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「神の君ィ……!!」

「わぁああ」


 じりじりにじり寄る青年が怖い。恐怖でしかない。ホラー映画に転生してしまった気分だ。さしずめ青年はゾンビになりたての人間か。

 本音を言えば逃げたい。目線も合わせたくない。ただし、それをしたら、後々もっと嫌な目に遭いそうだ。


「やあ」


 死んだ目で右手を挙げて挨拶する。


「捻くれた私なんぞをまたもや御君の瞳に映してくださるとは、私は都一の幸せ者に御座います。それなのに私は何も貴方様にお返しすることが出来ず……捧げられるとしたら、このちっぽけな命くらいで」


「わぁああ生きようね!」


──今日も変な感じで来たぁ!


 彼を見ていると、どんなに励ましても、元からの気質があっさり百八十度変わるのは難しいと悟る。それでも、目の前で死なれるのは嫌なので、今回もどうにか一歩でも前向きになれるようこちらがテンションを上げていく。非常に疲れる。


「それにしても今日の服装……正四位下で御座いますね……」


 ぎゅんッ。


 一気に心臓が縮こまる。やはり、服装で位が分かるらしい。そんなに分かりやすいのか。清仁には色の違いしか分からない。


「正四位下に私の知らない人間はおりません」

「はうッッ」


 心臓が十分の一になった。このままでは青年ではなくこちらが死んでしまう。


「全役人の名前を覚えております」


──一覧暗記してる人来ちゃった!


「そう、なんだ。すごいね」


 呼吸が浅い。首を絞められている気分だ。青年は暗い顔で笑っていた。


「へへ、ひひ、神の君に褒められると、私も存在していいのだと勘違いしてしまいます。恐縮です、えへ……」

「勘違いじゃないよ。君は生きていいんだ」


 だから、機嫌良く早いところ去ってほしい。青年が清仁の顔を上目遣いで覗いてくる。恐怖。


「貴方は貴族ではない。しかし、その恰好……つまり」

「つまり……!?」


「そういう設定で御座いますね! 神様のままでは目立ってしまう。だから、当たり障りのない貴族に化ける。素晴らしい発想です」


「そ、そっか。うん、なんでもいいけど、うん。そう。ちなみに、和気清麻呂さんの親戚なので、そういうことで」

「なるほど。和気殿の……承知しました。実に羨ましい……」


 ツッコミどころしかないが良い具合に青年の中で納得してくれているので、曖昧に肯定しておく。タイムスリップして初めて会ったのが、彼ではなく和気清麻呂で本当に助かった。もしもこの青年と出会っていたら、今以上に複雑になるだろう。


「じゃあ、そろそろ」


 どうにか落ち着いたところで去ろうとしたら、青年が清仁の足元を凝視し始めた。新たな冷や汗が出る。そこはおはぎがいる場所だ。


──もしかしてこの子、おはぎちゃんのことを……!


 おはぎのことは毎日散歩させているが、誰もおはぎのことは視えないようだった。それなのに。


「この兎は御君の御使いに御座いますか。なんと愛らしい」

「そうでしょ! おはぎちゃんはすごい宇宙一可愛いから!」


 おはぎを褒める人間は全て良い人である。青年の好感度が一気に上がった。

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