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 湯という響きからして、お湯に関係することではないかと予想を付ける。もしかしたら、風呂かもしれない。風呂の無い人に寺が提供する。そう考えるとそうとしか思えなくなった。そこで、自分がタイムスリップしてから一度も風呂に入っていない事実に気が付いた。


「く、臭いかもしれない」


 一度、余った布を放り投げられたので、濡らして体を拭いたことはある。ただそれだけだ。髪の毛も洗っていない。運動をしていないのでたいした臭いではないかもしれないが、たいした臭いかもしれない。清仁は一気に不安になった。


「付いていってみよう。おはぎちゃんもおいで」


 予約が必要なのか分からないまま、清仁は庶民が入っていった入り口をくぐった。


 寺の中は沢山の人がいた。ほとんど庶民で、たまに帽子を被った役人も見受けられる。


──あれに入るのか? 誰も入っていないけど。


 大きな窯には湯が張ってある。それを眺めていたら、近くの人たちが服を脱いで座り始めた。


「ふう、何日振りか」

「気持ちいいですね」


──サウナか!


 ようやく窯に誰も入っていない理由が分かった。あれは入浴するためではなく、室内の気温を上げ、蒸気を出して蒸し風呂にする役割なのだ。よく見るとぐつぐつ煮立っている。あの中に入ったら一瞬で涅槃だ。


 皆自由に寛いでいるので、清仁も真似をして座る。服は横に畳んで、おはぎがその上に座った。


 湯に浸かることは出来ずとも、老廃物が流れていくのを感じる。何日振りかの風呂に清仁は心身ともに癒された。


「はぁ~……」


 汗を拭くために持っていた布で体を拭いて服を着る。これでシャンプーがあれば完璧だ。こんな良い場所があったなんて。国守は知っているのだろうか。知らなかったら教えよう。清仁はスキップしながら家に戻った。


「ただいま戻りました!」

「五月蠅い」


 ただいまを言っただけで罵倒されようが、今の清仁には何も効かない。何故なら、サウナ風呂によって清められ、心に余裕のある無敵状態だからだ。


「国守さん、知ってます?」

「知らん」

「ちゃんと聞いてください。俺、すごいところ見つけたんです」

『ぷ』


 さっそく家主に報告をする。


「なんと、お寺にサウナ……湯屋があったんですよ。そこで体の汚れを落として綺麗になる。体の臭いも取れる。しかも気持ち良い!」

「ほお、それは良い」

「でしょう!」

「風呂なら家にあるがな」

「なんて言った!?」


 良い反応だと思って気分が良くなっていたら、とんでもない爆弾を落とされた。清仁が口をパクパクさせる。


「は!? だって、お風呂あるって言ったことないじゃないですか」

「言っていないだけで、ある」

「あるのかよ!!」


 清仁が全身でツッコミを入れる。


「うそぉ……じゃあ、俺に体拭く布くれたのなんだったんですか」

「風呂に入ると言わないから」

「お風呂があるって知らないからだよ!」


 飄々とした言い回しに、どっと疲れが襲う。せっかくサウナに入って元気になったのに、プラマイゼロどころかマイナスである。


「なんだ、風呂が好きなのか。それなら入ればいい」

「はい……有難う御座います……」


 一般庶民にとってお湯無しのサウナ風呂が主流なのだとしたら、きっと風呂は貴重なものなのだろう。なんだかんだ言いつつも、それを許してくれる国守に礼を言いつつ、清仁が本日二度目のお風呂タイムを堪能した。

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