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「国守さん。着方が分かりません」

「正四位下様なのにか?」

「嫌味がすごい」


 昨日朝服をもらってから、国守の態度がより一層塩化した。国守が位に執着しているところを見たことがないので、単にいきなり自分より出世した清仁を揶揄っているのだろう。そう思いたい。


 しかし、はいそうですかと引き下がるわけにはいかない。着方が汚い貴族など目も当てられない。恥ずかしくて引きこもりになる。長岡に来てまで引きこもりなんかやりたくない。


「仕方がない。清仁は畜生道から抜け出してようやく人間になったばかりだからな」

「ひどいけど宜しくお願いします」


 ここは下手に出ておかないと、自分が困ることになる。大人しく手助けを待っていたら、国守は狐を出して去ってしまった。残された一人と一匹が顔を見合わせる。


「なんで?」

『知らぬ』


 長い長いため息を吐かれる。清仁はため息選手権一位のパフォーマンスを死んだ目で見守った。


『主の願いだ。今回限りだぞ』

「え」


 狐がそう言ったかと思うと、突然煙に覆われ、中から一人の人間が現れた。


「もしかしなくても、狐さん?」

「そうだが?」

「人間になれるの!?」

「我くらい高貴になるとなれる」


 自慢気に笑われる。一重の流し目に薄い唇が、確かに狐っぽいと言われたらそうかもしれない。


「国守さんと似た格好ですね」

「主と我は表裏一体だからな」


 清仁が感心した様子で狐を眺めていると、狐に手招きをされた。大人しく狐の目の前に立つ。


「黙って立っておれ。動くな息をするな」

「む……」


──無茶なこと言うな!


 言い返したかったが、声を出したら本当に暴力を振るわれそうだったので黙っておく。主の命令は絶対らしく、意外にも繊細な動きで丁寧に服を着せてくれた。


「これでよい」

「有難う御座います」

「二度と我を困らせるな」

「善処します」


 後が怖いので、何度も礼を言って狐と別れて外に出る。おはぎも出した。初めての服はなんとなく違和感があってもぞもぞする。


 今までとは違う服で落ち着かず、自分が浮いているのではないか不安になる。

 もし、偽貴族だとバレたらどうしよう。


──いやいや、都には貴族が溢れてるんだからそんなことにはならないか。黙って、貴族っぽく歩いていればいいんだ。


 そこではたと気が付いた。ちゃんとした貴族が傍にいないことに。一緒にいると言えば、清麻呂と国守。清麻呂の息子は一瞬しか会話したことがないので参考にする程知らない。闇の陰キャ青年貴族は却下だ。


 清麻呂はただのお散歩おじさんだし、国守は見た目こそ貴族だが、精神を抉る煽りキャラが強すぎて貴族らしい姿が一つも思い出せない。

 とりあえず、背筋を伸ばしてゆったり歩いていればいいだろう。きっと貴族は走らない。


「ん?」


 向こうから見知らぬ貴族がやってきて会釈をされた。清仁も倣って返す。次に来た貴族も同じだった。清仁は冷や汗を掻いた。


 なんだか、ものすごく悪いことをしている気分になった。朝服を脱いで自分は庶民だと叫びたい。しかし、ここで脱いだらそれこそ即刻お巡りさん案件である。


 遠くに牛車が見えた。牛を使うくらいの人間がいるということだ。なるべく近づかずに去ろう。清仁が次の角で曲がろうとしたら、聞き覚えのある声がした。


「神の君……ッ」

「わあ……」


 闇の君が震えて立っていた。

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