それすら分からなかった。何らかの液体だった。
──油、かな?
「あ、仙さん」
「なんだ」
「あそこで宣伝されたんですけど、物々交換出来る品物持ってなくて」
「欲しいのか?」
「いや、欲しいわけじゃないですけど。買い物してみたかったなって」
ただの好奇心である。清仁の態度に苛ついた仙が清仁に袋を投げつける。
「痛ッ何するんですか」
「それで何か買えばよかろう。高い物を買うな、おかしな物を買わされるな」
「子どものおつかいか。でも、有難う御座います」
随分小さい袋だ。こんな小さい物で交換してもらえるだろうか。中を覗くと、貨幣が入っていた。
「お金あるんじゃん!」
「あるが?」
「物々交換かと思ってました」
「交換でも貨幣での購入も出来る」
どちらも可能だなんて知らなかった。ある意味、現代より柔軟性があって良いかもしれない。
「交換は持っていくのが面倒で、我は好まん」
確かに、周りを見ると米や布を持っている者が見受けられるが、重さもあるし、近くに住んでいなければかなりの負担だろう。
「なるほど。貨幣様様ってことか」
「我は帰る。ほれ」
仙が購入物を放る。受け取ると、ずっしり重量を感じた。荷物持ちというのは冗談ではなかったらしい。




